4年前に、知りあいの台湾人が日本に遊びにきた。
26歳の2人組の女の子で、それが初めての日本旅行。
ひっさしぶりに再会したとき、日本の第一印象をきいてみた。
「日本にきて最初に感じたことってなに?」
「空港から出るバスの窓が大きし、とてもきれいで驚きました。そのおかげで日本の街の様子がよく見えました」
別の子もこう言う。
「窓はよくみがかれていたから、写真がきれいに撮れました。それがよかったです」
「台湾のバスはちょっとねえ」と言って、2人で顔を見合わせて笑う。
台湾人は、日本人よりもハローキティを愛する人たち
日本に住んでいたタイ人の友人は、タイから来た母親に日本を案内していたときのことを話してくれた。
彼の母親と母親の友人は、日本のタクシーやバスの運転手の姿に驚いたり感激したりしていたという。
「タクシーの運転手が帽子をかぶってる!」
「革靴をはいている!」
「清潔な制服を着ている!」
「バスやタクシーの運転手が、白い手袋をしてハンドルをにぎってる!」
というぐあいに。
「タイのタクシーやバスの運転手は、汚れたシャツやTシャツ、それにはだしにサンダルですから」
そう言ってタイ人の友人が笑う。
まあ、タイは確かにそうだった。
「タイで、白い手袋をしたドライバーに運転してもらうなんていったら、一部のお金持ちだけですよ。日本のタクシーは高いですけど、ウチの母親は『リッチな気分になれた!』って喜んでました。白い手袋をつけたドライバーの手の写真まで撮ってましたし」
ということらしい。
タイの観光バスの運転手。
客が博物館に入っているあいだ、そこらにハンモックをひっかけて携帯で遊んでいる。
でも、タイではこれはふつう。
マイペンライ(問題ない)!
これはベトナムのタクシー。
手前にぶらさがっているのはうなぎパイ。
じゃなかった。観音菩薩のお守り。
豚の置き物は、「商売繁盛」とか「お金がもうかりますように」というものだろう。
台湾人の子やタイ人の話を聞いて、海外でのバスの様子を考えてみた。
ボクが旅行したことのある国は、東南アジア・中東・アフリカの国々。
だから、ヨーロッパやアメリカといった先進国のことはよくわからない。
これらの国では、バスの窓は小さかったし何よりも汚かった。
でもそれはその国の「ふつう」。
日本と比べるのはムリがあるかも。
そうした国から日本に戻ってきてバスに乗ると、それまで旅行していた国のバスとの差はすぐに気づく。
窓の面積が大きく、まるで巨大な金魚鉢のなかにいるよな気さえする。
あ、これは言い過ぎかも。
日本のバスはもう、単なる移動手段ではない。
乗客が外の風景を楽しむことができるように、ちゃんと考えられて整備もされている。
それに、毎日の掃除や手入れを欠かさない。
お客さんを迎えるためのこうした労力を惜しまないところが、日本のバスの快適さにつながっているんだろう。
インドネシアの首都ジャカルタ
渋滞があまりにひどかった・・・。
クラクションの音が鳴りやまない。
日本のバスは運転もやさしい。
この空港行きのバスが出発する直前には、運転手が前に立って一礼してあいさつをしていた。
「本日、運転をさせていただきます~です。安全運転を心がけますので~」
こうしたあいさつをしていたのは、ボクが行った国のなかでは韓国だけ。
でもこの韓国のあいさつも、ひょっとしたら日本から伝わったのかも。
以前の韓国では、人に頭を下げたり笑顔を見せたりするといったサービスがなくて、それを韓国人に教えたのは日本人だから。
韓国の事情通である黒田勝弘さんがこう書いている。
ロッテ百貨店は韓国の百貨店の歴史に革命的な変化をもたらした。ぼくは当時、そのことを「文化革命」と書いたことがあるが、韓国の百貨店で従業員がお客に笑顔を見せたり頭を下げるようになったのもロッテが最初だった。
また百貨店に食堂街やイベント会場を設けたのもロッテが初めてだ。ワゴンセールスなどもロッテが最初に始めた。とにかく百貨店に遊びの空間を初めて取り入れたのだ。そういえば韓国の百貨店で店内の照明が明るくなったのもロッテ以降である。ロッテは元は在日韓国人の資本である。
ロッテ百貨店は日本の百貨店をモデルに韓国の百貨店を楽しく明るいものに変えた。これは革命的だった。そこでぼくは当時、ロッテ百貨店に「日韓文化交流賞」をあげたいと思ったほどだ。
日本でも韓国でも、百貨店よりも接客サービスに気を配っているところはあまりないだろう。
7時ぴったりにバスはセントレア空港に着く。
バスから降りようと、運転手のそばを通りすぎるときに声えおかけられた。
「いってらっしゃい。気をつけて」
不意に声をかけられたので、一瞬あせってしまった。
「ああ、はい」と曖昧(あいまい)な返事をしてバスを降りてしまう。
セントレアを飛び立ったら、もうこんな気持ちの良いサービスはなくなるんだろうなぁ。
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