5月19日に、イギリスのヘンリー王子とアメリカ人女優のメーガン・マークルさんの結婚式がおこなわれた。
これがそのときのその様子(ウィンザー城のセント・ジョージ礼拝堂)。
イギリス王室の公式インスタグラム(ケンジントン宮殿:Kensington Palace)
日本の女優がイギリスの王子と結婚したら、日本はどうなるか?
きっと列島が興奮状態になって、1年以上も前から、何かあるたびにテレビや雑誌が細かく動きを報じるはず。
結婚式当日になったら、どんな騒ぎになるのか想像もできない。
で、アメリカはどうか?
最近、ニューヨーク出身のアメリカ人男性と話す機会があったから、彼にアメリカの様子を聞いてみた。
そしたら素っ気なくてビックリした。
「アメリカ?もちろん、いろんなメディアが報道していたけど、大して注目されなかったよ。オレの予想だけど、アメリカ人の半分はこの結婚のことを知らないね」
日本人とアメリカ人では価値観・考え方が大きく違うのは当然としても、自国の女優がイギリスの皇太子と結婚するのだが?
まさか国民がこれほど関心をもってないとは思わなかった。
いまのアメリカ人にとって大事なことはロイヤルウェディングではなくて、トランプ大統領の言動だという。
この結婚については前に記事で書いたので、興味があったらどうぞ。
結婚式といえば、一般人がエリザベス女王を自分たちの結婚式に招待したら(たぶんノリで)、エリザベス女王と夫のフィリップ殿下が本当に来てしまった。
くわしいことはこの記事を。
天皇皇后両陛下にこんなサプライズは考えられない。
日本の皇室とイギリスの王室では、国民との距離感がまったく違うのだ。
でもそれ以上に、もっと大きな違いがあるので、これからそれについて書いていこう。
イギリスだけに限定しないで、世界の王室と日本の皇室との決定的な違いについて。
いまのイギリス王室は1714年に始まる。
高校世界史ではこう習う。
ハノーヴァ―朝 1714~1917
イギリスの王朝。スチュアート朝の断絶後、姻戚であるハノーヴァー家のゲオルグがイギリス国王ジョージ1世として即位し、開かれた。
「世界史用語集 (山川出版)」
「おい待て。今のイギリス王室はウィンザー朝だぞ」という人は大正解だ。
このゲオルグはイギリス国王ジェームス1世の孫の子(曽孫)。
彼はドイツで生まれ育ったから、英語もイギリスの習慣も知らなかった。
ゲオルグはドイツ語の名前で、イギリスでは、これを「ジョージ」と英語で呼んでいた。
こんなことは問題にならない。
「ハノーヴァー朝」と、1917年までは、そう呼ばれていた。
なんで「ハノーヴァー朝」という呼称は、その年に終わったのか?
そもそも、1917年って何があったっけ?
そう!第一次世界大戦。
このときは、1914 年から始まっていた第一次世界大戦(~1918年)の真っ最中。
イギリスはドイツとたたかっていたから、王室が敵国の名である「ハノーヴァー」であるのはマズイ。
それで1917年に、「ウィンザー」に変わった。
変更されたのは名称だけで、国王は同じ。
つまりそれまでは、ドイツ語の王朝名を使っていたことになる。
これだけでも、イギリスの国王と日本の天皇は、まったくちがうことが分かる。
海外で生まれ育ったため、日本語も日本の習慣も知らなかった天皇なんてひとりもいない。
「英語ができないイギリス国王」は前にもいた。
現在のイギリスで、とても人気のある国王リチャード1世(1157年 – 1199年)も英語を話せなかった。
十字軍の遠征でイスラーム教徒の軍隊とたたかったこの国王は、「獅子心王リチャード」と呼ばれ、敵であるイスラーム教徒からの尊敬された。
*スマップの「ライオンハート」はここから。
そんな英雄王も英語が話せなかった。
リチャード1世はイングランドで生まれたのだが、英語を学ぼうとせず、フランス語しかできなかった。
「イギリス社会入門 (コリン・ジョイス)」
この時代のイギリスとフランスの関係については、この記事をどうぞ。
日本の皇室は世界の王室と比べて何がどう違うのか、外国人の視点から見てみよう。
明治時代、シドモアというアメリカ人女性が日本にやって来た。
彼女の目に天皇や皇室はこう映った。
欧州の君主や権勢を誇る王族は、日本の統治者・天皇に比較すると成り上がり者にすぎません。皇室は紀元前六六〇年に初代神武天皇が即位して以来とぎれることなき系統を保っています。後代へ下って、現在の天帝の子孫、睦仁(明治天皇)は歴代系図から一二二代目となります
「シドモア日本紀行 (講談社学術文庫)」
日本をヨイショしているようにも見えるけど、これも外国人から見た天皇の姿のひとつ。
これと同じことを言った日本人がいる。
日本に天皇が2人いた時代、南北朝時代(1336年~1392)に、北畠親房(きたばたけ ちかふさ)という人がいた。
この人は南朝の後醍醐天皇や後村上天皇につかえた重臣だ。
その親房は「神皇正統記」という歴史書で天皇についてこう書く。
日神すなわち天照大神がながくその伝統を伝えて君臨している。わが国だけにこのことがあって他国にはこのような例はない
「神皇正統記 (慈円 北畠親房 日本の名著9 中央公論社)」
「日本では一度も君主(天皇)が替わっていない」ということには、中国の皇帝や朝鮮通信使も注目している。
歴史的には、これが日本と中国・韓国との最も大きな違いだから。
王朝が一度も打倒されなかった、途絶えなく続いているという世界史の奇跡を、一番よくわかっていないのは日本人かも。
身近にある当たり前のことに、人間はなかなか気がつかない。
シドモアのいう「神武天皇」も、北畠親房のいう「天照大神」(アマテラス)も日本神話に出てくる。
2人とも時代も国も立場もまったく違うけど、同じことを言う。
日本の天皇のルーツは神話にある。
日本の初代天皇は神武天皇で、いまの天皇は神武天皇や天照大神の子孫になるのだ。
現在の世界には神話や王室のある国はたくさんあるけど、神話が王室(皇室)につながっているの国は日本だけ。
古代ギリシャ神話の主神・ゼウスの子孫がいまでも存在していて、その国が世界有数の先進国だったとしたら?
日本とはまさにそんな国。
そういう伝統のある国で、「英語を話せないイギリス国王」のような天皇なんてありえない。
天皇は神の化身と考えられたこともあったから、人との距離が遠いのも当然。
キリスト教の考え方では、王も市民も神によってつくられた同じ創造物にすぎない。
だからイギリスでは市民革命の時、大勢の民衆の前で国王の首をオノで切断できたのだろう。
天皇を公開処刑するとか、文字にするだけでオソロシイ。
伝統が違うから、国民との距離感も違う。
おまけ
アメリカCIAの「The World Factbook」では、日本のはじまりの1つに、紀元前660年に神武天皇が即位したことを載せている。
3 May 1947 (current constitution adopted as amendment to Meiji Constitution); notable earlier dates: 660 B.C. (traditional date of the founding of the nation by Emperor JIMMU); 29 November 1890 (Meiji Constitution provides for constitutional monarchy)
だから、日本は「世界でもっとも古い国」と言われることがある。
でも残念なことに、この情報を含めてページ自体が後に削除されてしまった。
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コメント
コメント一覧 (2件)
日本でもメディアが喧伝しているだけでアメリカ人の方と同じ認識だと思います。一体何がマスメディアを駆り立てるのか不思議。
ここのコラムでも評価の高いサラディンや獅子心王リチャード、フィリップ2世。ほんとうに濃い人物達で話に出て来るのを楽しみにしております。
アメリカ人の関心はとても低いようです。
良いいもでも悪い意味でも、トランプ大統領が注目を集めていますね。
>ほんとうに濃い人物達で話に出て来るのを楽しみにしております。
ありがとうございます。そう言ってもらえるとしいです。
私自身、歴史が好きですので、これからもいろんな人物を登場させたいと思っています。