【本当は怖い三国志】劉備の「人肉食」を中国人はどう思う?

 

中国が嫌いな人はいても、中国の古典まで嫌う日本人には会ったことがない。
特に水滸伝や三国志は大人気で、いま東京国立博物館では三国志の特別展が開かれている。
*2019年9月16日(月)まで。

伝説は人びとの親しむところとなってそこから詩文や絵画が生まれ、また、関羽のように尊崇(そんすう)されて神となった武将もいた。今につながる多彩な「三国志文化」はこうして育まれていった。

日中文化交流協定締結40周年記念 特別展「三国志」

 

「三国志文化」は日本の社会に根づいている。
横浜や神戸には関羽をまつる「関帝廟」があるし、「水を得た魚」「破竹の勢い」「泣いて馬謖を斬る」「白眉」「三顧の礼」といった表現はいまでも日本語にある。
三国志もその文化も日本に伝わったけど、中国と日本の三国志は少し違う。
日本では日本人の価値観や考え方に合わせて、中国の内容に変化がくわえられているのだ。
例えば日本の三国志では、劉備玄徳が人肉を食べるシーンがカットされている。

呂布に負けた劉備玄徳が逃亡する途中、劉安という人物と出会う。
劉安は劉備のために、オオカミの肉を使った料理を出してもてなした。
でも劉備は次の日、自分が人肉を食べたことを知る。

翌朝、劉備は厨房で腕の肉を切り取られた女性の死体を発見して驚き、劉安を問い詰めると、彼は食べ物が無かった為、妻を殺してその肉を提供したと話した。劉備は悲しみにたえきれず涙を流した。

劉安(三国志演義)

 

曹操はこれを「立派な行い」と称賛して、劉安に金百両をあたえたという。
めでたし、めでたし。
とは、日本人の価値観だったら絶対にならない。
こんな話は日本人の共感を呼ぶことはないということで、作家の吉川英治氏は自身の「三国志」からこの場面を削除することを考えたものの、日中の「民情の相違を読み知ること」ができるという説明文を入れてこのエピソードを挿入した。

でも、東京国立博物館の特別展はこれに触れないはず。
日本人には刺激が強すぎるから。

水滸伝でも孫二娘(そん じじょう)が旅人を殺して、その遺体で肉饅頭をつくる場面があった。
それを居酒屋のメニューにしていたから怖ろしい。

中国では元の時代になるとこんな価値観が広がったという。

自らの肉を病気の夫などに食べさせることが美談として称賛され、元代の『事林廣記』には、その行いに政府が絹や羊や田を与えて報いたという記述がある。

カニバリズム・中国

劉備と関羽、張飛(桃園の誓い)
これは日本と同じ。

 

劉備玄徳が人肉を食べるという場面は、三国志に興味がある日本人でも知っている人は少ないと思う。
でも意外なことに、中国人も知らなかった。
ボクがいままでに話を聞いた中国の日本語ガイドや日本にいる中国人で、この話を知っていた人は一人もいない。
「え?人間の肉を?本当ですか!」「三国志にそんな場面があるんですか?」とみんながおどろく。
中国で見た三国志のドラマや本の中で、そんなシーンを見たことがないという。

現代の三国志は元末・明初にできた「三国志演義」がもとになっている。
劉備が人肉を食べたというのは初耳という中国人のガイドが、「三国志演義」についてその場で調べてくれた。
彼の調べによると、これを書いたといわれる羅漢中(らかんちゅう)は残酷すぎるということで、三国志演義に劉備が人肉を食べるシーンは書かなかった。
だから三国志の「原典」にはその場面があるけど、三国志演義からはなくなったという。

*でもネットで調べると、「三国志演義」の中にこのシーンがあるという人もいる。
どっちが本当か分からない。

どちらにしても人肉食は中国だけではなくて、歴史をみれば日本でもある。
江戸時代におきた天明の大飢饉(1782年~1788年)では、あらゆるものを食べつくしたあと、人々はこれに手を伸ばしたという記録がある。

天明の大飢饉

各地で餓死,行き倒れ,病死が続出,なかでも関東,奥羽地方は草根,牛馬はもちろん犬猫,あるいは人肉すら食うという惨状を呈した。

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

こんなことは世界中であった。

 

結論からすると、歴史における人肉食は中国のほうが多いけど、現在では中国人も日本人もそれに対して同じ価値観や見方をもっている。
三国志で劉備が人肉を食べる場面も、日中では一般的には知られていない。

 

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13 件のコメント

  • >作家の吉川英治氏は自身の「三国志」からこの場面を削除した。

    あれ?おかしいな。確か、吉川英治版「三国志」でもこの場面はちゃんと紹介されていたと思いましたが。ただし、作家である吉川自身が解説を付けて「これは当時の中国においてこのような習慣があったということ(自分の妻を犠牲にしてでも高い身分の武人を饗応するのが礼儀)であり、決して中華民族の残虐さを示すものではない」と注釈していたはずです。と言うか、そのような注釈があったからこそ、記憶に残っているのです。
    吉川英治版の原作である羅貫中の「三国志演義」の方はどうだったかなぁ。吉川英治文庫での記述に驚いて、原作「演義」の方にも書いてあることを確認したと思ったけど・・・。その2冊以外で私が三国志を読んだことはないので、どちらかに書いてあることは間違いないです。おそらく両方です。
    両方とも文庫を既に売却してしまったので手元にはありません。そのうち、図書館か書店あたりで調べてみます。

  • NETで調べてみたところ、やはり、吉川英治「三国志」にも劉安の話はちゃんと出ているとのこと。吉川の注釈付きで紹介されているようです。
    https://akanisin.hatenablog.com/entry/20130402/1364904363 より転載:
    >=読者へ
    > 作家として、一言ここにさし挟むの異例をゆるされたい。劉安が妻の肉を煮て玄徳に饗したという項は、日本人のもつ古来の情愛や道徳ではそのまま理解しにくいことである。われわれの情美感や潔癖は、むしろ不快をさえ覚える話である。
    > だから、この一項は原書にはあっても除こうかと考えたが、原書は劉安の行為を、非常な美挙として・・・

  • >劉備玄徳が人肉を食べるという場面は、三国志に興味がある日本人でも知っている人は少ないと思う。

    そんなことは無いと思います。なぜなら、吉川英治「三国志」でもこのエピソードが紹介されているくらいで、日本人の読者にとっては非常に「衝撃的」な場面だからです。私にとってもそうでした。
    そもそも、ブログ主さんは、このエピソードを何で知ったのですか? 吉川英治版からではありませんか?

    中国人で知らない人が多いのは、ただ単に、中国人は三国志の原作小説に対する関心が薄いからじゃないですかね? 私が知る限り、中国人の三国志に対する関心は「赤壁」の観光地とか「関羽」の巨大像とか観光名物への関心ばかりで、実際に小説を読んだ経験のある中国人はほとんどいないように思います。

  • ご指摘のとおりです。
    吉川英治は削除を検討したものの、「読者へ」と語りかける欄をもうけてこの話をのせていました。
    劉備の食人についての記述を削除したこととその理由が書いてあったと思ったのですが、記憶違いでした。
    ご指摘ありがとうございました。

  • このエピソードが載っているのは吉川英治の三国志しか知りません。
    横山光輝や北方謙三の三国志にはありませんし、若い人に人気の「蒼天航路」にもありません。
    もちろんゲームやドラマにもありません。
    全体的に見れば、このことを知っている人は過半数を越えないでしょう。

  • なるほど、横山光輝や「蒼天航路(原作・原案:李學仁、作画:王欣太)」の存在を忘れていました。どちらも自分でも全巻(全コマ)読んだことがありますが、確かに出てきませんね。マンガ、劇画、ゲームにドラマ、そして映画(「レッド・クリフ」等)まで、それらから三国志を知った人を含めれば、確かに過半数を越えないでしょうね。小説版のことしか思い至らなかった年寄りの思い違いでした。

    ところで、横山光輝の三国志を読んだ中国人(成都出身、日本語はかなり達者)から感想を聞いたことが以前にあるのですが、「全体的に登場人物の服装や外観が欧米的すぎる」とのことでした。なるほどなぁ。
    でもそんなこと言ったら、最近の映画「レッド・クリフ」なんかどうなのよ?
    とも考えつつ・・・、だけど日本の話だって「ラスト・サムライ」なんかの例があるし、まぁそんなものか。

  • 三国志の原典に劉備の人肉食について書かれているとのことですが、陳寿による史書の三国志のことを指していますか?
    劉備の人肉食については史書には記述がないはずですが……

  • 三国志の人肉食の話は初めて知りました。 知ってる人は知ってるんですね。
    でも日本にも有名な人肉食の話があります。
    山姥の話♪ 童話だけど残虐ですよね(>_<) そして悲しいお話でした。

  • >「全体的に登場人物の服装や外観が欧米的すぎる」
    そうなんですか!
    あれが欧米的に見えるとは思いませんでした。武将か庶民か分かりませんけど、私にはまったくない視点で面白いです。

  • 「原典」とかっこ書きしたのは、このときのガイドの言葉を正確に覚えていないからなんです。
    「元の本」と言ったような気もしますし、その書名をあげたかもしれません。あいまいだったから、「原典」と書きました。
    それにしても史書にないとしたら、後世に誰かが挿入したということですかね。

  • そうなんです。
    日本でも昭和の時代にありました。
    日本の人肉食の話を書こうと思ったら長くなったので、ひとつの記事にしようと思ってそこはカットしました。
    でもこれは世界中であることですけどね。

  • ていうか、三国志演義に劉備の人肉食の記述はあります。
    三国志演義は劉備を美化して徳のある君主として描かれますが、夫が妻を殺してでも肉を与えるほど劉備は徳がある、としているのです。

  • 私も中国の三国志では昔からこの場面があると思っていたから、誰も知らないというのは意外でした。
    三国志演義にも当然書いてあると思ったら、中国人ガイドに否定されて「あれ?」と思ったのを覚えています。
    三国志演義に記述があるなら、いつからそのシーンがなくなったか気になりますね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。