【ヒンドゥー教と神道】イギリス王子も“穢れ”、お祓い対象に

 

インドという国は相変わらず謎が多い。
女人禁制のヒンドゥー教寺院に女性が立ち入ったことで信者が激怒して、抗議過活動が起こったのは理解できるけど、その結果、5800人が逮捕されたというのが分からない。

くわしいことはこの記事をどうぞ。

【インドの不思議】原因は常識的だけど、結果がミラクル

 

このお寺に入った女性は2人いる。
そのうちのひとりが”問題視”されて、ここまでの騒動に発展した。

ナショナルジオグラフィックの記事(2019.01.10)

もうひとりはダリット(不可触民)と呼ばれる被差別民活動家のカナカドゥルガ氏である。
2人がアイヤッパ神に祈りをささげたことが明らかになると、その数時間後に寺院は「浄化の儀式」のためとして閉鎖された。

「女人禁制」の寺で参拝めぐり暴動、5800人逮捕

 

現在のインドでカースト制度は禁止されていない。
カーストによる差別行為は禁じられている。
ダリットが入ったことで「寺院が穢(けが)れた」と考えた人たちが浄化の儀式を行ったことは、インド憲法に反する差別行為だけど、この人たちが逮捕されることはないと思う。

個人的にもインドを旅行していて、似たような”差別体験”をした。
現地のツアーに参加してヒンドゥー寺院に入ったとき、ガイドのインド人から「外国人はこの先に入ってはいけない。君はここで待て」と止められた。
「外国人はダーティーだから」とハッキリ言われると、もうなんだか笑える。
でもガイドが日本人のボクを差別したわけではなくて、ヒンドゥー教徒の義務としてそう言ったのだと思う。

 

インドのことはインド人にまかせるとして、ここでは「神道と穢れと浄化」について書いていこうと思う。
インドで生まれた仏教はヒンドゥー教と同じくバラモン教を母体としているから、輪廻やカルマなど同じ考え方がある。
でも「穢れと浄化」という点では、ヒンドゥー教は神道と似ている。

 

 

神道ではこんなふうに物や人にお祓いの儀式をする。
これは付着した「穢れ」を取り除いてキレイにする行為で、さっきの「浄化の儀式」と基本的に発想は同じ。
いまの日本には先ほどのインド人のような「外国人は穢れている」という考え方はないけど、幕末・明治にはあった。

開国して文明開化をしている最中でも、そう考える人たちが日本政府にいた。
明治時代、神聖な場所とされていた皇居(東京城)に、イギリスの王子が入ることを問題視する人たちが現れて、王子に「潔身(みそぎ)の祓(はらい)」をしてから皇居に入れることにした。

それを聞いた福沢諭吉がこう書いている。

イギリスの王子が日本に来遊、東京城に参内することになり、表面は外国の貴賓を接待することであるから固より故障はなけれども、何分にも汚れた外国人を皇城に入れるというのはドウも不本意だというような説が政府部内に行われたものと見えて、王子入城の時に二重橋の上で潔身の祓をして内に入れたことがある

「福翁自伝 (岩波文庫)」

 

具体的には分からないけど、上の車のようなお祓いを王子にもしたのだろう。
こういう迷信じみたことが大嫌いな福沢諭吉はこう嘆いた。

実に苦々しいことで、私はこれを聞いて、笑いどころではない、泣きたく思いました。

「福翁自伝 (岩波文庫)」

 

現在の日本で外国人を「穢れ」とする考え方はないけど、いまでも神道では「穢れと浄化」を重要視している。
6月と12月になると、上のような「茅の輪」をくぐって半年間ぶんの穢れを落とす儀式が行われる。
くわしいことここをクリック。

大祓

女人禁制のお寺に入ったダリットの女性もその前にこんな儀式をしていたら、5800人が逮捕されるような騒動にはならなかったと思う。
神道では穢れは付着すると考えるけど、ヒンドゥー教ではダリットの存在自体を「穢れ」とする。
それで浄化の儀式を行ったら、差別行為で憲法違反なのだけど。
まあインドのことはインド人にまかせよう。

 

ヒンドゥー教徒は茅の輪をくぐることはないけど、ガンジス川に入って穢れを落とす。

 

 

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2 件のコメント

  • >現地のツアーに参加してヒンドゥー寺院に入ったとき、ガイドのインド人から「外国人はこの先に入ってはいけない。君はここで待て」と止められた。

    うーん、それは当然ではないですか? て言うか、良識あるツアー客なら、自分から事前に「入ってもいいのか?」とガイドへ尋ねる程度の気遣いが必要ではないですかね。海外でのビジネス経験者の立場で言わせてもらえば。
    宗教的感覚にルーズな日本人、あるいは経済的優位性から発展途上国民の現地習慣には気にも止めない欧米人は気付かないでしょうが、現地の人々が「聖地」とみなすような場所へ、外国人は気楽に入るべきではないと私は思いますね。無用なトラブルの元になるだけです。
    オーストラリアの「エアーズ・ロック」(←欧米風の呼称ですが)が、最近、立入禁止になったとのことですが、そりゃ当然ですよ。先祖が英国からやってきただけで大きな顔をしているオーストラリア人は、もっと反省すべき。
    ニュージーランド・ラグビーチームの「ハカ」でしたっけ? 一体、どれだけの選手が先住民との血縁を今なお保持していて、どれだけの選手が「自らのチームの伝統儀式である」という考えに賛同しているのか知りませんが、まぁ、何も対処しないよりは100倍マシな行為だと思いますね。ここは、ニュージーランダーの「良心」であると解釈したい。オーストラリアンは彼等をもっと見倣え。
    それが嫌なら出ていくしか無いでしょ。その際はクジラも連れて行ってあげてね。

  • インドには7回ほど旅行したことがありますが、中に入ることができなかったヒンドゥー寺院は例外的に少数です。
    このツアーでは3~4の寺院に行ったのですが、NGだったのはこの寺だけです。
    「ここで待ってくれ」「わかった」というやり取りだけで特に問題はなかったです。
    エアーズロックとハカについてはおっしゃる通りですね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。