日本での新型コロナウイルスの感染拡大に終わりが見えない。
それで4月から授業がはじまる日本各地の大学では、オンライン授業を実施するところも多くある。
すると今度はこんな問題が生まれた。
毎日新聞の記事(2020年3月29日)
大学生に忍び寄るギガ不足 新型コロナでオンライン授業 無料Wi-Fiに密集の懸念
データ使い放題ならいいけど、そうではない学生はまあこうなるわな。
でもこの問題は大学と学生にがんばってもらうとして、ここで取り上げるのは「ギガ」という言葉の由来。
これは新しい日本語だけど、いまでは必要不可欠なものとして社会に定着している。
ギガとは10億倍という単位のことだけど、語源をたどると英語のジャイアントと同じなのだ。
この前、古代ギリシャ神話に出てくる人間とヤギの半獣神パン(パーン)について記事を書いた。
ヤギなどの家畜がいきなり暴れだす謎現象を古代ギリシャの人たちは、「牧羊神パンの叫び声に家畜が恐怖を感じたから」と解釈した。
「パニック」(panic)という言葉はここから生まれた。
くわしいことはこの記事を。
ヤギの角と脚をもっているのがパン
気弱な高校生を悪の道に誘う先輩ヤンキーのよう。
ギリシャ神話に登場する半獣神パンは重要な役割を果たすこともあって、例えば、巨人族との戦争で神々が勝利した要因のひとつにはパンの活躍があった。
全知全能で全宇宙を支配する天空神「ゼウス」に敵意を持っていた巨人族は、その支配を終わらせようとゼウスとそれに味方するオリンポスの神々に戦いを挑む。
*仏教にもこれと似た話があって、帝釈天をトップとする神々に阿修羅族が戦争をしかけた。
巨人族には山をも投げ飛ばすほどの怪力と、神には殺されないという困った能力を持っていたため神々は大苦戦。
それでも、神の血を受け継ぐ半神半人で最強の英雄ヘラクレスが神々の側に立って戦い、巨人族を滅ぼすことができた。
ヒュドラと戦うヘラクレス
オリンポスの神々に宣戦布告してヘラクレスとも戦ったやぶれた巨人は「ギガース(ギガス)」、巨人族と複数形になるとギガンテス(Gígantes)という。
ギリシャ神話ではこんなギガスがいる。
エピアルテス(アポロンに左目、ヘラクレスに右目を射抜かれて死んだ)
エンケラドス(女神アテナによってシチリア島に封印される)
グラティオン(アルテミスとヘラクレスの矢によって射殺)
くわしいことはギガントマキア(巨人戦争)を見てみよう。
ギガースたちは、山脈や島々など、ありとあらゆる地形を引き裂きながら進軍し、巨岩や山そのものを激しく投げ飛ばして神々を攻撃した。これに対し、オリュンポスの神々も迎撃を開始し、ティーターノマキアー以来の宇宙の存亡を賭けた戦争が再び始まった。
さてここまできたら、答えはもう見えてきたと思う。
「ギガ不足」のギガという言葉はギリシャ神話の巨人族「ギガース」から生まれたのだ。
「大きな人」をあらわす英語のジャイアント(giant)の由来もこれ。
ギリシャ神話がヨーロッパやアメリカに与えた影響の大きさが分かるではないか。
ギガース
そして牧羊神のパンがこの戦いで重要な役割を果たした。
毎日新聞のコラム「余禄」(2020年3月14日)
ゼウスはじめオリンポスの神々が、神には殺せない巨人族ギガスとの大戦に勝てたのは半神半人のヘラクレスが奮闘したからだ。今一つ、牧神パンがその大声でギガスたちを恐(きょう)慌(こう)状態に陥れたのも大きかった
ゼウスはじめオリンポスの神々が…
この言葉の背景には壮大な物語がある。
よかったら、こちらもどうぞ。
世界で日本とインドだけが行うこと・原爆犠牲者への黙とう~平和について①~
> ギリシャ神話がヨーロッパやアメリカに与えた影響の大きさが分かるではないか。
うーん、どうでしょうかね。ちょっと表現が不正確では?
まず、「ギリシャ神話」と一口にまとめてしまうのに違和感が。実際には「ギリシャ・ローマ神話」の趣が強く、この2つの神話はごっちゃになってしまっています。名前こそ2通りに(ギリシャ風とローマ風)ついているものの、本当はどちらがオリジナルか分からないような神様も多いのです。
もう1点、古代ギリシャ・ローマの文化が見直された契機はルネサンス(文芸復興)にありますが、その伝承は、ヨーロッパ人自身の手によるものではありません。ルネサンスまでの中世ヨーロッパは「暗黒時代」と呼ばれたくらい野蛮・暗愚なキリスト教文化の時代でした。ギリシャ・ローマの文明なんか暗黒時代のヨーロッパ人達はすっかり忘れてしまっていた。
その中世ヨーロッパを飛び越して、(まるでタイムマシンのように)ギリシャ・ローマの文化的所産をヨーロッパに伝え、ルネサンスを起こすきっかけを作ったのは、アラビア人です。ヨーロッパの人々は、アラブ・イスラムの人々を経由することによって、はじめて、自分達の遠い祖先が残した文明を知ることができたのです。
ここに出てきているのはギリシャ神話だけですから。
後半については「12世紀ルネサンス」を調べてみてください。