“囍”の意味と由来:台湾では結婚式、日本ではラーメン屋

 

日本と台湾・中国の共通点はなんといっても漢字。

中国で生まれた漢字はそのあとベトナムや朝鮮半島など周辺国へ伝わり、長いあいだ東アジアの共通語の役割を果たしていた。
でも時代が流れて、ベトナムや韓国で漢字は廃止されていき、中華圏をのぞけば漢字を日常的に使うのは日本だけとなる。
日本はベトナムや韓国よりも早く独自の固有文字(仮名)を作り出して「脱・中国文化」を図ったけれど、漢字は捨てずに共存の道を選んで現在にいたる。
だから日本にやって来て、漢字を見て親しみを感じる台湾人や中国人は多い。

 

ただ同じ漢字でも、日本と中国&台湾では意味や使い方が違うものがよくある。

「愛人」はその代表格で日本でこれは浮気相手のことだけど、中華圏では自分の夫や妻のことを指す。
これは「愛する人」の意味だから、その使い方のほうが言葉と合っている気はする。

くわしいことはこの記事をどうぞ。

日本と中国&台湾の漢字の違い:妻は愛人で新妻は老婆

日本語の「画期的」もそのままでは意味が通じないから、中国語では「划时代的」や「划期的」と書くらしい。

 

 

そんなことで台湾人や中国人と会うと、日本で違和感をおぼえた漢字についてよく質問する。

日本の語学学校で学んでいた20代の台湾人に聞いたら、「喜」をふたつ並べた「囍」の日本での使われ方を不思議に思ったと言う。

これは双喜紋(そうきもん)という中国文化圏で使われる漢字というか、そういうデザイン。
英語で「ダブル・ハピネス」と呼ばれる囍はめでたいことの象徴で、その台湾人はこれを見ると結婚式を連想するという。

台湾のWikipediaにもそんな説明がある。

囍是一個漢字,读音同喜,又名双喜,在中國、朝鮮、越南、琉球,常用於結婚,意思是對男女兩家都是喜事

 

結婚は男女の両家にとって祝福するべきものだから、「囍」はそんな祝いの席でよく使われる。
*これを見ると沖縄も韓国やベトナムと同じく、中国文化の影響が強いことが分かる。

ということで知人の台湾人の頭の中では、「囍=結婚」というイメージがあった。

 

 

言い伝えによると宋の時代、王安石が結婚するときに大喜びして、赤い紙に金色の字で「囍」と書いてそれを家のドアに貼り付けたことがこの習慣の由来になったという。

そのとき王安石はこんな詩をつくったと台湾版Wikipediaにある。

「巧对联成双喜歌,马灯飞虎结丝罗。洞房花烛题金榜,小登科遇大登科」

機械翻訳したら意味不明の文になったから、ここにその訳は載せられない。すまぬ。

 

 

王安石は高校世界史でならう重要人物だから、知らなかったらこの機会におぼえておこう。

神宗の政治顧問となり、制置三司条例司を設置して新法を実施し、政治改革に乗り出す。文章家としても有名で、仁宗に上奏した「万言書」は名文として称えられ、唐宋八大家の一人に数えられる。

王安石

 

話を知人の台湾人に戻そう。

彼は「小池さん」に匹敵するほどのラーメン好きで、両親が日本に来たときもお気に入りのラーメン屋に連れて行った。
でも親にはラーメンの味が濃すぎて、「しょっぱい!」と言ってどんぶりに水を入れやがったという。

でも薄味のラーメンはおいしかったようで、母親がスープを飲みほすと、どんぶりの底に「囍」と書いてあるのを発見。
でも、ラーメン屋と結婚披露宴はまったく別の空間で接点が見いだせない。
だから両親は、ラーメンどんぶりで「囍」が使われる意味が1ミリも分からなかった。
理由を聞かれたけど彼も知らなかったから、これは「日本の謎」としてその台湾人一家に残ったらしい。

日本で「囍」は中国文化を象徴する意味で、中国料理店なんかでよく使われている。
でもひょっとしたらラーメンを「うまかった!」と感じたら、店と客が双喜(ダブル・ハピネス)ということかも。

 

 

 

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2 件のコメント

  • >「愛人」はその代表格で日本でこれは浮気相手のことだけど、中華圏では自分の夫や妻のことを指す。
    >これは「愛する人」の意味だから、その使い方のほうが言葉と合っている気はする。

    その見解は、仏教に対する理解が浅い証拠ですね。中国人は、仏教が早くから伝来したにも関わらず、日本人ほどには仏教を学ばなかったらしい。
    もともと、日本語における「愛」という単語(漢字)は、愛着・偏愛を表す意味であり、「全てを捨てて無我の境地を目指す」仏教においては、あまり良い意味では用いられなかったのです。それが、仏教的な考えを離れた「慈愛」の意味を持ち、次により即物的・肉欲的な意味での「愛」、すなわち英語の「アガペー」や「エロス」を意味するように拡大されたのは明治になってからのことです。
    しかしそれでも、仏教的な考えに基づいた「あまり良い意味ではない」「単に肉欲に溺れた結果として」用いられるイメージを「愛」には備わったままであったため、日本語の「愛人」は非正規の恋愛関係を表すようになったのですよ。

    ちなみに、英語でも、「Lover」は妻や夫を意味しないことの方が多いです。
    ということなので、どっちかと言えば、「愛人」という単語に関しては日本語的用法の方が「グローバル」と言えるのでは?

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