数年前、インド人とフランス人と一緒にハイキングをしていたとき、「初対面の彼らはどんな会話をするんだろう?」と聞き耳を立てていたら、ドラゴンボールの話題で盛り上がっていてビックリ。
2人とも子どものころに見たドラゴンボールのファンで、ゴクウ、ベジータ、ピッコロといったキャラもバトルシーンも知っていて、インド人が好きな場面を話すとフランス人も「それな」と話を広げていた。
アニメは世界中で人気があるという話は聞いていたけど、初対面のインド人とフランス人を結びつけるツールになっているのを見て改めて実感したしだい。
いままで行った国の中で、日本アニメの人気が特に爆発していた国がタイ。
空港から宿へ移動するために、首都バンコクの中を走るスカイトレイン(まあ電車)に乗ろうと駅で待っていて、アナウンスのあとに到着したのが上の写真の「ワンピース号」。
ワンピースとは直接関係ないボクでも、タイの人たちが日本のアニメを親しんでいて、もはや日常生活の一部になっているのを見るのは日本人としてうれしい。
タイの飲料会社の広告らしい
そのタイでは「とっとこハム太郎」が若い人たちに大人気で、ハム太郎が好きすぎて、大学生が中心となっておこなった反政府デモの「マスコットキャラクター」に選ばれてしまった。
くわしいことはこの記事をどうぞ。
デモの参加者は自分たちを、タイの民主主義に向かって走るハム太郎と同一視している。
ทุกคนที่มาร่วมงานในวันนี้ขอให้ทุกคนระวังเรื่องป้ายต่างๆกันด้วยนะคะ💖 ด้วยความปรารถนาดีจากคุณตำรวจค่า แล้วจะมาแจ้งช่อฃทางการไลฟ์ต่อไปค่า #วิ่งกันนะแฮมทาโร่ pic.twitter.com/xxyNctPkPY
— J. Pledenton | III (@judythecatz) July 26, 2020
この絵は、シャム王国を立憲君主制に変えた1932年のクーデターを記念してつくられた民主記念塔。
でもハム太郎に大事なのものは、民主主義よりひまわりのタネ。
反政府デモなら日本でも珍しくはないけど、アニメのキャラクターがシンボルになったというデモは聞いたことがない。
日本アニメが海外に浸透した結果の副作用がこれで、こんなふうに政治的な目的をもったデモ活動でアニメキャラが使われることが増えてきた。
タイ人がハム太と自分を重ねたように、「エヴァンゲリオン」の主人公・碇シンジと自分を同一視する香港人もいる。
ことし行われた反中国運動である参加者は、恐ろしい強敵(=中国共産党政府)に若い自分たちがどう対抗すべきか悩んでいた。
“What were you doing when you were 14 years old?”
Reference to main characters of Neon Genesis Evangelion, who are the same age as the youngest protester arrested yesterdayhttps://t.co/wQMEKtHzNA #antiELAB #ExtraditionBill #FreedomHK #HongKong #HongKongProtest #反送中 #香港— HKDemoNow (@hkdemonow) July 4, 2019
日本のアニメはワールドワイドで大人気。
3年前には、スペインのカタルーニャ地方で行われた独立運動で「クレヨンしんちゃん」がシンボルにされていた。
カタルーニャ独立と「しんちゃん」がどこでどう結びつくのか、ふつうの日本人ならわけわかめのはず。
赤いところがカタルーニャ
日本政府はここ10年ほど、日本の映画や音楽、アニメなどを積極的に海外へ紹介する「クールジャパン」を展開してきたから、そのおかげもあって、日本のアニメやマンガは世界中の人を魅了する有力コンテンツとなった。
でも政府やアニメ関係者としては、電車のデザインならいいけど、反政府デモや独立運動といった政治的な目的をもった運動でキャラクターを使われるのは不本意らしい。
国際政治学者の六辻彰二氏がこう解説する。
日本政府にとって、日本アニメが各国の若者をインスパイアし、権威主義的な政府に対する抗議のシンボルになることは、むしろ好ましくないだろう。
「とっとこハム太郎」はなぜタイで反政府デモのシンボルになったか
日本の政府や企業としては、アニメが海外に広がって人気となるのはウェルカムだけど、特定の政治色を付けられることにはノーサンキューのはず。
政治と経済を分ける政経分離のように、アニメと政治は完全分離してほしいところだけど、外国人はそんな忖度をしてくれず、反政府活動の旗印にしてしまう。
冒頭のインド人とフランス人のように、初めて会った外国人がアニメの話で盛り上がるというのが日本政府の理想だろうけど、現地で愛されて知名度が上がった結果、アニメキャラを反政府デモのシンボルにされるという事態は、たぶん予想外ではっきり言えば迷惑この上ない。
碇シンジが反中国の象徴となって、デモに参加する若者たちを結びつけるようになったら、「エヴァンゲリオン」は中国本土でタブー視され、放送やグッズ販売は不可能になってしまう。
ハム太郎やしんちゃんが反政府・独立運動のシンボルになったら、政府や政府支持者からは敵視されて排除されるだろうから、日本としては全然クールじゃない。
かといって政府や日本企業が「日本のアニメキャラを政治活動で使うな!」と公式に言うわけにもいかないし、もう星に願うしかない。
ディズニー映画「ムーラン」に出た女優が香港警察を支持する発言をして(=デモを否定)、香港では映画のボイコット運動が広がっている。
Reminder that @DisneysMulan, Liu Yifei 劉亦菲, spoke out in support for #HongKong police brutality in August 2019.
There’s no honour in supporting an authoritarian regime.
Join Hongkongers’ fight and #BoycottMulan. #NotMyMulan pic.twitter.com/sWH4b9b6Pa
— Fight For Freedom. Stand With Hong Kong. (@Stand_with_HK) September 4, 2020
日本の政府や企業にとって最悪の事態がこれ。
アニメキャラが政治活動のシンボルにされると、こんなことに発展しかねない。
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>冒頭のインド人とフランス人のように、初めて会った外国人がアニメの話で盛り上がるというのが日本政府の理想だろうけど、現地で愛されて知名度が上がった結果、アニメキャラを反政府デモのシンボルにされるという事態は、たぶん予想外ではっきり言えば迷惑この上ない。
商品を売った相手にその使い途をこちらの思う通りの範囲内になんて、望めるわけがないでしょう。