中国と違う日本文化の月見:月餅・月見団子・ススキの意味

 

日本文化の特徴って何だろう?

餅は餅屋というように、それを知るにはその道のスペシャリストに聞くのがいちばんだから、ここでは戦前の日本を代表する東洋学者・内藤湖南(1866年 – 1934年)大先生の説をみてみよう。

日本には、文化の種が出來上つて居つたのでなくして、只文化になるべき成分があつた所へ、他の國の文化の力によつて、段々それが寄せられて來て、遂に日本文化といふ一の形を成したのでないかと思はれるのであります。

「日本文化とは何ぞや(其二) 内藤 湖南」

*來は来、只はただ、遂にはついに。

 

日本には無から有を創り出すような文化は少なくて、海外から伝来した文化を吸収し、それに新しい価値や表現を加えて別ものにする。
外来のモノに日本風の変化をつけるから決してコピーではない。
歴史的・伝統的にいえば「他の國の文化の力」とは中国文化になる。
着物や鯉のぼりの起源は中国にあるけど、日本に伝わってから「魔改造」されて、いまの日本文化としての着物や鯉のぼりがある。

日本文化はオリジナリティよりも、クリエイティビティ(創造性)に特徴があるのだ。

 

内藤湖南

 

 

奈良時代に中国から日本へ伝わった七夕も、短冊に願いごとを書いて笹竹に結び付ける日本独自の風習となった。

日本文化の特徴「つくり変える力」、中国由来の七夕も独特に

 

中国から伝わって日本文化になったものといえば、さいきんでは月見がある。
単に月を見上げることなら縄文時代にもあったというけど、現在おこなわれているような秋の名月を鑑賞する風習は唐のころからはじまったと言われていて、日本には平安時代に伝わった。
中国の月見はどんちゃん騒ぎのような派手なイベントだったようだ。

この風習を日本独自のものにしたのは10世紀の宇多法皇で、中国の月見は十五夜だけだったけど、宇多法皇は十三夜の月見を開催した。
月見を2回したというから、日本人は月を見るのが本当に好きだったのだろう。
当時の日本の月見は月を見ながら詩を詠む、酒を飲む、音楽の演奏を楽しむといった優雅な宮中行事だった。

現在の日本と中国・台湾・ベトナムの月見の大きな違いは、後者は「月餅」という伝統菓子を食べること。

 

画像:Junelee

月餅
この場合の「餅」は日本のお餅ではなくて、こういうお菓子のこと。
中国や台湾では英語のcakeを「餅」と表現することもある。

 

中秋節(月見)で月餅を食べる風習が広がった理由として、よく言われるのがこんな話だ。
モンゴル人に支配されていた元朝の時代、中秋節のときに漢民族が「八月十五殺韃子(8月15日にモンゴル人を殺せ)」という反乱の日時を知らせた紙の入った餅を送り合ったことが、いまの月餅の由来になったという。
ほかにも、月餅の丸い形が「家族の団らん」を意味するからという説もある。

中秋節に月餅を食べるのは唐のころにはあったというから、日本人も知っていたと思うけど、なぜか日本で月餅は広がらなかった。
まぁ中国では月餅にお金を入れて渡すというワイロが社会問題となったから、日本人には先見の明があったのかも。

旧暦の秋は7月~9月で、その真ん中の8月は「中秋」と呼ばれた。旧暦8月15日の「十五夜」と「中秋の名月」は同じこと。
*現在では9月になる。
この時期は秋雨が降って空気がキレイになるから、美しい月が見られるのだ。

 

 

日本では月餅の代わりに、満月を見立てたといわれる団子を食べる習慣がある。(もともとは丸いサトイモだったという)
これには月に豊かな収穫を願うという意味があって、稲穂を模したススキを飾る意味もこれと同じ。
収穫前の稲穂の代わりに、稲穂に似たススキが使われるようになったと言われる。
ススキには月の神が宿るとか、鋭い切り口が魔除けになるという見方もある。

ということで中国から伝わった月見の風習は、日本で変化が加えられて独自の文化となった。
「他の國の文化の力によつて、段々それが寄せられて來て、遂に日本文化といふ一の形を成した」という湖南先生の言う通り。

 

 

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2 件のコメント

  • 悪徳商人が「山吹色の御菓子でございます」とか言って御菓子の中とか菓子折りの下に大判小判を忍ばせて悪代官とかに渡す、と言う描写が時代劇にありましたが、中国のそう言った逸話を元にした創作なのですかねー。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。