ガセとデマ。どっちも偽情報だが、違いはなに?

 

「ダウンタウン」の松本人志さんが昨年末、ツイッターで「今年もガセニュースをいっぱい書かれた」と言ったそうな。

そしてこれは最近の読売新聞の記事(2021/01/11)

コロナのデマ、拡散させた「主犯」は?

「ガセ」も「デマ」も真実ではない偽情報のこと。
でもことばが2つあるというのは、違いがあるということでもある。
ということで同じフェイクニュースでも、ガセとデマではどう違うのかをこれから説明しよう。

 

まずはガセ。
このことばの語源は「人騒がせ」の「がせ」という説があって、ニセモノやまやかし、ウソ情報といった意味がある。
こういうガセ(ガセネタ)は低質なメディアや愉快犯のような人間が、他人の注目を集めるために流すことが多い。
あやしい根拠でろくな信頼性もないけど、それで多くの人に記事が読まれたらメディアにとっては金儲けになる。
一般人なら、それで誰かを「マジで!」とおどろかすのを愉快に感じる人もいる。
だからガセなら、事実がわかると「な~んだ」で終わるケースが多い。

 

それに対しデマは日本語ではなくて、デマゴギーというドイツ語に由来することばだ。

ここで話は少しそれますよ。
英語の「エネジー」を日本語では「エネルギー」、「アラジー(allergy)」をアレルギーと言うように、英語の「ジー」をなんで日本語では「ギー」と言うのか、疑問を持ったことはないだろうか?
カタカナ発音だからこうなった、というわけではない。
これら「〇〇ギー」のことばは英語ではなくて、ドイツ語が起源だからだ。
ドイツ人に発音してもらったら、確かにエネルギーやアレルギーと言う。

さてドイツ語のデマゴギーとは、主に政治的な目的を持って意図的、扇動的に流す偽情報のこと。
だからガセとは目的が違う。
注目を集めてビックリさせるのではなくて、その情報を流すことで、不特定多数の人間を一定の方向へ誘導しようとする。
最近ではアメリカ大統領選で、「不正行為が行われた!あの選挙結果は間違いだ!」とデマを流して感情をあおる人間が続出して大問題になった。
こんなデマを発信する人間をデマゴーグという。
このデマゴーグはトランプ氏を大統領にさせようと、SNSで偽情報を発信して多くの人を扇動し、米議会を襲撃させるよう仕向けた。結果、この襲撃事件で5人以上の人が亡くなった。

こうなると「な~んだウソだったか」では済まなくなる。

 

デマを流す人間に警告する警視庁のビラ

1923年に関東大震災が発生したとき、「朝鮮人が暴徒化して略奪をしている!」とか「また地震がくる!」といったウソ情報を流す人間がいた。

 

コロナの感染が拡大して奈良の観光客が激減したことで、シカにせんべいをあげる人も消えてしまった。
それでネットでは「シカが飢えている」なんてウソ情報が、どこからかわき出て拡散された。
そのせいで奈良県には「エサを買ってあげて」「シカがかわいそうじゃないか!」といった電話が相次いだという。
シカの主食は草や枯れ葉だから、鹿せんべいは生存にはまったく関係ない。

これはフェイクを事実と誤解した人が流した話だから、デマというよりはガセになる。
多くの人に電話をかけさせて、奈良県を困らせようとする意図があって流した偽情報ならデマになる。

 

2018年に米マサチューセッツ工科大の調べで、「デマは真実より早く伝わる」ということがわかって話題になった。
この研究チームがツイッターで発信された情報を分析したところ、デマは真実より1.7倍リツイートされ、6倍も速く一定数に達していたという。
実際、真実に比べて、ガセやデマの偽情報は過激でおもしろい。
ネット社会でゴミ情報が氾濫しているいまこそ、思わず他人に伝えたくなる情報には要注意だ。

 

 

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1 個のコメント

  • > 真実に比べて、ガセやデマの偽情報は過激でおもしろい。
    > ネット社会でゴミ情報が氾濫しているいまこそ、思わず他人に伝えたくなる情報には要注意だ。

    そうですね。そのような「過激なおもしろさ」を備えているかどうかという点こそが、ガセやデマの可能性が高い傍証であると、軽々しく他人へ伝える前に立ち止まって考えるべきでしょうね。SNSなんか、そのような「面白さ」だけで成立しているようなところもありますしね。新聞やTVなどメディアからの情報であってもそれは同じです。教科書に書かれていることだって間違いはあります。
    不特定多数の人間に向かって自分の考えを伝える「能力」をこれほど多くの個人が手にしたことは、ネットの発達によるものです。これまでは、一部の政治家・行政担当者、大手メディア関係者、売れているライター、などごく限られた人間だけが有していた「権力」であったとも言えます。現代では、その権力が一般個人にも開放されました。
    しかし、どのような権力も、これを濫用すれば必ず社会にとってマイナス面が生じます。将来的には、おそらく、ウソ情報を社会へ広める行為に対して、現在よりももっと厳しい刑罰が課せられるようになると思います。
    そのような社会にならないためには、その権力を使う側である「国民」の行動次第なのですが・・・。が、ガセやデマを流すのに片棒担ぎたがる欲求は、人間にとって普遍的なものですから。厳しい刑罰を与えるのでない限り、世の中の人が自粛することはないでしょうね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。