ちょっと前に、日本の会社で働くスペイン人女性をお寺へ連れて行った。
そこで早速、筋骨隆々の金剛力士像とご対面。(上の写真)
日本のお寺の入り口にはよく、口を開いた阿形(あぎょう)と、閉じた吽形(うんぎょう)の2体の金剛力士像(仁王像)が立っている。
金剛力士とは仏敵を退散させる一撃必殺の武器・金剛杵(こんごうしょ)を持つ者のことで、これを振り上げた状態で入り口に立って魔を粉砕し、内部の神聖な空間を守っている。
「敵と戦うことが役割だから、日本中の金剛力士像はこんな感じのマッチョです」と話すと、彼女が「それスペイン語なんです」と言う。
え?と思って話をきくと、マッチョ(macho)とはスペイン語で「オスの〜」という意味のことばで、日本語を学んでいる彼女に言わせると、「日本人ならみんな知っているけど、ほとんど知られていないスペイン語」だ。
ボクもそれは初耳で、「ポン酢はオランダ語」と知ったときなみの驚きだ。
スペイン語の「macho(マチョ)」はそのまま英語の「macho」になっているから、日本にはその英語が伝わったかもしれない。
でもこの語源がスペイン語なのは間違いない。
辞書(大辞泉)によると、マッチョはこんな意味になる。
1 筋骨たくましいさま。また、筋肉美を誇る男性。
2 男性優位を誇示するさま。
先ほどの女性の話では、いまスペインでは1よりも2の意味で「マッチョ」がよく使われている。
日本だと筋肉美の外見から細マッチョ、ゴリマッチョなんて言うけど、スペインでは勇敢さやたくましさ、攻撃性といった“男らしさ”をあらわすときにこのことばを使うらしい。
日本のネットにも「マッチョな思想」「マッチョな価値観」ということばがあるから、これで人の内面を指す場合もある。
マチョ(マッチョ)は形容詞で、名詞のmachismo(マチスモ)は男性優位主義を意味するから、このスペイン人女性は「男尊女卑のイメージがあります」とこのことばを嫌っていた。
むかしのスペインでは男の強さや魅力を強くアピールする傾向があったけど、いまでは男女平等の意識が広がっているから、特に若い人の間でそういう考え方や生き方を「完全に時代遅れ」とみることが多いという。
日本でもマッチョな価値観や思想を受け付けない人はいる。
ウィキペディアにあるマッチョの説明には、「タカ派、右翼、保守、男尊女卑」といったイデオロギー(政治的信条)がマッチョ的で、「ハト派、左派、リベラル、両性平等」はその反対、つまり軟弱とみなされるとある。
さて、お寺にはこんな天狗が神として祀られていた。
天狗の鼻は何かのシンボルと言われているのが、ご存じだろうか。
天狗の長い鼻は、実は男性器をあらわしているという説があるのだ。
「精力剤 天狗」で画像検索してほしい。
明らかにそれを意識した商品がたくさん出てくるから。
そのスペイン人は日本の文化や歴史に興味があるというから、これも民俗学だと思って教えると、「へ~、そうなんですか」のあと、「その考え方はマッチョみたいですね」と言う。
マッチョやマチスモということばには、男性の”性的なたくましさ”のニュアンスがあるらしく、いまのスペインの女性はこういう意味のマッチョを特に嫌う。
まぁわかる。
つまり金剛力士のようなマッチョはいいけれど、天狗のような”エロたくましい”のはNGらしい。
後日、ここで書いた話をイギリス人女性にしたところ、「英語のマッチョも同じ。ネガティブな意味のほうが大きいし、その天狗の話には特にマッチョの悪い印象がある」と言う。
「マッチョな男」というのは自分の意見を一方的に押し付けるような男性で、「女性の敵」というイメージがあるとか。
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> いまのスペインの女性はこういう意味のマッチョを特に嫌う。
> 後日、ここで書いた話をイギリス人女性にしたところ、「英語のマッチョも同じ。ネガティブな意味のほうが大きいし、その天狗の話には特にマッチョの悪い印象がある」と言う。
うーん確かに、昔よりもその考え方が、特に欧米社会において拡まりつつあるのは私も承知しているのですが。おそらく、フェミニズム、リベラル思想、ジェンダーフリーなんかと関係があるのでしょう。
まあでも、あくまで「一般論としては」の話であると承知しておく方がいいでしょうね。
私が知る限りでは、逆の価値観を有する欧米人女性も意外と多いですよ。と言っても、それを口に出す人は(周囲からの非難を恐れて)少ないですが。
はじめて『マッチョ』の起源を知りました。外国人に対してはカタカナ英語はあまり使わない方がいいかもしれませんね。『やさしい日本語』を使うようにしたいです。和製英語は特に注意が必要ですね。
パワースポットとかコスパとか、和製英語にとまどう外国人は多いですね。
何が和製英語か分からず使って、こっちがとまどうこともあります。