ヨーロッパ生まれで、むかしから日本のアニメで人気のキャラクターが魔女。
魔法を使って何でもありの不思議現象を起こせるという設定は、作者にとっては便利で使い勝手がいい。
アニメで出てくる魔女はかわいい少女でアクティブで、ほうきにまたがって空を飛び、世のため自分のためにいろいろユニークな魔法をかけるというイメージ。(ボクの中では)
最近の日本で人気を集めたのがこの魔女。
だかしかし、こんな魅力的でかわいらしい魔女が出てくるのはアニメの世界であって、歴史上の”ガチの魔女”の話はまったく違う。
ほのぼのしたり共感できるポイントはなく、何というか、そこはただひたすらグロくて残酷な世界。
実在すると信じられていた数百年前のヨーロッパでは、魔女とはこんな禍々(まがまが)しい存在と考えられていた。
魔女たちは悪魔と契約を結んでその助力を受け、魔術を使って人間や家畜に不妊・病・死をもらし、穀物を台無しにする。魔女の犯罪が魔術という手段によって行われる以上、たとえば物証により立件することはきわめて難しい。したがって、魔女の罪は「例外の罪」とされ、特別な規則のもとで裁かれることになった。
「魔女狩り (ふくろうの本) 黒川正剛 」
日本でいえば応仁の乱のころ、15世紀にはヨーロッパで「ほうきに乗った魔女」というイメージができていた。
これも契約のひとつかもしれないが、悪魔と性行為をおこなって不思議な力や薬を手に入れた魔女もいた。
もちろん「魔女」なんてフィクションの存在で、この時代のヨーロッパにいたキリスト教徒が頭の中でつくり出した想像上のバケモノだ。
でも、悪魔と契約を結んで魔術を使い、人や家畜に病や死をもらすという話を事実と信じて震えたヨーロッパの人たちは、それを排除するために「魔女狩り」という壮大な愚行をおこなって、15世紀から18世紀までに4万人~6万人の”魔女”が処刑されたといわれる。
この”人間狩り”は16世紀から17世紀にかけてもっとも激しくなり、17世紀末に衰退していく。
魔女という特別な存在に通常の人間のルールは適用されない。
「例外の罪」とされた魔女の罪を暴くため、その疑いをかけられた(実際は無実の)女性には拷問を加えることが認められて、何百リットルもの水を飲ませる、指をつぶすといった残酷行為がフツーにおこなわれた。
正義のために罪を裁く側が悪魔だったという、まったく笑えないことが当時はヨーロッパ全土で起きていた。
ちなみに魔女とされた人には女性だけでなくて男性もいる。
「キリスト教の敵」と考えられていた魔女は、身動きのとれない状態で民衆の前で生きたまま焼かれた。
存在をすべて消すため灰になるまで焼き、残った灰は風にまかせたり川に流すこともあったという。
ではどんな人間が「魔女」とされたのか?
ちょうどこのまえテレビの旅番組(たぶんNHKBS)を見ていたら、ドイツの都市であった魔女狩りについて説明していた。
*魔女の集会「ワルプルギスの夜」のあるブロッケン山の近くの都市だと思う。
そこでは、各種薬草からいろいろな薬を作って人々に売っていた薬師の女性がターゲットになった。
そういうことをされると、病気やケガの治癒を願って教会に来て、聖職者にお祈りをしてもらう人たちが減ってしまい、そのぶん教会の収入もなくなってしまう。
聖職者にわたすのはカネかモノかわからないけど、とにかくタダではなかった。
こういう教会にとって薬を調合する人間は邪魔だから、「魔女」とでっち上げて処刑したという。その数は確か10人以上だったと思う。
調べてみると、当時は確かにそんなことがあったようだ。
古代からヨーロッパ人は、植物には人間や動物に苦痛を与えたり病気から救ってくれる、さらには性欲を刺激したり幻覚をもたらすといった力(効果)があると信じていた。
こうした植物について深い知識のある女性は、むかしのドイツ(ゲルマン人)社会では「賢明な女」と呼ばれ、特別視されていた。
薬草の知識があり、森に入って植物を採って薬を調合していた女性は、あの狂った時代には「魔女」に結びつけられることがあった。
ぼう大な知識を身につけるにはそれなりの経験と時間が必要で、ターゲットにされたのは年を取った女性だったらしい。
「魔法の植物のお話 (浅井治海 著)」の紹介にこんな文がある。
中世から近世にかけて、キリスト教会は薬草の知識に富む女たちを自ら作り出した悪魔と結び付けて独自の魔女とし、それらを排除せんとしたのが非道の魔女狩りで、多くの無実の女性が焼き殺された。多くの魔女伝説が生まれ、近世には悪魔、魔女、魔法などを娯楽として利用した商業資本も現われた。
こういう有益で貴重な人たちを「悪魔と契約した者」とみなして焼き殺す蛮行は、ヨーロッパ各地であったのだろう。
ヨーロッパの魔女の絵(15世紀)
得体の知れないモノから薬を作っているように見える。
そのことについて知人のドイツ人にきいてみらから、以下、彼の意見を紹介しよう。
薬草を作っていた女性が魔女として殺されたという話は初耳だけど、当時のドイツやヨーロッパならそれは十分考えられる。
魔女と薬作りはセットで考えていいほど密接な結びつきがあって、いろんな植物やトカゲやカエル、人間や動物のフンとかを混ぜ合わせて不思議な薬を作り出すイメージが魔女にはある。
薬師の女性には貧しい人が多かったから、魔女の疑いをかけられた時に守ってくれる有力者はきっといなかった。
それにあの時代の教会なら、金もうけのために無実の人を殺すことがあっても自分は驚かない。
ただ最初から最後まで、すべて教会がおこなったという話には違和感がある。
というのは、「あいつは魔女だ」と告発するのは一般人のすることで、教会はそれを確かめる役割を担っていたから。
だから気に入らない薬師がいたら、教会が村人に金をわたして、その人間を魔女と告発するよう仕向けたのだろう。
その人間が消えれば、そのぶん教会はもうかるのだから。
別の機会にポーランド人にきいてもこう言う。
「その話は知りませんでした。でも、ポーランドでも同じことがあったと思いますよ。正義の象徴であるカトリック教会は絶対的な権力を持っていて、都市や村の人間は誰も逆らえませんでした。彼らは神の代理人として何でもできましたから、嫌いな人間を魔女として”処理”することも可能だったでしょうね」
ということで「魔女の旅々」や「魔女の宅急便」とリアルとの差が、おわかりいただけただろうか。
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> 別の機会にポーランド人にきいてもこう言う。
> 「その話は知りませんでした。でも、ポーランドでも同じことがあったと思いますよ。・・・
ははは、よく言うよ。
アウシュビッツが、現在のポーランドの地にあったことを、日本人含めて世界の人々は事実として知るべきだ。
ポーランドはナチスの被害者でしたが、アウシュヴィッツの場所はそうですね。