6月5日は国連が定めた「環境の日」(World Environment Day)。
日本が提案したことから、環境について考えるこの世界的な記念日ができたらしい。
環境といえば最近、アメリカ人とイギリス人と一緒にハイキングをしたとき、「森林浴」を英語で何と言うか聞いたら、「そんなことばは知らない」とのこと。
スマホで英語訳を調べると「Forest bathing」と出てきたからそれを見せると、2人ともそれではどんな目的で、何をするのか想像できないと言う。
森の中を歩いて自然を楽しんだり新鮮な空気を吸って、心や体をリフレッシュすることならアメリカ人もイギリスもよくする。
でも、それを一言で表す「森林浴」みたいな英単語はないらしい。
後日、別のアメリカ人に話しても、「Forest Bathing」なんてことばは初耳で意味もわからなかった。
そう聞くと、森にある川に入って身体を洗うイメージが思い浮かぶらしい。
で森林浴の目的や活動を伝えると、英語でそれを言うなら「エンジョイ・ネイチャー」や「ネイチャー・ウォーク」になるという。
そのアメリカ人はポーランド出身で、アメリカでもポーランドでも森や自然公園の中を歩く人はたくさんいるけれど、それは楽しむことが目的で、体に良いとか健康のためといった意識は特にないらしい。
健康法というのなら、森の中をジョギングしたりハイキングするのが欧米では一般的だとか。
森の空気は新鮮で気持ちがいいというのは分かる。
でも、マイナスイオンを体に浴びるという話は聞いたことないし、それが健康に良いという考え方もよくわからないという。
ドイツ人の話でも、森を歩いたり自転車で走るのはみんな普通にするけど、それはレジャーであって健康法ではない。
「森林浴」という発想は海外由来ではなくて、日本人独特のものだったのか?
調べてみるとビンゴ、これは日本で生まれた健康法であり文化だった。
1982(昭和57)年に林野庁の長官が、温泉浴・海水浴・日光浴などを参考にして「森林浴」という新しいことばをつくり出す。
これは日本人が考案した漢字語で、中国や韓国でも「森林浴」を使うらしい。
*韓国語の場合は森林浴をハングル表記した「삼림욕」。
台湾人に聞いたらこんな返事がきた。
「森林浴是指以增進健康和快樂為目的的方式體驗大自然的過程。森林浴 (shinrin-yoku) 本來是日本名詞,意思是讓自己沐浴在森林的氣氛之中。」
(機械翻訳)森林浴とは自然を体感することで、健康や幸福感を高めることです。 森林浴とは森の空気を浴びることを意味する日本語です。
当時の林野庁が提唱した「森林浴構想」では、
「森林の中には殺菌力を持つ独特の芳香が存在し、森の中にいることが健康体をつくる。森林国である日本は条件に恵まれており、これを大いに活用すべき。」
とあり、「森の香り浴び心身鍛えよう」というキャッチコピーで森林浴を国民に推奨した。
それが広く受け入れられて、一般的になり現在に至る。
英語なら健康法という面を重視する「ecotherapy」ということばが森林浴に近いらしい。でもこれは森林浴よりもっと広い意味になるから、やっぱり英語にするのは無理そうだ。
「forest theray」でも外国人には意味がよく分からないだろう。
海水浴や日光浴と違ってこれは日本独特のものだから、海外のサイトでは「Shinrin-yoku」と表現してその意味や目的を説明することが多いようだ。
アメリカ人と話をしていると、「森林浴は日本人の言うパワースポットの発想に近くないですか?」と質問された。
パワースポットは和製英語で外国人には謎ワードだから、「Wi-Fiがよく通じるところ?」と真顔で言うアメリカ人もいた。
英語なら「spiritual energy(霊的エネルギー)」を感じることができる場所のことで、こういう発想がそもそも欧米では一般的にはないらしい。
日本ではアメリカのセドナが有名で、ネットを見ると「世界一のパワースポット」とか「最強パワースポット」と紹介されているのだけど、そのアメリカ人は「セドナって初めて聞いた。なんでそこがパワースポットなの?そもそもそれはどこの州にあるの?」という状態。
森林浴やパワースポットという日本人の独特の発想には、縄文時代の影響があると思うのですよ。
縄文時代は1万年以上ととんでもなく長い時代で、文字での記録が残っていないのが残念無念だが、もうすぐ世界文化遺産に登録される「北海道・北東北の縄文遺跡群」のように豊かな文化があったことはハッキリ分かっている。
森や海の豊かな恵みを受け、クリなどを栽培しながら生活していた縄文人には、祭祀を行うといった文化もあった。
漆や天然のアスファルトを使っていたことから、高い技術を持っていたことも分かっているし、「北海道・北東北の縄文遺跡群」には障害者を介護していた痕跡があるという。
縄文時代の日本人は森と共生していた。
神道を代表とする日本人の精神文化の原点はこの時代にある。
森林浴は言ってみれば、縄文時代に戻るようなもの。
だとすれば、外国人には分かりづらいのは当たり前。
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> 森林浴やパワースポットという日本人の独特の発想には、縄文時代の影響があると思うのですよ。
> 縄文時代の日本人は森と共生していた。
> 神道を代表とする日本人の精神文化の原点はこの時代にある。
別に縄文時代にまで戻らなくても、それ以降も、これまで脈々と続いてきた日本の歴史においては、いつも「森林と共生する文化」が完全には途切れず受け継がれてきたのではないですか?
そのことは、現代でもしばしば語られるところです。たとえば宮崎アニメ「もののけ姫」なんかを見れば、すぐに理解できるはず。その思想が外国人にも理解・共感できるからこそ、あの作品は、日本アニメの代表作として世界中でヒットしたのでしょう。
ただしそれらは、欧米の物質科学的理論では全く説明できない現象です。「森林浴」を英語で説明するのであれば、おそらく、森林の環境中で healing という感覚作用を積極的に利用して「精神的治療」や「健康増進」を図ることに近いのでは? ま、一種の「超能力」みたいなもんですね。つまり、日本伝統文化を精神的に受け入れる基盤があってこそ、効く人には効くという作用です。決して人類共通のものではない。
でも外国人だって、ロシア人や東欧人には、これと近い感覚を持った人が時々いるような気がします。