日本語を勉強している外国人は、わりとコトバに敏感だ。
だから日本で生まれ育った人なら、スルーしてきたことにも疑問を感じることがある。
以前、タイ人から「天然」と「自然」の違いを聞かれて、死んだふりをしようと思った。
なんでも問題集では「自然のエビ」は×で、「天然のエビ」が〇になっているのを見て、彼にはその理由がわからなかった。「マイペンライ」とはいかず、その違いが気になった。
そうは言われても「自然のエビ」がダメで、「天然」が正解である理由を説明できる日本人なんて一体どれだけいるのか。
でまえにイギリス人から聞かれて、またも死んだフリをしようと思ったことばが「ゴリ」。
ゴリマッチョのゴリではなくて、「ゴリ押し」のゴリのほう。
その実力や質からすると「なんでこれが?」と不自然に思ってしまうほど、猛プッシュされているヒトやモノを見たときに感じるのがゴリ押し。
前もって「推して参る!」と宣言するならまだしも、自然をよそおって視聴者に刷り込ませようとするから、ゴリ押しは見抜かれ嫌われる。
さて、このゴリとはそもそも何なのか?
そのイギリス人は、英語を教えている日本人の生徒の会話の中でこのことばを聞いた。
「ゴリ」という響きが耳に残ってその意味をたずねてみたら、みんな「知らない」と言う。
「ゴリ押し」は日本人なら誰でも知ってることばというけれど、「ゴリ」に疑問を感じた生徒は一人もいなかった。
こういう細かいことは、日本語を学ぶ外国人のほうが案外気づきやすい。
当然、この逆もある。
そのイギリス人は生徒から、「will」と「be going to」の違いを質問されて、「そんなこと考えたこともなかった!」とビックリしたらしい。
「ゴリ押しのゴリって一体なに?」とイギリス人に質問されて、力強いゴリラが何かを押す絵が思い浮かんだのだが、調べてみたらぜんぜん違った。
ゴリというのはゴリラと違ってかなりの弱小の、でも唐揚げにすると美味しい川魚のカワヨシノボリのことだった。
ハゼ科のゴリ(カワヨシノボリ)は、川底の石の間なんかにじっとしていることが多く、「石伏」と呼ばれることもある。
この小魚を捕まえるには網を仕掛けたうえで、ワラの束やそれ用の道具を使って川底をこするようにして、前方にある網の中に追い込んでいく。
この「ゴリ押し漁」から、現在の「ゴリ押し」が生まれたという。
「ゴリ押し」で不快感を感じるのは、相手が望む方向に動かされるからか。
「ゴリ押し板」を使ってゴリを獲る。
(国土交通省HPのキャプチャー)
国交省のページにはこんな説明がある。
「川底にいる魚を板と追い出し網をつかってとる漁法。「ゴリ」とはカジカのことで、2人1組で、石の下にひそむカジカを驚かせて網に追い込む。」
なるほどなるほど。
ゴリ押しのゴリとはこういうことだったのか。
外国人といると日本語をおもしろく感じたり、歴史の理解が深まることがある。これが多文化共生のいいところ。
ちなみに英語だと「aggressively promoted」や「by force」みたいに、力で無理やりねじ込むようなパワー系のことばになる。
これには特に文化的な背景はなさそう。
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日本語学校の講師が苦労する例ですかね。漫画本が出てますけど。
疑問を抱いてちゃんと調べてみるとは、すごいですね。
普通の日本人だったら、「そんなの、『ゴリゴリに押し付けるから』に決まってるだろ!」と言うと思う。
私もそう思ってました。
語源をたどると、けっこう面白い発見がありますよ。
いまはスマホですぐ調べられますし。