【韓国の歴史教育】個人攻撃を生む、“正義が悪を裁く”の発想

 

韓国のキム・ヤンホさんはいま元気で暮らしているのだろうか。

キム氏はソウル中央地裁の裁判長として、元徴用工裁判で韓国人の原告の訴えを棄却し、実質的に敗訴を言い渡した人物だ。
この問題は1965年の日韓請求権協定ですでに解決済みで、それを認めたキム氏は日本企業側の主張に合う判断を下した。
国際法を重視した、今回の判決を支持する韓国の法律関係者もいる。がその声はか細い。
これは国民感情を否定する内容だったから、与党は「戦犯国の国益を優先した」「国民感情に合わない」と激おこ、「親日判決だ」と猛批判する韓国メディアもあった。
「親日派(=売国奴、裏切り者)」と認定されたキム氏はすさまじい個人攻撃を受けたという。

FNNプライムオンライン(2021/06/11)

日本企業に賠償を命じた最高裁判決の際には「司法を尊重すべき」との立場だった人達が、手のひらを返して裁判官を個人攻撃しています。「親日を許さない」という論理の前には、司法の独立など些末な問題のようです。

“元徴用工”敗訴で「親日判決だ」と裁判官を個人攻撃 司法を尊重しない韓国の矛盾

 

日本企業に賠償を命じる判決を下した時には「司法を尊重すべき」、「政治が司法に介入できない」と言っていた政治家が、逆の判断が出たら司法を踏みにじって裁判官を攻撃する。
手のひら返しとかそんなチャチなもんじゃねえ、だから文政権のことばは日本で信用されない。

大統領府のホームページには、「反国家的、反民族的判決を下した判事」としてキム氏の弾劾を求める請願が出された。
反日情緒には距離を置き、法に基づいて出された判決なのに、韓国社会では「売国的軽挙妄動」と非難される。
「果たしてこの者が本当に大韓民国国民なのか疑問を感じるほど、反国家的、反歴史的な内容」、「民族的良心を回復するためにも、キム・ヤンホ判事を直ちに弾劾措置しなければならない」というこの国民請願は大統領府HPで公開されてから、27万以上の同意を集めた。

これと対照的なのが日本だ。
この朝日新聞の社説のように、日本では国際法を重視したこの判決を支持する声がほとんどだ。(2021年6月10日)

新たな判決に共通しているのは、国際法の流れなどに重点を置き、国交正常化以来の日韓双方の努力や苦心の経緯を評価している点である。

日韓歴史問題 外交解決の責任果たせ

 

いつも思うが、歴史問題で国民感情に反することを行った人間に対して、韓国社会はやり過ぎる。
2015年に釜山の日本総領事館前に慰安婦像が建てられたとき、それは国内法に違反していたため、区長が撤去を命じたところ、市民の大反発にあって結局は区長が謝罪に追い込まれた。

“反日無罪”の韓国:法を守った側が謝罪し、破った側が勝ち誇る

この区長の行動は完全に正しい。
法律を守ろうとした側が、破った側に頭を下げるという事態が異常。
でも韓国では国民感情がときに法を超えた絶対的存在になるから、日本ではありえないような逆転現象も起こる。
その感情に反すれば「親日判決」となり、政治は司法を否定し、裁判官は全方向から袋叩きにされてしまう。

この根本には韓国の歴史教育の影響があるはずだ。

 

 

上の人物、李完用(1858―1926)は韓国の代表的な裏切り者で、いま最も国民から嫌われていると言っても過言ではない。
韓国が日本の保護国となり、主権を“売り渡した”といわれる第二次日韓協約の締結において、大臣だった李完用は中心的な役割を果たした。

この協約に賛成した彼を含めた5人の大臣は乙巳五賊(いっしごぞく)と呼ばれ、韓国国民からは国賊と認識されている。
いわば「国家公認の売国奴」だから、中学生を対象とした韓国の歴史教科書(民間版)を見ると、こういう人間を殺害することこそが“正義”のように書かれている。

侵略の元凶である日本人とこれと協力して国を売ることに先頭に立っていた売国奴たちを処断しようとする義挙活動も活発になった。

「躍動する韓国の歴史 (明石書店)」

 

正義の立場で悪を裁く(処断)という愛国心から生まれる行為はなんでも正当化されるから、殺人さえ教科書では義挙活動になってしまう。
この部分を読むと、「五賊暗殺団をつくって乙巳条約(*第二次日韓協約)に賛成した5人の大臣を処断しようとし」、李 在明(イ・ジェミョン)は「李完用を処断しようとしたが、不幸にも成功しなかった。そして、安重根は乙巳条約を強要し、初代総監としてわが国侵略の先頭に立っていた伊藤博文を射殺した」とある。

李完用を殺害しようとしたイ・ジェミョンは、このテロ行為によって処刑された。
でも独立後の韓国ではこれは義挙。
だから彼は英雄にされ、1962年には政府から建国勲章大統領章を受勲された。さらに2001年には、大韓民国国家報勲処によって「今月の独立運動家に選定」された。
明洞聖堂入口には暗殺未遂事件の記念碑が建立されている。

現在の韓国社会の価値観からすると、こういう反国家的、反民族的な人間を排除することは”正義”だから、教科書の記述も好意的だ。

日帝の侵略に対するわが民族の反対の意志を明確に示し、主権回復を願っていたわが民族に勇気と自信をあたえた。そして、より組織的で、体系的な主権回復運動へとつながった。

 

でも、この書き方は一方的すぎる。
当時の国際情勢や大韓帝国の国力からすれば、日本に支配されることはもはや避けられなかったのが現実だ。

第二次日韓協約の直前(1905年)、日本とアメリカは「桂・タフト協定」を結び、アメリカは韓国における日本の支配権を確認し、日本はアメリカのフィリピンの支配権を確認した。
さらに同じ年、日露戦争の勝利のあとに結ばれたポーツマス条約で、ロシアは韓国における日本の政治・軍事・経済上の利益を認めた。
韓国が日本の支配下に置かれることは米ロが承認していたし、当時の韓国にはそれをはね返すだけの国力がなかった。
ここまできたら、保護国化はもう免れなかった。
これは国際社会で認められていたから、日本が韓国を支配することになったときに反対する国はなかった。

李完用をはじめ「乙巳五賊」と売国奴認定されている人たちも、国のために、できるだけのことをしたかったかもしれない。
でも、弱い国は強い国に吸収されるこの帝国主義の時代、個人の力ではもうどうしようもなかった。
「国を売ることに先頭に立っていた売国奴たち」と書かれたところで、当時は誰が大臣になっていても、この運命を避けることはできなかったはず。

でも教科書の記述は一方的・独善的で、正義の側から悪を討つよう描かれている。
「親日判決だ」と裁判官の弾劾を求める人もきっと同じ思いで、「処断しないといけない」と考えているのだろう。
でも、まったく別の歴史教育を受けている日本人から見ると、それは個人攻撃でしかない。
ネットで個人情報を暴露されたキム・ヤンホさんやその家族は、いまどんな思いで生活しているのか。

 

 

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3 件のコメント

  • こんにちは。
    こういう話を聞くたびに日本人でホント良かったと心底感じます。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。