「アメリカでは英語を話せ」という日本人・韓国人への差別

米大リーグ（MLB）での大谷選手の活躍が人類離れしている。
ピッチャーとしてはすでに４勝を挙げていて、打者としても33本のホームランを打ってア・リーグでトップを独走中だ。
米メディアの「デンバーポスト」は３年前のコラムで、「死ぬまでに見ておきたいもの」に万里の長城とアイスランドのオーロラと、それと大谷選手の打撃練習を挙げた。
そしてきょう行われるオールスターでは、「二刀流」を見てみたいと両リーグの監督が言ったことから、大谷選手は先発のマウンドに上がり、同時に１番で打席にも立つという特別ルールが適用された。
オールスターで投手と打者の両方で出場する選手は、MLBの歴史上これが初めてだ。

ただこれだけ活躍すると、”ケチ”をつけたくなる人がでてくるらしい。
アメリカのスポーツ番組の有名司会者が大谷選手について「通訳が必要な男」で、英語を話せないのは良くないといった発言をして、外国人嫌悪の発言だとファンが激怒。
それだけでなく、アメリカの著名人から「正真正銘の人種差別だ」、「彼は停職処分になるべき」、「本当にむごい外国人嫌悪の発言」、「ESPNはこんな男に年1000万ドルを払っているのか？」と集中砲火を浴びた。

いまアジア人へのヘイトクライムが重大な問題となっているアメリカで、この一言は職を失わせるには十分の破壊力を持っている。
１年で10億円以上の稼ぎをこんなミスで失うわけにはいかない。
司会者はすぐに「心から謝罪します」と頭を下げて、全力でこんな釈明をした。

自分は大谷選手はもちろん、どんなコミュニティの人も怒らせるつもりはありませんでした。
アフリカ系アメリカ人として、ステレオタイプのイメージが多くの人を傷つけてきたことをよく知っています。
私の発言はたしかに無神経なものでした。過ちを犯しましたし、その責任は私にあります。
私のコメントで迷惑をかけたことを、心からお詫びします。

I’m sincerely sorry. pic.twitter.com/pANjWTrD4X

— Stephen A Smith (@stephenasmith) July 12, 2021

「郷に入っては郷に従え」は世界の常識。
といってもそれはその社会の価値観や考え方、法律の話で言語は関係ない。
どこの国でも母国語で話すことは認められているし、「アメリカでは英語を話せ」という声はアメリカが大事にする価値観に反している。
有名人がそれをしたなら、「ジャンピング土下座」並みの謝罪は避けられない。
日本ではアメリカ人に対して一般的に「謝らない人たち」というイメージがあると思うけど、人種差別関連については驚くほど平身低頭する。
日本だったら外国人選手に「日本語を話せないのは良くない」と言ったとして、ここまでの問題になるだろうか。

こんな大事に至らないとしても、「アメリカでは英語を使え！」と迫る差別事件のニュースはちょくちょく見る。
2019年にはスターバックスで韓国人が韓国語でおしゃべりをしていたら、店にいた白人女性が「ここはアメリカだ。英語を使え！」と激怒した。
「当店ではどんな言葉を使ってもかまいません」と言う店員を無視して、文句を言いつづけるこの白人女性は、最後は店の通報で駆けつけた警察官によって追い出された。

くわしいことはこの記事を。

言葉も差別の原因：アメリカ人はどれだけ外国語が不快なのか？

近年のアメリカでは人種差別事件が本当に多くなった。
そのワケを何人かのアメリカ人に聞くと、もれなくみんなと言っていいほど「それはトランプのせい」と指摘する。
違う人種を差別・侮辱する気持ちは正直いって、人々の心の中にあった。
でも、「それは絶対にいけない」という社会的な空気があって表面化することは少なかったのに、トランプ前大統領が差別的な発言を連発して、そのパンドラの箱をパかっと開けてしまった。
するとそんな発言に慣れてしまったり当たり前と思うようになって、憎悪や偏見、蔑視といった悪魔が社会に解き放たれた。
バイデン大統領になったアメリカにはまだその“後遺症”が残っていて、その後始末に追われているらしい。
日本人や韓国人に対する「アメリカでは英語を使え！」という外国人嫌悪・人種差別も、そうした社会の空気が影響しているのだろう。
政治家の言葉は本当に重い。