ヨーロッパのフェミニズム:男が女におごるのは「差別」だと?

 

11月25日の記念日は「OLの日」。
1963年に企業で働く女性を表す「OL」(Office Lady)という言葉が、日本で初めて女性週刊誌に載ったことからこの日が爆誕。
ただ、このオフィス・レディーという響きから、「女性蔑視だ、差別だ」と思うイギリス人もいたから、もし欧米人の前でこの言葉を使うなら、チョット意識したほうがいい。

イギリス人が日本で驚いた“女性蔑視”、OLという和製英語

 

日本人には問題ない行動や価値観でも、ヨーロッパ人からすると「いやそれはマズいでしょ」と思うような事例はよくある。
ある日本人の女性が「男性と遊びに行くときは、よくおごってもらう」と何気なくネットに書き込んだところ、イタイ女性から、いやイタリア人女性から「それはEUだと女性差別になります」というコメントがきた。
すると「いえ、そういうつもりじゃないデス」という日本人と、「いえいえ、それは差別です」というイタリア人との間でちょっとした感情的なやり取りに発展した。

男女の性差に触れない中立的な「office worker」や、具体的な仕事を表す「secretary」ならいいけど、「Office Lady」だと女性を下に見ている感じがするというイギリス人の意見なら、日本語ではなく英語の感覚からするとまあわかる。
でも男が女におごることも、女性への蔑視や差別になるのか?

 

 

このあとドイツ人男性と話す機会があったんで、この「EUでは差別」案件についてどう思うから聞いてみた。
彼の意見は、ひと言でいうと「んなワケない」でこんな話をする。

同じEUの国に住む自分は、親からそうするよう言われて育ったこともあって、女性と食事に出かけるときは自分がお金を出すようにしている。
デートをしていたら、レストランのドアを開ける、イスを引く、女性のジャケットをかける、そして食事をおごることもアタリマエと思っている。
でも、いまのドイツの男性でこういう考え方をしているのは少数で、20%ぐらいと思う。
年代によって考え方や価値観は違うし、EU全体となるともっと分からないけど、若い男女なら自分のものは自分で払うという人が多い。

ただ自分の場合、お金を出していいかどうかを必ず聞いて、その女性の決定権を尊重するようにしている。
日本のアニメやドラマを見ていたとき、相手の意見を聞かずに「ここはボクが払うよ」と言って男がレジで支払うシーンを見てあれは失礼だと思った。
一緒に映画を見に行くとき、男がすでにチケットを買っていて、映画館に着いたら「はいこれ」と女性に渡すのもダメ。
女性に判断させないのは「ごう慢」な態度だと思ったけど、(アニメかドラマの)女性はよろこんでいたから意外だった。
日本の文化ではそういう配慮がいいのだろう。
でも、ヨーロッパの女性なら不機嫌になる確率が高い。

 

ということで彼の話だと、男がおごるかどうかより、その決定を女性にさせることが大事になる。
ヨーロッパにはいろんな価値観や考え方を持つ人がいるから、「それはEUだと女性差別になります」とひとまとめにするのは間違い。
それは個人の意見で、EUを代表するものじゃない。
でもEUにいるフェミニストなら、「男はおごるもの」という考え方を、女性への差別と受け止めるのははわかるという。

ラテン語の「femina(女性)」を由来とし、女性解放思想を意味するフェミニズムは1789年のフランス革命の影響で生まれたといわれる。
このとき採択された「人間と市民の権利の宣言」(フランス人権宣言)のなかの「人間」の解釈をめぐってこんな問題が起きた。

この「人間」とは「男性」のことであり、男性にのみ権利を与えることに対して女性が抗議し、女性の権利を求める運動が欧州各地に広がった。これがフェミニズムの誕生とされる。

フェミニズム

 

起源はフランス革命の理念となった人権思想にあるから、フェミニズムの考え方は欧米で特に発達した。

話をデートに戻そう。
ドイツ人との話で感じたことは、ヨーロッパでは相手の決定権を尊重する態度を示せば基本的にOK。
もし食事で女性におごりたいと思ったら、相手の判断を優先してどうするかがきまる。
女性にたずねないで男性がお金を出すと決めるのは、相手の権利を奪うことになるから、それは女性への軽視や差別的な行動と感じる人はいる。
*同じオゴリでも、これは奢りというより驕りだ。
ドアを開けたりイスを引いたりというのは常識やマナーだから、いちいち相手に聞く必要もない。

そんなことを話す知人のドイツ人は、「にせフェミニスト」が嫌いらしい。
自分の価値観と違うことが許せないから、女性の権利を理由にして、社会のいろんなことに文句を言う人はフェミニストではない。
そういう人間は社会の反感を買って、むしろ女性の権利拡大にとってはジャマ。
*上の電車を見て、「サベツだ!ベッシだ!」と怒り出す人もいるかもしれない。

 

それと冒頭のイタリア人みたいに、自分の意見を「EUでは~」と何かに権威づけて語る人は日本人でも外国人でもよくいる。
「アメリカではこれが普通」という日本人の話をアメリカ人にすると、「ナニソレ知らない」という反応が返ってくることも何度かあった。
実際は自分の個人的な感想を伝えているだけのことだから、否定されても熱くなる必要はない。

 

 

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3 件のコメント

  • > それは個人の意見で、EUを代表するものじゃない。

    それも間違いだと思いますよ。正しくは、
    「それは個人の意見で、EU国民の全員が同意するものではないが、多数派の意見だ。」というのがより正確。
    ちなみに、ドイツ人はヨーロッパの中でもとりわけ「個人主義」を重視する傾向があるので、そういった「ナニソレ知らない」という態度を(知っていても)わざと取るのでしょう。米国人も同じです。なぜなら、米国白人社会の主流派はアングロ・サクソン・ゲルマン民族であり、その文化を引き継いでいる人が多いからです。

    米国(及び短期間のヨーロッパ)滞在中に私が最も違和感を覚えたのは、エレベーター出入りの女性優先ですね。これがなかなか身につかなくて、何度も彼ら・彼女らに注意されました。
    男女平等だったら、日本と同じように、出入口に近い乗客から出入りするのが当然だと思うのですがね。

  • >EU国民の全員が同意するものではないが、多数派の意見だ。
    もしこの具体的なデータがあったら紹介してください。

    >ドイツ人はヨーロッパの中でもとりわけ「個人主義」を重視する傾向がある
    これも根拠が必要でしょう。

  • ゲーテ「外国語を知らない者は、自分自身の言語について何も知らない。」
    出典: 『箴言と省察』

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。