理解できない「呂布人気」 日本人と中国人の価値観の違い

 

そうか。
きょう2月7日は、199年の下邳(かひ)の戦い呂布が曹操に降伏した日か。
「縛り方がきつすぎる。少しゆるめてくれ」と言う呂布に、「虎を縛るのにきつくせぬわけにはいかぬ」と曹操は言い放ち、呂布は処刑された。
巨星落つ。

 

敵を追う呂布さん

 

後漢末期(2世紀)の中国の戸籍人口は約5600万で、そのあと黄巾の乱があって魏・呉・蜀による三国時代に突入する。
血で血をウォッシュする修羅場の連続で、三国の合計戸籍人口はわずか760万人だったという。
それで毎日新聞のコラム「余禄」は、「戦乱と飢饉(ききん)による「人口崩壊」があったのは間違いない」と書く。(2022/1/19)

関羽、張飛、太史慈、陸遜、夏侯惇、許渚といった三国志に出てくる化け物クラスの豪傑の中でも、呂布は唯一無二で最強の武将だったといわれる。
関羽と張飛を同時に相手にしたという伝説の持ち主で、武人を超えてもう生きる武神。
これ以上なく濃いキャラだから、アニメなら、呂布を主人公とするスピンオフ作品が出てくるのは間違いない。

三国志は数百年前から日本人の大好物で、中国がキライな人でもこの物語に出てくる中国人には敬意を払うし、いつの時代にも熱狂的なファンがいる。
でも日本人と中国人では価値観や感性が違うから、互いを知ると理解不能になることもアリ。

サーチナ(2022年1月10日)

三国志の登場人物、日本では呂布が人気らしいが「理解できない」=中国

日本で三国志の人気キャラ・ランキングをすると、呂布が上位にくることが中国人には謎のようで、Q&Aサイト「知乎」に「なぜ日本人は呂布が好きなのか」というスレッドが立つと、中国人のネット民からいろんな意見が寄せられた。
「無敵の強さだったから」というアタリマエの見方を別にすれば、「ゲームの開発に呂布はぴったりのキャラクターだから」という現代的な視点や「悲惨な最期を遂げたから」という声があったとか。

三国志ゲームの作り手が呂布を外すワケがないし、最強の攻撃力をもつ呂布を使って、とりあえず無双してみたいと思うプレーヤーは山盛りいるはず。それと源義経のように戦いの天才だけど、運や天に見放された人に同情する「判官びいき」は日本人の国民性だ。

「養子に対する考えの違い」という日中の文化的な違いを指摘する人もいた。
中国では養子になることは“恥辱”と思われるけど、日本ではそんな考え方はないから、呂布が董卓の養子になることに抵抗感はない。

逆になんで呂布は、中国では人気がないのか?
その理由はシンプルで、中国人にとって呂布は「裏切り者で、恩を仇で返した人」で、「親孝行や忠義、礼節を重んじる中国人の価値観に合わない」からだという。
もちろん呂布が好きな中国人もいる。
でも、日本でこれほど強烈に推される理由が「中国人からすると理解に苦しむ」ことだとか。

これに日本のネット民の感想は?

・ゲームの戦国無双とか三国無双では前田慶次と呂布がキャラクターの方向性や性能がほぼ同じ。
・まあ悪役としても華があるからな
・三国志の推しについては、中国人ニキと多いに語り合いたいw
・好き勝手生きて好き勝手に死んだ自由さがええんと違うか?
・まあ日本人なら一番は諸葛亮孔明じゃねえの三国志だと

 

清朝の時代に描かれた呂布

 

日本での呂布人気について、日本にいる中国人に意見を聞いてみると、「え?日本人はアレが好きなんですか?」と意外そうな反応を見せる。
自分の主だった丁原を殺し、その次に仕えた董卓も殺害した呂布をその中国人は「親を2度も裏切って殺したヤツです。中国人の倫理観や常識では許せませんね」と切り捨てる。
なんでそんな背信行為をしたかといえば、呂布は知能が低くて先を見通すことができなかったし、人を判断する目もなくて、そのときの利益しか見えなかったからだとか。
でも恐ろしく強くて、凶暴な野生動物みたいな人間だったから、人にはできないこともやってのけた。
そんな見方をする彼にとって、呂布が部下に裏切られて曹操に処刑されたのは自業自得で同情の余地はない。

忠孝を最も大事にする儒教的な価値観や考え方からすると、呂布はそのド反対にいる軽蔑すべき人間になるらしい。
でも、呂布というスパイスがあったからこそ、三国志があれだけ面白くなったのだから、彼も呂布を全否定はしなかった。

 

日本でも呂布を孔明や司馬懿に匹敵する知将と思う人はいないし、「凶暴な野生動物みたい」という見方はある。
アニメやマンガではよくそんなふうに描かれてるし。
でも、やっぱり日本人にとっては人生の終わり方が重要で印象に残る。
「チート能力」のような強さをもった野心家で、目的のために多くの血を流しても、最期は夢の途中で死を迎えるというキャラには弱い。
日本人が織田信長やラオウを好きなのもそんな理由でしょ。
呂布の場合、頭が残念で先の計算はできなかったけど純粋だったから、結局は不器用な生き方しかできなかった。
相手が死んでもたたく「死体蹴り」は日本人の大キライなことだから、呂布が非業の死をとげると、生前に犯した罪が”浄化”されて見えにくくなる。
でも、儒教思想を重視する中国人はそうでもない。
そんな日中の価値観や見方の違いが呂布をめぐって出ていると思う。
巨星乙でした。

 

おまけ

明清時代の街並みが残る街・鳳凰

 

 

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2 件のコメント

  • 呂布の価値観は出身地由来か。考えなしの猪武者とはいっても丁原の元では主簿を務めているし。ただのバカなら主簿は務まらない役職なので。袁術の徐州侵攻を防いだのも事実。

    「中国人の倫理観や常識では許せません」とか言っても悪質な冗談にしか聞こえませんね。

  • 三国志に関するこの手の話は、職場に研修で来ていた(日本語の達者な)中国人からも聞いたことがあります。彼らはどうも、人間あるいは世の中の事物をすぐ「善悪」に評価・分類しようとする考えがあるみたいで。それが儒教的価値観なのでしょうね。100年経っても1000年経っても、善人は善人、悪人は悪人のままなんです。
    南宋の国を裏切った宰相の秦檜が、最近まで、その像が金網に閉じ込められた状態で観光客からツバを吐かれて侮蔑の対象とされていたという話を聞くにつけ、そういう価値観なんだろうなぁと思います。もういいかげん、水に流して許してあげりゃいいのに。

    でもその一方で、ハリウッド映画世界では、SWのジェダイとか、アベンジャーズのヒーローとか、それなりに厳しい修行や訓練を積んで正義のヒーローになったはずなのに、ほんのちょっとしたキッカケで、すぐ悩んだり、すぐダークサイドへ堕ちてしまったりというのも、あれはあれで困ったもんだなぁと思います。
    確かにより現実的ではあるかもしれないが、子供の教育上よろしくないんじゃないかなぁ。

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