【フグ計画】日本「よし、満洲にユダヤ人自治区を作ろう!」

 

元首相で立憲民主党最高顧問をしている菅直人氏が弁護士の橋下徹氏に対して、「ヒトラーを思い起こす」とツイートして大騒ぎになった件は記憶に新しい。
この件についての民意は、TBSが行った世論調査によると、

「非常に問題だ19% 表現は自由だが、やや問題だ51% 表現は自由で、あまり問題ない18% 全く問題ない6% 答えない・分からない6%」

と、70%の国民が菅氏の「ヒトラー発言」を問題視していることが判明。
これはこれでマズかったとして、でもソレよりも知ってほしいことがあるんだ。

 

きょう2月9日は「2・9」で、下関のふく連盟が「河豚(フグ)の日」の記念日にした。
下関では河豚を「ふく」と発音するらしいですぞ。
ホロコーストという人類に対する犯罪を犯したヒトラーと、最高に美味しくて「ふぐの代用になる美食はわたしの知るかぎりこの世の中にはない」と北大路魯山人が絶賛したフグ。
人種差別主義者とこの高級魚には一見、何の関係もないようだけど、実は人に死をもたらす「猛毒」という共通点がある。
ただ、ヒトラーとフグというワードを見ると「満洲の河豚計画」が頭に浮かぶのですよ。

第二次世界大戦のころ、日本はナチス=ドイツと政治的な利害が一致して同盟関係を結ぶ。
でも、ナチスが行っていたユダヤ人迫害にはドン引きで、日本はこの計画や行為には一切、関わらなかった。
それどころか日本のしたことは、ホロコーストというユダヤ人虐殺のド反対。
杉原千畝は多くのユダヤ人難民を救ったし、ユダヤ人を保護するために樋口季一郎は満州国通過を認め、そこは「ヒグチ・ルート」と呼ばれた。
「天国の入り口」といっていい。
日本がナチスの迫害から逃れてきたユダヤ人に、移動の自由を認めたり食べ物を提供していると知ったドイツは何度も抗議をしてきた。
対して東条英機は、「当然なる人道上の配慮によって行ったものだ」とこれを一蹴する。

【ドイツの抗議を一蹴】ユダヤ人を助けた樋口季一郎と東条英機

ただ、日本は正義・人権・人道のためだけにユダヤ人を助けようとしたワケでもない、満洲の河豚(ふぐ)計画については。
ナチスのやり方に反対していた日本は1930年代に、当時支配下にあった満洲にヨーロッパのユダヤ人を呼び寄せて、ユダヤ人による自治区を作って安住の地を提供しようと考えた。

*日本人、韓国人、満州族など五つの民族「和(日)・韓・満・蒙・漢(支)」が仲良く暮らそうぜ、という五族協和の理念が満州国にあった。

これによって日本は、金持ちの多かったユダヤ人の経済力や投資を期待する。
またアメリカには多くの有力なユダヤ人がいたから、彼らを通じて、日本の都合の良い方向へアメリカ政治を動かすことができるのではないかとも考えた。
そんな打算もあって、日本はユダヤ人に対し、満洲における文化・教育面での自治、完全な信教の自由を与えることを想定して準備を進めていく。

では、なんでユダヤ人を「自分の庭」に住まわせる計画を「河豚」と呼んだのか?
こんなことをしたら、ナチス=ドイツとの本格的な対立は避けられなくなるから、

「ユダヤ人の受け入れはとても有益だが、一歩間違えば日本の破滅の引き金ともなりうる」

ということで、とても美味しいけど恐ろしい毒を持つ河豚にたとえて「河豚を料理するようなものだ」となり、フグ計画と呼ばれるようになる。

でも戦争が始めると、日本はドイツとの関係を重視するようになったり、アメリカから理解を得られなかったりして、この計画は消滅してしまう。

現在の日本人としては「ヒトラー発言」よりも、日本がナチスのユダヤ人迫害に反対していたこと、そしてユダヤ人自治区をつくる河豚計画を進めていたという歴史について知った方がいい。

 

 

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2 件のコメント

  • > 対して東条英機は、「当然なる人道上の配慮によって行ったものだ」とこれを一蹴する。
    > といっても、日本が正義・人権・人道の名のもとにユダヤ人を助けようとしたワケでもない、満洲の河豚(ふぐ)計画については。
    (中略)
    > これによって日本は、金持ちの多かったユダヤ人の経済力や投資を期待する。
    > またアメリカには多くの有力なユダヤ人がいたから、彼らを通じて、日本の都合の良い方向へアメリカ政治を動かすことができるのではないかとも考えた。
    > そんな打算もあって、日本はユダヤ人に対し、満洲における文化・教育面での・・・

    うーん、これはひどい表現ですね。
    そりゃもちろん、当時の日本が正義・人権・人道の名のもと「だけ」にユダヤ人を助けようとしたワケではないと思いますよ。ですが、打算のためだけとも思いません。事実、「ヒグチ・ルート」が現実に活用されていた時期もあったのだから、ホロコーストを実施した当事者とは全然比べ物にならないほど「正義・人権・人道」にも沿った行動がなされていたのだと思います。
    だったら日本の河豚計画以外では、「完全100%」の正義・人権・人道の名のもとになされた行動って、どこかの国にはあるのですか?

    ブログ主さんのこの表現は、一見、自国の歴史に対する謙遜的態度に見えるかもしれません。でも世界中から締め付けられていた局面を何とか打開しようと苦心していた当時の日本人を、侮辱するものでもあると私は思います。「名のもとに助けようとしたワケでもない」は否定的に言いすぎです。せいぜい「名のもとに助けようとしていたが、動機はそればかりでもなかった」程度でしょう。

  • >日本が正義・人権・人道の名のもとにユダヤ人を助けようとしたワケでもない
    河豚計画については五族協和の理念に基づいて行われたのでこう書きました。
    ですが、人道や人権が理由になったことは間違いないでしょう。なのでそのへんの説明を足しておきました。
    ただ歴史は卑下も美化もなく、根拠に基づいて書くものと思います。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。