逃亡・降伏は許さん! ソ連・ドイツ・中国軍にあった督戦隊

 

いま行われているロシア軍によるウクライナ侵攻では、「これから訓練に行く」と聞かされていたのに、だまされてウクライナでの実戦に参加させられたロシア兵がいた。
肉体労働者を募集していたからそれに応じると、朝鮮戦争の戦場へ連れて行かれ、武器を渡されて戦うことを命じられた。
そんな気の毒な兵士がいたことを前回書きました。

【だまされた!】ウクライナ侵攻と朝鮮戦争のかわいそうな兵士

ついでにスピンオフで、今回は「とくせんたい」を紹介しようと思うのですよ。
「ギニュー特戦隊」のようなほのぼのした連中のことではなくて、各国に実在した悪魔のような部隊のこと。

 

ろくな訓練も受けられず、軍の演習とだまされてウクライナへ連れて来られたロシア兵は、知人のリトアニア人の情報によると、「戦闘を拒否する者は反逆罪で死刑を宣告される」と脅された。
それで、戦争に参加せざるを得なかったロシア兵士もいたという。
軍人だって人間だ。
死を恐れるのは人類の当たり前だから、逃亡兵は古代からどこの国の軍隊にもいた。
とくにイヤイヤ戦場へ駆り出されて戦意や士気のない兵士は、逃げたり敵に投降しようとしやすいから、それを厳罰を持って阻止するため、「督戦隊」(とくせんたい)という特殊な部隊が組織されることがあった。

 

中国軍の督戦隊の部隊旗
1929年の中ソ紛争でソ連軍に手に入れたもの。

 

自軍兵士の後方にいて、軍の命令に反して逃げたり降伏するような気配を見せた兵士がいたら、督戦隊の出番となる。
彼らはそんな兵士を銃撃するなどし、逃げ場をなくして強制的に戦闘を続行させた。
友軍を後ろから攻撃するという悪魔みたいな部隊を採用した国は、オスマン帝国のイエニチェリ部隊など歴史をみるとけっこうある。
数百年前の絶対王政時代、フランス軍が戦う際には、逃亡する味方兵士を射殺することを任務とする部隊が配置されていた。

第二次世界大戦ではナチス=ドイツで、投降しようとする兵や民間人に武力をちらつかせて戦闘継続を強要した例がある。
またスターリングラード攻防戦ではドイツ軍と戦ったソ連軍が、1隊200人で構成される督戦隊をいくつかつくった。

中国軍の督戦隊にかかわるもので有名な事件に、挹江門(ゆうこうもん)事件がある。
1937年(昭和12年)12月の日本軍による南京攻略戦で、トップである蔣介石は部下に南京死守を命じて自分はさっさと逃げ出した。
そして日本軍の攻撃を受けると、中国軍兵士は一斉に脱出しようとし、挹江門に集まったところで督戦隊に襲われて、双方が戦った結果、壮大な同士討ちになって約1千名の兵士が死亡したという。

 

ということで督戦隊のように、味方兵士の投降や逃亡を許さず、必要なら殺害してまで強制的に戦闘を継続させる発想がいろんな国の軍隊にあったことがおわかりいただけただろうか。
いまのウクライナ侵攻については、こんな部隊がロシア軍にいるという話は聞かない。
でも、ウクライナの徹底抗戦によって、ロシア側は予想以上のダメージを受けていることや、思い通りに事態が進展せずにあせっていることは確か。
首都キエフや主要都市をいまだに落とすことできず、ロシアは「いらだっている」と米国防総省高官は言う。
ロシア軍が血迷って、逃亡・降伏をする自軍兵士を殺害するようなことがありませんように。

 

前回と同じように古代中国の兵法家・孫氏のスバラシイ言葉を紹介して記事を終えることにしよう。

「亡国は復(ま)た存すべからず、死者は復た生くべからず。故に明主は之(これ:戦争)を慎み、良将は之を警(いまし)む」

戦争をして亡(ほろ)んだ国はもう復活することはないし、死んだ人間は生き返ることもできない。
だから英明な君主(明主)は戦争については慎重になり、立派な将軍は戦争を戒(いまし)める。
残念ながら、プーチン大統領はこんな明主ではなかった。

 

 

中国 「目次」

ウクライナ侵攻で、ロシア軍が思わぬ苦戦している理由

【なんで負けたん?】中国人が考える、日清戦争の敗北理由

アヘン戦争と下関戦争の敗戦にみる、日本人と中国人の違い

中国人ガイドも驚く「日本人の三国志好き」、その背景は?

変れぬ清(中国)①富国強兵したい!洋務運動が失敗した理由

 

コメントを残す

ABOUTこの記事をかいた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。