「教会大分裂」とかいうキリスト教の約40年の“自殺行為”

 

きょう3月25日は、聖母マリアの受胎告知の祝日(Lady day)だ。
キリスト教ではこの日に天使ガブリエルがマリアへ、「あなたは救世主(イエス=キリスト)の母親になりますよ~」と告げたということになっている。
それでマリアには、処女でありながらイエスを生むという奇跡が起こる。
キリスト教で重要な1409年のこの日、ローマ教皇が同時に2人存在する「教会大分裂」という超異常状態を解決するためイタリアのピサで会議が行われた。(ピサ教会会議

 

1378年にローマ教皇グレゴリウス11世が亡くなると、次の教皇には、イタリア人の枢機卿(すうききょう)が推すウルバヌス6世が選ばれた。
これにフランス人の枢機卿が納得しない。
「いいかげん認めろよー」、「いいや、ぜってー無理」ともめにもめた結果、フランス人の枢機卿はクレメンス7世をローマ教皇に選んだ。
これでウルバヌス6世とクレメンス7世の2人のローマ教皇がいるという、ヨーロッパで初めての事態が生まれて、両グループの対立が激しくなっていく。
そんな事態を悲しんだクレメンス7世は、「同じ神を信じる者同士、ケンカなんてしないでクレメンス」と懇願したのだが(たぶん)、もはや同じローマにいることが不可能になり、クレメンス7世はフランスのアヴィニヨンへ移動してしまう。
これでキリスト教(カトリック)の「教会大分裂」(大シスマ)が決定的となる。
「自分こそがホンモノだっ」とどっちも正統性をアピールし、互いに互いを破門するというカオスになって、ヨーロッパ世界も真っ二つに引き裂かれた。

ローマのウルバヌス6世を支持する派:神聖ローマ帝国皇帝、イングランド王国、デンマーク王国、ポルトガル王国など。
アヴィニヨンのクレメンス7世の支持する派:フランス王国、スコットランド、スペイン(カスティリャ、アラゴン王国)、ナポリ王国、ハプスブルク家など。

 

こんな太陽が2つあるような状態が30年近く続き、「さすがにこのまま放置できませんゾ」となって1409年3月25日、聖母マリアにお告げがあった日にピサ大聖堂で枢機卿や神学者、諸国の王が参加して事態収集のための会議が開かれた。
その結果、2人だったローマ教皇は3人になる。
な…何を言っているのか わからねーと思うが、あ…ありのまま 起こった事を話すぜ。

このときの会議ではローマのグレゴリウス12世と、アヴィニヨンのベネディクトゥス13世の2人の教皇を同時に退位させて、アレクサンデル5世をローマ教皇にすることが決められた。
だがしかし、この結果に2人とも納得しない。
それで結局、3人の教皇が同時に存在する未曽有の事態になる。
混乱を解決するために会議を開いたら、ローマ教皇がさらに増殖してしまったという、「消すと増える」のネットの法則みたいなことが起きてしまったのだ。

 

皇帝ジギスムント

 

でもやっぱり、ローマ教皇の「三国志状態」は解決しないといけないということになって、ルクセンブルク家の皇帝ジギスムントが音頭を取って1415年にコンスタンツ公会議を開く。
このときも当然、ウダウダ面倒くさいことになったんだが、結局は3人の教皇を同時に廃位して、マルティヌス5世をローマ教皇にすることになった。
これは異論・反論を許さないファイナルアンサーだ。
こうして3つだった「キリストの体」はようやくひとつになる。

1378年~1417年まで、約40年間も続いた教会大分裂はヨーロッパ世界を大きく変えた。
中世ヨーロッパでローマ教皇は宗教的にも世俗的にも頂点に立ち、絶対的な権威をもっていたから、十字軍の派遣を命じてヨーロッパ各国を動かすことも可能だった。
そんな教皇が2人も3人も現れて、諸国の王や貴族を味方につけてケンカを繰り返したことは、全力で自分の権威や政治的影響力を低下させるようなもの。
この壮大な自殺行為によって、相対的にヨーロッパ諸国の自主性や力が強化されていき、これまでとは逆に、カトリック教会に対して諸国の発言力が増していくようになる。
目の前の敵しか見えなくなると、争いが終わって気づいたら共倒れになっていた、という現象はいろんなところである。
赤木リツコなら「無様ね」と言ってるところだ。

 

 

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1 個のコメント

  • > マリアには、処女でありながらイエスを生むという奇跡が起こる。

    どの民族の神話でも、その国の最初の起こりについては多少なりとも身近な自然現象や子孫を生む「子作り」に基づいた記述が多いのですが。たとえば日本神話の最初の「国造り」のところ、イザナギ・イザナミは海をかき回してその渦の中心部に集まって溜まった砂が日本列島になったとしています。聖母マリアの処女懐胎に比べて、とても物理的・科学的なエピソードです。
    キリスト教が人類にとって価値ある文化を生み出した実績は認めます。

    宗教などというシステムに頼らなくても世の中を適切な状態で運営するだけの合理性を、人類が獲得するときは果たしてやってくるのでしょうかね。

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