遅刻で始まるスキャンダル:幕府を震撼させた江島生島事件

 

王族メンバーのスキャンダル、特に「下半身」に関することだと国民の関心は高くなる。
王室にとっては権威失墜につながる最悪の事態だから、最近ではイギリス王室が、失態をおかしたエリザベス女王の次男アンドルー王子を追放した。

ニューズウィーク(2022/1/17)

性的暴行事件を受け、英王室がアンドルー王子を「追放」したが…

損切りされたアンドルー氏は王室の地位をすべて失った。が、このスキャンダルでイギリス王室が受けたダメージは大きい。

さて3日前の4月18日は1714年に起きた「江島生島事件」で、大奥御年寄の江島(えじま、絵島とも)が罰として、いまの長野県へ流されることがきまった日だ。
江戸の庶民の注目を集めて、幕府を震撼させたこの「大奥スキャンダル」とは?

 

歌舞伎役者の生島新五郎(左)と、大奥御年寄の江島

 

江戸城には将軍家の妻や子どものいた「大奥」があって、奥女中がそうした人たちの世話をしていた。
その奥女中の中でも「御年寄(おとしより)」は、将軍に直接会うこと(謁見)が許された特に地位の高い存在だ。
1714年に、そんな特別な人間が大奥から追放される大事件が起こる。

大奥にいる人間は基本的に江戸城から出ることはできず、身分の高い人は特にそうだった。
それである日、将軍・徳川家継の母親である月光院(げっこういん)の代わりとして、江島が徳川家の菩提寺である上野の寛永寺へお参りに出かけることになる。
予定どおり墓参りをして江戸城へ戻ってくれば、月光院から「おつでした」とか言われて終わりになるだったのに。

その帰路、芝居小屋に寄って歌舞伎役者の生島新五郎の演技を見た江島は、一気に「推しメン」になってしまったらしく、芝居のあと生島らを誘って茶屋で宴会を開いた。
握手会ぐらいにすればよかったのだが、人気役者の生島との宴(うたげ)があまりに楽しくて、江島は大奥の門限に遅れてしまう。
すでに閉められた大奥の玄関口で江島は門番と「通せ」、「いえ、それは無理です通せません」と押し問答になって騒ぎになり、この遅刻が江戸城内に知られた。

そして始まる地獄の宴。
この遅刻について厳しく調べた結果、大奥では規律が軽視されていて、さまざまなルール違反があったことがバレる。
江島との密会を疑われた生島は、石抱(いしだき)の拷問を受けてそれを認めた。
将軍の母親に仕える大奥御年寄が江戸城を抜け出して、身分の低い歌舞伎役者と会って男女の関係をもっていたら(ホントかどうか知らない)、処刑されても文句は言えない。
でも月光院の嘆願もあって、江島は長野にあった高遠藩へ流されることになる。
このもらい事故(連座)をくらった人たちは大変だ。
旗本であった江島の兄・白井勝昌は斬首されて、弟の豊島常慶は追放になったし、江島のお相手とされた生島の所属していた「山村座」のトップ(座元)、山村長太夫は伊豆大島へ流された。
幕府は山村座を廃座にし、江戸中の芝居小屋に夕刻の営業を禁止する。
遅刻から始まったこの江戸大奥の綱紀粛正で、旗本、奥医師、陪臣、呉服師、座元、役者、商人など1500人が処罰されたという説もある。

ここまで騒ぎが大きくなった背景には、将軍の生母で権力を握っていた月光院と、それに近い側用人の間部詮房(まなべあきふさ)や新井白石に、前将軍家宣の正室・天英院らが反感をもっていたことが指摘されている。
実際この事件にあと天英院側が優勢になって、家継が亡くなると、天英院の推す徳川吉宗が8代将軍になった。
江島の遅刻は、大奥での権力争いのエサにされた感がある。

 

見るだけで痛い、江戸時代の拷問・石抱

 

江戸城大奥の風紀を乱して、「大奥スキャンダル」として世間を騒がせた江島は追放された先で、ややマイルドな牢獄の「囲み屋敷」では27年生活してそこで亡くなる。
島流しにされた元人気歌舞伎役者の生島は、徳川吉宗にゆるされて1742年に江戸へ戻ってきたが、その翌年に73歳で死んだ。
これら全ての悲劇は、お墓参りのあと歌舞伎を見に行ったことから始まる。
ルールを守ることってホントに大事。

 

 

 

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1 個のコメント

  • > ルールを守ることってホントに大事。

    それはルールの内容によります。ルールのために人間がいるんじゃない、どんなルールだって本来は人間社会に役立つために決められたはず。外国人に比べると、その点を全く考えない傾向が日本人は強い。そこが長所になる場合もあれば、弱点となる場合もあります。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。