「ノモンハン事件」にみる日本人の本質・組織としての弱点

 

1939年のきょう5月11日、日本軍とソ連軍が激突する「ノモンハン事件」が起きた。
当時、日本が実質的に支配していた満洲国とソ連との間で、国境(領土)をめぐる争いが起きていて(日ソ国境紛争)、その最大の軍事衝突がノモンハンで起きたこの事件。

結果はソ連軍の圧勝、つまり日本軍の大惨敗に終わった。と、戦後しばらくは思われていたのだが、情報公開が進むにつれて、実は日本以上にソ連がダメージを受けていたことが分かった。
日本側の死傷者は1万8千~2万3千名、戦車約30両、航空機約180機を失った一方、ソ連側の死傷者は少なくとも約25,655名、戦車などの装甲車両約400両、航空機約350機を失った。(ノモンハン事件
結果としてはソ連側の主張に沿って国境線が決まったから、ソ連側の勝利と言える。

そんなノモンハン事件にはその後の太平洋戦争で見られた、日本軍のダメダメな部分が集約されているという。
6名の専門家が日本の敗戦原因を徹底的に追究した『失敗の本質』にこうある。

作戦目的があいまいであり、しかも中央と現地とのコミュニケーションが有効に機能しなかった。情報に関しても、その受容や解釈に独善性が見られ、戦闘では過度に精神主義が誇張され た。

「失敗の本質 (ダイヤモンド社) 戸部 良一; 寺本 義也; 鎌田 伸一; 杉之尾 孝生; 村井 友秀; 野中 郁次郎」

ノモンハンでソ連軍と戦う日本兵

 

上の指摘は日本軍の組織的欠陥をよく表している。
太平洋戦争の末期、1945年のいまごろ、沖縄で行われていた戦いでも「相変わらず作戦目的はあいまい」だったという。
沖縄戦の目的は米軍の本土上陸を引き延ばすことなのか、それとも航空決戦なのか?
日本軍はその大事なポイントをしっかり決めていなかったし、さらに大本営(日本軍の最高統帥機関)と沖縄にいた日本軍との間には認識のズレがあって、米軍の上陸にうまく対応できずに大きな犠牲を出してしまった。

ノモンハン事件では日本軍の劣勢は明らかで、もう戦いを継続できないと大本営が判断したのに、現地で戦っている関東軍のメンツを考えて、作戦中止をハッキリ命じなかった。
大本営は、できるだけ小兵力で持久策をとるべしというアイマイな言い方をしたから、関東軍は作戦中止を要求されたとは思わなかった。
関東軍へ派遣された参謀次長も、現場の雰囲気に流されて大本営の意思を伝えなかったから、真逆の結果を引き起こす。

関東軍としては参謀次長が作戦続行に同意したものとみなし、攻勢準備をいっそう促進することになった。

「失敗の本質」

 

上の方では作戦中止を決めたはずなのに、現場では「攻勢準備をいっそう促進することになった」というデタラメな状況になっている。
こちらの意図が現地にまったく伝わっていない!
それが分かってこのあとようやく大本営から関東軍に、作戦の中止と兵力の後退をハッキリ命令してノモンハンでの戦闘は終わった。
最初からこの命令を出していればよかったのに、不毛なやり取りをしている間にいったい何人の兵士が死んだのか。

 

これは過去のことだけど、現代的な問題でもある。
日本軍がした数々の失敗を分析した『失敗の本質』は、いまの日本人の組織にも当てはまる内容だから、サントリー社長の新浪剛史氏が愛読しているし、小池百合子都知事は「座右の書」と称賛した。

組織のメンバー全員がプロジェクトの目的を、実は明確に分かっていない。
トップと現場で意思の疎通がとれてないから、現場が混乱したり暴走する。
相手の立場を尊重して遠回しの表現をするから、何をどうするべきかといった具体的な内容がしっかり伝わらない。”伝えたつもり”になっているだけで、相手は分かってない。

戦後70年経っても、日本人の考え方や行動では変化してない部分もあるから、かつて日本軍が犯したこんなミスは、きっといまの企業やさまざまな団体でも起きている。
大戦時の「失敗の本質」とは、日本人の本質でもある。

 

 

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2 件のコメント

  • うーん、惜しいが、そのブログ主さんの考え方はおそらく間違っていると思います。(と、キアヌ・リーブス風に、映画「地球が静止する日」を真似て。)

    > 組織のメンバー全員がプロジェクトの目的を、実は明確に分かっていない。
    > トップと現場で意思の疎通がとれてないから、現場が混乱したり暴走する。
    それは日本に限らず、世界の多くの国・組織でありがちな失敗です。原因は様々ですが。

    > 相手の立場を尊重して遠回しの表現をするから、何をどうするべきかといった具体的な内容がしっかり伝わらない。”伝えたつもり”になっているだけで、相手は分かってない。
    ここが違います。多くの日本人が遠回しの表現をするのは「相手の立場を尊重して」のことじゃありません。

    日本人は、自分の意志を明確にして相手に伝え、その結果として「相手と対立するかもしれない」ことを非常に恐れるのです。相手に嫌われるのが嫌なんです。そのことを表す「空気を読む」「行間を読む」「以心伝心を旨とする」「言わなくても心は通じる」などの表現は日本語中にとてもたくさんあります。相手が神様仏様になれば「至誠天に通ず」とも言います。
    また、言われる(組織においては「命令される」)側についても同様で、ハッキリと命じられるのを非常に嫌がります。歴史上も、日本ではほとんどの「独裁者的人物」が途半ばで暗殺されたり、失脚したりしています。織田信長しかり、足利義満しかり、源頼朝しかりです。

    ですが、この考え方が曲がりなりにも(部分的にでも)通用するのは、同じ日本人だけを相手にしている場合です。海外あるいは外国人を相手にする場合は全く効力を発揮しません。テレパシーを使える超能力者じゃないのですからね。千利休による「無言のコミュニケーション」は居心地の良い茶の湯の世界でしか成立しません。
    したがって外国を相手にした戦争では、大きな失敗の原因になったという訳です。
    グローバリズムの時代には通用しないでしょうね。

  • もちろん感想は人それぞれです。
    この本は現代の日本人にも有効だから、いまでも販売されてますし、支持する人も多いです。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。