【人種より民族】日本人のルーツ／アイデンティティーの形成

きょう６月２０日は４５１年に、中央アジアからやってきたフン族と西ローマ帝国とのバトル「カタラウヌムの戦い」があったといわれる日。
４～６世紀に下の地図の広大な範囲を支配し、「世界の歴史上、最も強力な支配者の一人」といわれるリーダーのアッティラが亡くなると、フン族は分裂して歴史の舞台から消えていった。
そんな記事を前回書いたのですよ。

【進撃の蛮族】アッティラ、ヨーロッパに圧倒的恐怖を与える

フン族の国

「このフン族が建てた国がいまのフィンランドだ」という話を聞いたことあるだろうか？
この説は日本でもけっこう広く出回っているから、フィンランド大使館が火消しをおこなう。

フィンランドがフン族の国というのは俗説で誤り。そもそもフィンランドのフィン（Fin）はフン（Hun）とは音が異なります。フィンという単語は古代ローマの政治家・歴史家タキトゥスの残した「北方に住む貧しいフェンニ人」という記述からきているという説が有力。

— 駐日フィンランド大使館 (@FinEmbTokyo) February 8, 2012

なるほどなるほど。
では、「フン（Hun）」という音が同じなら、フン族の国という可能性が高いワケなのか。
ということで「Hungary（ハンガリー）」の登場だ。
現在のハンガリー人をフン族の子孫とする説があって、ハンガリーの日本大使をしていた鍋倉眞一さんはこう言う。

ハンガリーの祖先は、戦前まではフン族というのが通説でした。私もハンガリーに行く前には、ハンガリーは「フンガリー」、フィンランドは「フンランド」と言われていました。フィンランドもアジア系です

「ハンガリーに赴任して……ハンガリーという国の歴史と現状」

ここまでは都市伝説レベルのウワサで、ここからはかなり信頼性の高い話。
まえにモンゴル人と話をしていたら、モンゴル人の先祖は同じ遊牧民のフン族で、フン族が分裂してできたグループの一つがいまのモンゴル人になったと言う。
そのモンゴル人は学校の歴史の授業でそう習ったし、それを事実と信じている。
さらに知人のトルコ人も自分たちの先祖はフン族で、もともとはチンギス・ハーンと同じ民族だという話を歴史の授業で習ったと話す。
「モンゴル人とトルコ人のルーツはフン族」という説は、当事者が肯定しているから事実か、その可能性がかなり高い。

で、問題は日本人だ。
日本人はいつ、どうやって”できた”のか？
およそ１万５千年前～３千年前にかけて、日本にいた縄文人と大陸からやってきた人との混血が進んでいって、誕生した人たちが日本人のルーツとされている。
でも約２万年前の「港川人」のＤＮＡを解析した結果、「港川人」がいまの日本人に直接つながる祖先だった可能性が出てきた。
これから研究が進んで新しい事実が判明したら、日本人の起源は上の「混血説」よりさらに古い港川人になるかも。

朝日新聞（2021年6月13日）

港川人1号は、現代日本人や縄文人、弥生人に多く見られるタイプの祖先型の遺伝子を持つことがわかった。港川人の集団が、日本人の遠い祖先にあたることを示唆している。

日本人の祖先は「港川人」？　旧石器時代、DNAで解析

といっても、日本人をはじめ人類のルーツをさかのぼればきっとアフリカのサルに行きつく。
だから重要なポイントは人種よりも民族だ。
俗説であれ真実であれ仮にフン族をルーツにしていても、トルコ人もモンゴル人もハンガリー人もフィンランド人も２１世紀のいまでは、それぞれ独自の歴史や文化を持っていて、違う言葉を話すまったく別の民族になっている。
日本の場合も、自覚が生まれた時期が日本人の始まりだ。
縄文人と大陸からやってきた人たちとの同化が進んでいって「日本人ルーツ」が生まれ、ヤマト王権の時代に「国」が徐々に形作られていくと同時に、日本人としてのアイデンティティーも形成されていって、飛鳥時代になると「日本／日本人」の自覚がハッキリでてきた。
天皇と中国皇帝を対等と考えた聖徳太子が隋の煬帝に、「日出づるところの天子、書を日没する処の天子にいたす」と書かれた手紙を渡したことをみると、それまで中国の属国として朝貢していたころの日本人とは明らかに意識が変化している。
日本人の民族性が完成されたのはこのときだと思う。