日本のお金が“円”になった理由/実は日中韓で同じ単位の「圓」

 

むかし中国を旅行中、宿で知り合ったニュージーランド人の青年とご飯を食べていると、

「なあ、日本の通貨は何て言うんだ?次は日本へ行ってみようと思っているんだが」

と質問された。
このとき英語の「yen」を意識して「ィエン」と発音すると、「マジか!日本は中国と同じお金を使っているのか?」と驚かれる。
ナニ言ってんだ、このキーウィは?
と思ったら、そのときやっと、「円」は中国の通貨「元(yuan:ユアン)」と発音がソックリだという事実に気づく。
それまでボクは「元」を「はだしの」じゃなくて、「ゲン」と日本語で読んでいたし、買い物をするとき、お店の中国人は口語の「クァイ」を使っていたから、「元」の中国語発音の「yuan」を知らなかった。
*塊(クァイ)とは銀塊が通貨だったことに由来するらしい。

 

中国のトイレ
中国語と日本語では漢字の意味が違って、この「手紙」はレターではなくて、ティッシュペーパーのこと。
当時は1元=12円だった記憶。

 

ニュージーランド人に発音してもらうと、たしかに「円」と「元」は双子のようにソックリだ。
「でも、日本と中国のお金はまったく違う」と言うと、「じゃあ、ニュージーランド、アメリカ、オーストラリアで、”ドル”という共通の呼び方をしているのと同じなのか?」と彼がさらに聞いてくるが、くわしいことは分からない。
これは偶然で、日本と中国が相手の事情を知らずに、それぞれ独自に「エン」と「ユアン」に決めたのか?
それとも中国が定めた通貨単位を日本がマネたか、逆に中国がマネしたのか?
卵が先かニワトリが先か?

そんなことを中国人の日本語ガイドに聞くと、

「中国が先に単位をきめて、日本が後でそれを採用したんです。日本は昔から中国のすぐれた制度や文化を取り入れていましたからね」

とやや誇らしげに言う。
このガイドは「中国の文明は世界一ィィィィーーーーッ!」というほどではないけれど、プチ中華思想の持ち主で、ときどき客観性に欠けるような説明をしていたからイマイチ信用性が薄い。
これは、日本政府がいつか通関単位を「円」にしたのかが分かれば答えも見えてくる。
ということで「新貨条例」ですよ。

 

1871年(明治4年)のきのう6月27日、政府は貨幣法である新貨条例を制定し、「圓」が日本の貨幣単位として正式に採用された。
戦前の日本では「圓」が使われていて、いまの「円」はそれを簡単にしたものだからどっちも同じ漢字だ。
実はこのとき大隈重信は「円」ではなくて、「元」を提唱したという話がある。
モノゴトの始まりを意味する「元」こそ、新しい日本にふさわしい通貨単位だと。
でも理由は知らないけど、この案は却下された。

徳川幕府を倒して明治政府がスタートしても、当時の社会にはまだまだ江戸時代のシステムが残っていて、各地の藩だけで通用する「藩札(または府県札)」という紙幣が発行・使用されていた。
それに1両が4分、1分が4朱という江戸時代の4進法も、外国人には分かりにくくて不評を買う。
そんなことから通貨システムを一度ぶち壊し、新時代に合わせて日本のお金を根本的に変えることにして、「新貨条例」によって貨幣の名称が「円・銭・厘」となる。
旧1両を新1圓と考えて、100銭=1円、10厘=1銭とする10進法もこのとき採用された。

では、政府が単位を「円」にした理由は何か?
貨幣博物館のホームページでは下の3つの説が紹介されている。(お金の歴史に関するFAQ(回答)

・だ円形や四角形など、いろいろあったお金の形をすべて円形に統一したから。
・当時イギリス領だった香港の造幣局が使っていた造幣機械を日本が譲り受けて、香港銀貨の「一円」という名称を採用したから。
・中国で西洋の円形銀貨を「銀円」「洋円」と呼んでいたのが幕末の日本へ伝わり、「両」を「円」と言うことがあったから。

 

下は造幣局の解説。

・硬貨は形が丸いから。
・当時、中国(香港)で流通していた銀貨に「円」という単位が使われていたから。

火災で公文書が消失してしまい、正確な経緯は分かっていないけれど、明治政府が「円」にした理由はこれらの説が有力だ。
ちなみに、「円」をローマ字で「YEN」と表示するようになった理由についてはこんな説がある。

・「EN」だと外国人がエンと発音しにくい。
(当時の外国人は江戸を「YEDO」と表記した。)
・中国語の貨幣単位「YUAN」から「YEN」になった。
・「en」はフランス語では「中に」、オランダでは「そして」という意味だから、同じつづりのを避けた。

 

ということで、日本で「円」が採用された正確な理由はザンネンながら分からない。
ただ、「中国が先に単位をきめて、日本が後でそれを採用したんです」というガイドの説は可能性ならある。
ひとつ確かなことは、いまの中国の「元」は「」の簡略体だから、日本の円も中国の元もカタチが違うだけで同じ漢字の「圓」ということだ。
*別の中国人ガイドから、中国政府には「圓」を「円」にしようとする案もあったが、それだと日本とかぶるということで「元」になったという話を聞いた。

さらに言うと、韓国の通貨「ウォン」も漢字にすると「圓」だ。
これは100年ほど前に日本人が定めたものだから、韓国でいう「日帝残滓」になる。
中国旅行で知り合った韓国人がこの話を聞くと「へ~。…えええっ!」と驚いて、その場でスマホで調べてみると、「本当ですね。ウォンの起源なんて知りませんでした」と目からウロコ状態で言う。
だから、いまの日本人・中国人・韓国人はほぼ気づいてないだろうけど、日中韓はまったく同じお金の単位を使っているのだ。
まーだからといって東アジアで、ユーロみたいな共通通貨が誕生することはないだろうけど。

 

 

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2 件のコメント

  • あと東アジアでもう一地域、台湾でも「台湾元」が使われています。だけど現地ではみな「ニュー・タイワン・ダラー」と発音してました。通貨記号も$です。中国人民元の通貨記号は日本と同じ¥であり、韓国ウォンは₩ですね。
    共通してたり、してなかったりするところが色々で面白いです。
    ただし国によっては、くれぐれもニセ札に要注意です。スマホ決済の方が断然安心。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。