台湾人が日本語の「邪魔」に驚くのも、由来を知れば納得

 

このまえ安倍元首相が凶弾に倒れた時、台湾の人たちが、日本でいえば東京スカイツリーのようなランドマークの「台北101」にこんなメッセージを出してくれた。

 

 

台湾と日本には漢字という共通点がある。
だから会話は無理でも、漢字を使った筆談なら簡単なコミュニケーションをすることができる。
「感謝」や「支持」の意味は日本人なら一目瞭然。
「永遠的朋友」も「永遠の友人」の意味だと気づくだろうし、「敬悼」の字を見れば亡くなった人を悼(いた)み、敬意を示す気持ちが伝わる。
ただ日本語の「対」を「對」と表しているように、台湾では旧字体を使うとか、漢字を使っていても違いはいろいろある。
今回はそんな話ですよ。

 

知人の台湾人が日本語を勉強していて、驚いたワードが「邪魔」だった。
日本人は友人に「オマエ邪魔だ、どけっ!」と当たり前に言うし、子どもが親に向かって「お母さん、邪魔っ」と言うコトもある。
「ジャマ」というカタカナならいい。
でも漢字の「邪魔」を見ると、悪魔やバケモノみたいな強烈な負のイメージがあって、台湾人としては日本人のように気軽に使えないという。
常識や良識の無い、もはやヒトでもないような存在で、嫌いな相手をののしるときに使うのならいい。
仲の良い友だちに冗談で言うのならいいけど、日本語を知らない人だったら、子どもが親に対して「邪魔」と言うのは失礼で、一線を越えてる。
「お邪魔しました」というのは日本では礼儀正しい言い方なんだろうけど、言葉を見ると不思議な感じを受ける。
と、知人の台湾人はそんな話をした。

 

まえにアメリカ人と話をしていたとき、「邪魔」を英語でどう言うのか翻訳アプリを使ったら、「demon who hinders Buddhist training」と出てきた。
仏道の修行を妨(さまた)げる悪魔って大げさな。翻訳アプリはたまにこういうワケの分からん訳が…。いやマテよ。
と思って調べてみたら、語源としてはこの訳が正解だったの巻。

大谷大学のエッセイ「邪魔」には、「もとは仏法をさまたげ、修行をさまたげる魔を、正しくないという意味を込めて「邪魔」と呼んだ」という説明がある。
この言葉の元ネタは仏教の世界にいた、煩悩の化身であるマーラという悪魔だ。
古代インドのサンスクリットでそれを「mara」といい、中国人が「魔羅」という漢字をあてて、「魔」の一字でも表わされるようになった。
シャカが悟りを開いてしまうと、邪悪な心のカタマリであるマーラは消滅してしまう。
だから「そうはさせん!」と、静かに座って瞑想しているシャカの心を惑(まど)わせようとした。
まず3人の魅力的な美女を送り込んで、誘惑させても、シャカはまったく動じない。
マーラは恐ろしい怪物にシャカを襲わせたり、彼を暗闇に閉じ込めても、シャカの心に一切の乱れは生まれない。
刀折れ矢尽きて「まいりました」とマーラがあきらめると、シャカは悟りを開くことできた。

ちなみに、現代日本で“ち〇ちん”をマラともいう。
これは仏教僧が修行を妨(さまた)げる煩悩の象徴として、男根を「魔羅(まら)」と呼ぶようになったからという。

 

ということで「邪魔」とはもともと仏教用語で、悪魔のマーラが悟りを開こうと修行していたシャカの邪魔をした話が由来になっている。
いまの日本で「邪魔」は仏教の意味から離れて、ある目的に達成したり、自分のやりたいことを阻むモノを意味するようになった。
でも、中国語では元のイメージで「邪魔」を理解するらしい。
だから「お父さん邪魔っ」は言い過ぎになるし、「お邪魔しまーす」なんて気軽に使える言葉にはならない。
アメリカ人やインド人などにはない、台湾人や中国人と付き合うことのメリットは、話をしてると漢字の理解が深まるコト。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。