わわわっ!
きのう4月15日は「からあげクンの日」だったのに、食べて祝うのを忘れてた。
1986年(昭和61年)のこの日に、初めてローソンに登場したということだから、「からあげサン」もすっかりおっさんだ。
もともと唐揚げは人気があったし、コロナ禍の影響からアチコチに店舗ができて競争が激化したこともあって、いまでは「金賞多すぎ問題」が日本人を悩ませている。
このソウルフードの歴史は江戸時代にはじまった。
「唐」の字が示しているように、唐揚げの原点は中国から伝わった普茶(ふちゃ)料理の一品とされ、江戸時代の料理本に「唐揚」のワードが登場する。
このころの「唐揚」は、豆腐を小さく切って油で揚げた食べ物だったらしい。
普茶料理とは「普(あまね)く衆人に茶を施す」という意味だから、現代では唐揚げがまさにその状態に近い。
普茶料理を伝えた中国の仏教僧・隠元隆琦(いんげん りゅうき)はこのほかにも、インゲンマメ、スイカ、レンコンなどを日本へもたらした。
いまにつづく唐揚げブームがはじまったのは戦後。
戦争が終わった後、政府は食糧難になることを想定して、全国にたくさんの養鶏場を作ったから、国民はカンタンに鶏肉を入手できるようになる。
すると鶏肉を使った料理がいろいろ考案されて、それに衣をつけて油で揚げた唐揚げが全国へ普及していく。
くわしいことはこの記事を。
そんな日本発の唐揚げと、アメリカ生まれのフライドチキンの違いって何だろう?
どっちも鶏肉を油で揚げた食べ物で見た目もソックリ。
だからこの2つは同じで、日本語と英語の違いでしかないということでもないのだ。
まずアメリカには「金賞多すぎ問題」なんてものはない。
それに、片栗粉や小麦粉をまぶして揚げた食べ物が「唐揚げ」だから、そうやって作れば野菜でも魚でも唐揚げになる。
だから、唐揚げはチキンに限らない。
日本人が一般的に思い浮かべる鶏肉の唐揚げについては、
肉に味を付けてから、衣をまぶして揚げるが唐揚げ。
肉に味付けをしないで、衣をまぶして揚げるのがフライドチキン。
という違いがある。
つまり肉に味付けをするか、皮(衣)にするかだ。
*もともとは、みりんやしょう油で味を付けてから鶏肉を揚げるのが「竜田揚げ」で、鶏肉に下味を付けない揚げるのが「唐揚げ」だった。
でも、いまではそんな違いはなくなったから、ここでは「唐揚げ」に統一する。
このほかの違いには、唐揚げは日本人のソウルフードと言うことができるけど、フライドチキンはアメリカ人のソウルフードでないということがある。
これは奴隷の食べ物だったから。
英メディアのエコノミスト紙が書いているように、アメリカのフライドチキンの起源は奴隷制度にある。(2021/07/02)
American fried chicken has its origins in slavery
海外のものは日本語サイトよりも、英語版ウィキベテアのほうが信頼できる。
それを見てみると、「slave foods(奴隷の食べ物)」というパワーワードがあった。
Since the American Civil War, traditional slave foods like fried chicken, watermelon, and chitterlings have suffered a strong association with African-American stereotypes
アメリカでは南北戦争(1861~65年)以来、フライドチキン、スイカ、chitterlings(調理された豚の小腸)といった伝統的な奴隷の食べ物は、黒人(アフリカ系アメリカ人)と深い関連のある偏見に悩まされてきた。
まずアメリカに奴隷制度があったころ、奴隷にとって鶏は自分で育てることを許された唯一の生き物だったから、鶏肉料理は奴隷の人たちの間で人気があった。
そして、アメリカ南部へやってきたスコットランド移民が鶏肉を油で揚げる調理法を持ってきて、それと奴隷の調味料を使う技術が融合して、フライドチキンの製法が確立されていく。
*スイカが「slave foods」になる理由についてはこの記事を。
鶏に熱い視線を送る黒人
20世紀はじめごろのアメリカでは、こんなふうに黒人を侮辱的・差別的に描いたポストカードがあった。(Coon card)
鶏肉のおいしい部分は白人のオーナーが食べて、黒人の奴隷は捨てられた部分を食べていたという。
東亜日報のコラム(June. 04, 2014)
白人農場主らは、オーブンで焼く前に、肉の多い鳥の胴体や足を除く羽や足、首は捨てた。肉があまりなく、皮を剥いて食べるのも難しかったためだ。
「元々はソウルフード?」 米フライドチキンの由来
鶏の肉を骨ごと食べられるように、油でじっくり揚げたのがフライドチキンの原型になる。
南部の黒人コミュニティの間では、特別な日に鶏肉を揚げて食べることは、特にほとんどのレストランが黒人住民を締め出していた期間、続けられていたという。
移民と奴隷制度から生まれたというのはまさにアメリカン。
でも、そんな闇歴史があるから、いまでもフライドチキンには人種差別のイメージがつきまとっている。
英紙ガーディアンの記事(22 May 2013)
Sergio García apologises after Tiger Woods ‘fried chicken’ jibe
*jibeは「からかう、バカにする」の意。
タイガーウッズ氏と仲の悪かったゴルファーのセルジオ・ガルシア氏が記者会見で、 ウッズ氏と夕食をするか聞かれて、「毎晩、彼に来てもらうことにしよう。フライドチキンを出すよ」と答えた。
これは「日本人に来てもらおう。バナナを出すよ」と言うようなもので、アメリカ社会では黒人に言っていい言葉ではない。
スポーツ選手にとって、人種差別のイメージがつくのは致命的だ。
だからガルシア氏はこの後、
I apologise for any offence that may have been caused by my comment
(私のコメントによって、不快な思いをされた方すべてにお詫びを申し上げます)
と、公式に謝罪するしかなかった。
「suffered a strong association with African-American stereotypes」の具体例がこれ。
白人のアメリカ人に聞くと、フライドチキンはいまではすごく身近にあって、アメリカを代表する食べ物ではある。
でもあれは黒人のソウルフードだから、「アメリカ人のソウルフード」と、特に白人が言うことはできないらしい。
「slave foods」のイメージはまだ無くなっていないのだ。
唐揚げは起源をたどると江戸時代の仏教料理で、いまでは日本の国民食になっているから、「今度、家へ来てください。唐揚げを出しますよ」と言っても問題ない。
ほとんどの人は喜ぶだろうし、それを自分に対する侮辱と感じて怒る人はいないはず。
味を付けるのが肉でも皮でも、唐揚げもフライドチキンもオイシイから、最大の違いは人種差別のイメージあるかどうかだろう。
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