1095年にフランスの都市くまモンで、いやクレルモンで、教皇ウルバヌス2世が歴史的な演説を行った。
このとき開かれた会議でウルバヌス2世は、キリスト教の聖地エルサレムをイスラム教徒から奪い返すべきだと訴え、神のために武器を取るよう呼びかけると、人々は熱狂し、口々に「デウス・ウルト!」と呼応したという。
*デウス・ウルト(Dieu le veult)とはラテン語で「神がそれを望まれる、神の御心のままに」の意。
このクレルモン教会会議での教皇の演説によって第1回十字軍が組織され、エルサレムの奪還を目指してイスラム勢力と戦うこととなる。
そしてその後、ヨーロッパ世界とイスラム世界は約200年にわたり、エルサレムをめぐって激しい戦闘を繰り広げることとなったが、キリスト教徒は結局、エルサレムを取り返すことはできなかった。
十字軍の遠征はとっくの昔に終わったが、「デウス・ウルト!」のかけ声は現代でも残念な形で使われている。
神の名のもとに、イスラム教徒を殺りくするキリスト教徒の軍団
今年になってから、スウェーデンの首都ストックホルムで、ある市民がイスラム教に対する抗議活動を行い、聖典「コーラン」(アラビア語ではクルアーン)を燃やすと発表した。
この人物はイラク出身の人物で、スウェーデンの市民権を持っている。
彼は無神論者で、「極右」の活動家ではない。
イスラム教の祭りの日に、モスク(イスラム礼拝所)の前でコーランを燃やすというから、この男はムスリムの怒りを最大限に引き出すつもりだったらしい。
でも、スウェーデン警察は「治安上の理由」から、そのデモは認められないと禁止した。
しかし、裁判所は「表現の自由」を優先させ、警察の決定をひっくり返した。
デモが法的に認められたことで、警察官がこの人物の安全を守ることとなる。
これを受けて男性は先月のイスラム教の犠牲祭の日に、多くのムスリムが集まるストックホルムのモスクの前で拡声器を使ってイスラム批判をした後、コーランを燃やして踏みつけた。
この行為はイスラムに対するヘイトと言えるが、法律の範囲内にある。
スウェーデンの首相もこれには、「合法だったが適切でなかった」とかなり苦慮している模様。
イスラム諸国は当然のことながら激怒し、スウェーデン国旗が燃やされるだけでは収まらず、イラクではスウェーデン大使館が放火された。
そしてその約1か月後、今度はデンマークにあるイラク大使館の前でイスラムへの抗議デモが行われ、またもコーランが燃やされた。
となると、次はきっとイスラム諸国のターンだ。
フランスでも、「表現の自由」という価値観はとても大切にされている。
3年前に、仏メディアがイスラム教の預言者の風刺画を掲載したことについて議論が巻き起こると、マクロン大統領はフランスにはこんな自由があると表明した。
産経新聞(2020/9/2)
「フランスには冒涜する自由がある」マクロン大統領、ムハンマド風刺画再掲載で
もし日本の首相が「日本にはイスラムを冒涜(とく)する自由がある!」なんて言ったら、きっととんでもない騒ぎになる。
この発言は日本人の価値観に反していて、国民の支持を得られるとは思えない。
でも、こんな自由が認められている社会なら、コーランを燃やす人間が出てきてもおかしくない。
個人的には、11世紀には神がイスラムを攻撃することを認め、現代では法や大統領がそれを認めたように見える。
「デウス・ウルト!」のフレーズは差別的な意味合いを持って現代に復活した。
21世紀においてこのスローガンは、極右勢力やキリスト教のナショナリスト運動のキャッチフレーズとして使われている。
In the 21st century, the slogan was adopted by the far-right and Christian nationalist movements as a catchphrase.
冒涜する自由があるから、イスラム教の風刺画を掲載する。
表現の自由があるから、モスクの前でコーランを燃やす。
ヨーロッパ社会では OKでも、イスラム諸国にとっては許しがたい侮辱や挑発行為だ。
その結果、怒れる民衆に国旗を燃やされても、それはヨーロッパの自業自得ではないかと。
両者が大切にする価値観のぶつかり合いで、最近ではヨーロッパ世界とイスラム世界の対立が深まっている。
日本人がそれを反面教師にするなら、ヨーロッパ的な「表現の自由」よりも「和を以て貴しとなす」の精神を優先して、相手の心を傷つける言動はつつしむべき。
スウェーデンの「コーラン焼却デモ」とそれに怒るイスラム教徒
*コーランを燃やすシーンはない。
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