【諭吉の見方】韓国人に嫌われ、中華圏では尊敬される理由

日韓では文化的な価値観や感覚がわりと似ていて、どちらの国でも年上の人間は敬意を受けるし、同じ食べ物やアーティストが流行ることも多い。
でも、歴史認識は天と地。
日本では英雄の豊臣秀吉が韓国では侵略者になったり、韓国では英雄の安重根が日本ではテロリストになったりと、日韓では、歴史上の人物の見方が逆転する現象がよく起こる。

福沢諭吉もその一人。
日本では教育者として高く評価されているが、韓国で福沢諭吉は「諸悪の根源」のように嫌われている。
韓国の全国紙・中央日報のコラムに呪いのような文がある。（2009.08.12）

アジアの多くの国を見下して侵略を肯定した彼は、侵略の過去史を誇らしい歴史としようと右翼勢力と日本列島で吹き始めた嫌韓流を生んだ父だ。

【その時の今日】福沢諭吉…侵略戦争正当化した日本右翼の元祖

どうやら韓国で諭吉さんは、「嫌韓ネトウヨの祖」の扱いを受けているらしい。
福沢がここまで憎悪される理由は、彼が明治時代に「脱亜論」というアイデアを提唱し、日本はアジアを抜け出して、ヨーロッパの仲間になるべきと主張したからだ。

日本・中国・朝鮮は同じ古典を共有し、文化的には近い価値観を持っている。
でも、日本は欧米をモデルにし、近代化しようと努力しているが、中国と朝鮮は変化を受け入れようとしないから、違いが明確になってきた。
欧米列強の植民地にされるのが嫌なら、いま日中朝はそれぞれ国内改革を断行する必要がある。
しなければ、数年で「亡国」となるだろう。
でも、中国と朝鮮にその気配はないから、もう日本はこの悪友と絶交し、欧米と共に進むべきだ。

こんな「脱亜入欧」を主張した福沢諭吉は日本の近代化に大きな貢献をし、現代の日本では高い評価を受けて、最高紙幣のデザインになった。
一方、この「脱亜論」は現代の韓国人の逆鱗に触れ、「アジアの多くの国を見下した侵略を肯定した」とか「嫌韓流を生んだ父」と、もうどんな石でも投げてもいいような悪人になった。

福沢諭吉：日本の偉大な教育者は、韓国では「嫌韓の父」

日本は中国・朝鮮という「悪友」と絶交し、欧米の仲間入りを目指すべきーー。

こんな主張は韓国人だけでなく、もちろん中国人も怒らせる。
…と思ったら、実際には福沢諭吉については、中国人の見方は日本に近く、韓国とは正反対だった。

ニューズウィーク日本版の記事（2023/8/17）

こうした人物が中国に生まれず残念…福沢諭吉が、現代中国の「知識人」から敬愛されている理由

中国出身のコラムニスト・唐辛子氏が中華圏（おそらく中国と台湾を含む地域）のネットユーザーを対象に、「最も尊敬する日本人は誰か？」という質問をし、アンケート調査をおこなった。
そしたら、なんと福沢諭吉が１位に選ばれた。
その主な理由はコレだ。

「脱亜論の提唱者で、日本を東アジア文化の（悪）循環から救った」

中華圏の人たちは、福沢の「脱亜論」を高く評価したのだ。

欧米列強がやってくるまで、日中韓の社会は厳格な上下の関係や身分制度に基づいて構成されていた。
日本の場合、江戸時代には身分が生まれた時に決まっていて、個人の才能や努力によって高い地位に上がることは基本的にはできなかった。
福沢諭吉はそんな世の中の仕組みを憎み、「門閥制度は親の敵（かたき）で御座る」と言った。
彼は儒教の文化や精神に異を唱え、欧米の先進的な価値観や考え方を日本に紹介し、近代化に導いた。
“freedom”を「自由」、”right”を「権利」と訳したのが福沢かどうかはわからないが、その概念を広く日本に伝えたのは福沢であることは間違いない。
また、江戸時代の門閥制度は否定され、明治の新生日本は「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」という平等な世の中だから、学問をした人間が出世できると訴えた。
国で言うなら、「近代国家になるよう努力しろ」ということだ。

19世後半、中国と日本は欧米列強の脅威に直面していた。
でも、日本はすぐれた啓蒙思想家である福沢諭吉がいたおかげで、古い儒教的な価値観から抜け出し、西洋の文明を学び、近代化を実現した。
第一次世界大戦の後、日本は世界五大国の１つになるほど強大になった。
一方、中国には福沢諭吉のような先見の明のある人物が現れることはなく、近代化に失敗し、欧米の半植民地状態になってしまった。
「福沢のような人物が中国に生まれなかったことを、心ある中国人は心から残念に思っている」と記事に書いてある。

福沢諭吉は「脱亜入欧」を唱えたことで、韓国では「アジアの多くの国を見下して侵略を肯定した」、「侵略の過去史を誇らしい歴史と考える右翼勢力と嫌韓流を生んだ父」と徹底的に嫌われている。
一方で、中華圏では同じ理由によって、福沢は「尊敬する日本人」のナンバーワンに選ばれた。
「日本は中国や朝鮮という悪友と絶交すべき」と言われたら、中国の人たちも感情的には不愉快になるはず。
それを考えると、中国人は福沢諭吉について客観的に理解し、冷静に分析していることがわかる。

ただ、歴史の見方は韓国にもいろいろある。
今年の３月、尹（ユン）大統領は「私たちは世界史の変化に適切に準備できず、国権を喪失し、苦しんだ私たちの過去を振り返る必要があります」と述べた。

これまで韓国では、大韓帝国が日本に併合されたことについて、一方的に日本を非難することが多かった。
でも、尹大統領は、その当時の韓国政府が国際社会の変化に適切に対応できなかったからだと、自分たちの責任とした。
韓国の歴史認識では、「日本＝加害者、韓国＝被害者」という前提が一般的だが、尹（ユン）大統領はその枠組みから離れ、「自己責任論」を主張する。
もちろん、国内で猛烈に叩かれてしまったが、この見方を支持する人たちもいた。
あの弱肉強食の帝国主義の時代、近代国家に生まれ変われなかった国は、強国のエサになるしかなかった。
尹大統領の指摘は正しい。
韓国の人たちが「なぜあの時、大韓帝国は国内改革をできなかったのか？」を客観的に考えると、福沢諭吉の評価が変わるかもしれない。
福沢のような人物が韓国に生まれなかったことを、心から残念に思う韓国人が少しでも増えるといいのだけど。