【価値観の違い】上下を重視する韓国人、対等のヨーロッパ人

 

友人の30代の韓国人女性はアメリカ人やヨーロッパ人の知り合いが多く、わりと国際的な感覚をもっている。
彼女が欧米人の考え方について「良いな♪」って思うのは、年齢や性別で自分と相手の関係を決めないで、対等に接してくれるところ。

儒教の影響が強い韓国では、年上の男性ほど“エラく”、若い女性ほど“軽く”見られる傾向がある。年齢によって、無条件で「上下関係」が決まるから、年下の人間はそれに応じた言葉や言い方を使って、敬意を表さないといけない。(これは基本的に日本も同じ)
すると、相手も当然のように、こちらを“下位”と認識し、上から目線の態度で接してくる。

一方、欧米の文化では、年齢の違いをほとんど気にしない。
プライベートな場では、敬称なしの「タメ口」で気軽に話ができるから、彼女はこの対等な感覚が好き。
欧米人と交流していると自由を感じ、韓国社会の空気が封建的に思えてくる。
もちろん、これは一面的な見方で、友人は韓国的な価値観や常識を大切にしている。が、この年齢による「上下関係の固定化」についてはマイナス面が多く、ストレスがたまるらしい。

そんな彼女から見ると、この10年ほどで女性が強くなって、年上の男性にも言い返す場面が増えてきたことには喜びを感じている。
彼女はそんな風潮を「下剋上」と表現した。

【韓国の下剋上】男性優位の社会 VS “わきまえない女”たち

 

 

そんなヨーロッパの「対等」な価値観を持ち込んで、韓国サッカーを変えた男がいる。
2002年のサッカーW杯で、 韓国代表チームをベスト4に導いたオランダ人のヒディングだ。
この快挙に韓国人は熱狂し、ヒディングには名誉国民賞が授与された。
準々決勝でスペインを破ったスタジアムの名称を「フース・ヒディンク・スタジアム」へ変更する議論まであった。

韓国代表の監督になったヒディングは当初、選手たちの言動を見ていて違和感を感じた。
選手は年齢による上下関係を練習や試合にまで持ち込み、それをしっかり守っていたのだ。
韓国人にとっては、練習で年上の選手に敬語を使うのは普通で、ビュッフェ形式の食事でも、先輩が先に料理を取り、後輩は後から取るのが当たり前。
でも、ヨーロッパ人にはこの光景は異質で、スポーツの世界ではムダに見えた。
そこで、ヒディングは韓国の文化や価値観を理解したうえで、年齢の縛りを無くすことにした。

私は、韓国の意思疎通の方法に問題があると指摘した。韓国では、いつもベテランが若手に指示を出し、若手はただそれに従う。後輩は、ベテランにあえて自分の意見を言うことはない

「ヒディング自伝 韓国を変えた男(文藝春秋)」

 

国家代表チームの最優先目標は、強くなって試合に勝つことにある。
ヒディングは、韓国の“敬意の文化”はサッカーではマイナスに働くと考え、選手たちに対し、年齢に関係なく相手を呼び捨てにするルールを導入した。

チームを極大化しようとすれば、ピッチでは、年齢と関係なく、円滑な意思の疎通が成立しなければならない。選手には、年齢に関係なく名前を呼べと言った。韓国では、年齢が上の者の名前をむやみに呼んではいけないというが、試合では、そんな礼儀はなんの得にはならない。互いが理解できればいい(同書)

 

こうして、選手たちは年齢やキャリアに関係なく対等な立場になって、全員が名前だけで呼び合うようになる。
この「ヒディング革命」によって選手たちの距離は近くなり、チーム全体で一体感が生まれ、W杯ベスト4につながった。

 

その喜びから約20年後、韓国サッカーに大問題が発生した模様。

朝鮮日報の記事(2024/02/15)

胸ぐらつかむソン・フンミン、殴りかかる李康仁…見ているだけのクリンスマン監督 アジア杯2023

サッカーのアジア王者を決める大会で、過去最強と言われていた韓国は「格下」のはずのヨルダンを相手に0−2で敗北し、大会から姿を消す。
それも、韓国チームの有効(枠内)シュートはゼロで、「惨敗」と言っていいほど酷い試合内容だった。
韓国のファンは激怒し、ネット上では「みなさん、卵を持って空港へ行って、彼らを歓迎してあげましょう!」といった書き込みをいくつも見た。

最近、この敗戦の原因のひとつに「内紛」が急浮上した。
準決勝の前夜、李康仁(イ・ガンイン)選手ら若手たちはさっさと食事を済ませ、卓球で遊びだす。
チームの主将で、イ選手より約10歳年上の孫興慜(ソン・フンミン)選手は、この時間をチームの結束を固める機会と考え、個人行動に出たイ・ガンインら若手選手を叱り、卓球を止めさせようとした。
しかし、上の記事によるとイ・ガンインは反発し、こんな修羅場になったという。

後輩たちの無礼な態度に激怒したソン・フンミンが李康仁の胸ぐらをつかみ、これに李康仁が反発して殴りかかる騒動が起こった

 

別の韓国紙は、このときイ・ガンインがソンの顔を殴ったと報道している。彼が本当に殴ったかどうかを含めて、この騒動のくわしい内容は分かっていない。
でも、韓国的な表現をするなら、これも「下剋上」だ。

乱闘騒ぎはすぐに終わったが、ベテラン選手の怒りは収まらない。
彼らは監督を訪ね、明日の試合でイ・ガンインを外してほしいと直訴した。
しかし、彼は先発出場したから、チーム内の雰囲気は気まずく、選手たちの気持ちはバラバラだったはず。
韓国のサッカー専門家たちは、この内輪もめが試合のパフォーマンスに大きな影響を与えたと考えているという。

韓国の世論では、ソン・フンミン選手を支持する声が圧倒的に多い。
イ・ガンイン選手は後から、「先輩たちの言うことをきちんと聞くべきだった」と反省の言葉を口にしたが、時すでにお寿司。
彼のSNSには、「韓国国籍を捨てろ」「卓球選手になれ」といった怒りのコメントが2日間で3万5000件以上も書き込まれた。
こんな感じに、すさまじい数のネットユーザーが特定の人間を一斉に攻撃することを、韓国では「サイバーピラニア」現象と呼ぶらしい。

 

この“内乱”が起きた原因の一つとして、文化の違いが指摘されている。
イ・ガンインは10歳の時にスペインのサッカーのチームに入団し、以来ずっとヨーロッパで育ってきた。
彼のサッカーの才能は素晴らしいが、代表チーム内では自己中な行動が目立ち、冷たい視線が向けられることもあったという。
ヨーロッパ式のサッカーを導入したことで、いま韓国代表の中では対立が発生していると、ハンギョレ新聞の記事にある。(2024-02-15 )

韓国は欧州サッカーを先進化した形とみて技術とシステムを導入しているが、世代間の意見の相違や軋轢がむしろ韓国チーム内部で起きている。

サッカー韓国代表、ソン・フンミンとイ・ガンインの「衝突」の顛末

 

韓国では、若手がベテランの指示に従うだけで、後輩がベテランに自分の意見を言うことはないーー。
そんな状態から20年後、若手が主将に反発し、殴りかかる騒動が発生したが、突然こうなったとは考えにくい。
実際、それ以前から、チーム内でいろいろな世代間の摩擦があったのに、それが根本的に解決されずにこれまで続いてきて、今回の衝突が起こった。
もともと、上下関係を重視してきた韓国的な組織に、ヨーロッパ的な対等の価値観を導入したら、重要な場面で重篤な副作用が出て、最悪の結果を招いてしまった。
そんな面があると思う。

 

 

韓国を知りましょ! 「韓国カテゴリー」 目次 ②

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韓国人と日本人の意識の違い:サッカー日韓戦で見えたもの

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韓国人と中国人が驚いた日本人のマナーの良さ。これは大切にしよう

 

2 件のコメント

  • 現在、韓国ではイ·ガンイン事件で非常に大きな議論が起きています。
    韓国社会で10歳も年下の後輩が先輩に殴りかかったというのは想像し難いことです。
    ということで、サッカーチーム内の派閥問題も提起されています。政界でも関心を持って見ています。韓国では左派が政権を握って「平等」と「差別禁止」を叫び、それらがスポーツ界にも浸透し、先輩後輩間の位階秩序も崩れた状態です。先輩だからといって後輩に少しの暴力でも使ったら、将来が閉ざされるような処罰を受けます。良い方向に発展しなければなりませんが、イ·ガンイン事態のような全く予想できなかった問題を誘発させています。韓国の現在の状態はカオス(chaos)です。

  • >左派が政権を握って「平等」と「差別禁止」を叫び、それらがスポーツ界にも浸透し、先輩後輩間の位階秩序も崩れた状態です。
    この影響もあるでしょうね。
    これで韓国の伝統的な価値観が否定されることが多くなって、常識が変わっているように感じます。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。