ミュージアムの由来と、それを「博物館」と訳した日本人

 

大阪万博の開催まであと1年を切って、ネット上では「損切り」なんて声もささやかれているが、今さらそんなことできるわけない。
やるからには成功させて、ぜひ失望を裏切ってほしい。
*開催期間は2025年の4月13日〜10月13日までの184日間。

科学技術や文化、芸術などでその国らしいモノや珍しい品々を集めて、一般に広く公開するイベントが万博博覧会だ。
この由来には、古代ローマ時代、戦争で勝利した後、支配者側が民衆に戦利品や奴隷を見せることがはじまりになったというブラックな説がある。(万国博覧会とは?

 

博覧会は期間限定のイベントで、貴重な品々をいつも公開しているのが博物館。
古代ギリシア神話では学問や芸術、音楽やダンスなどをつかさどる女神を「ムーサ」という。
これを英語読みにしたのが「ミューズ」で、ミュージックやアミューズメントといった言葉の由来となった。
人びとは、そんな女神たちが祀られた神殿をムーセイオン(ムセイオン)と呼び、やがてそこはさまざまな学問を教える場所となった。
古代エジプトでは、ファラオ(王)がアレクサンドリアに総合学術機関のムーセイオンを建てたことで、天文学や物理学などが発達する。(Museum
このムーセイオン(ムセイオン)から、博物館や美術館を意味する英語のミュージアムやフランス語のミュゼが生まれた。

*博物館も美術館もミュージアムでOK。でも、「ややこしいわっ」と思ったら、美術館をアート・ミュージアムと覚えたらいい。

 

9人のミューズたち

 

古代ギリシアから一気にタイムリープして、幕末に漢学者の市川 清流が西洋社会のミュージアムに「博物館」という訳語を当てた(異説あり)。
彼はイギリスで見た「British Museum(大英博物館)」を博物館と表現する。
市川の業績にケチをつけるつもりはないけれど、博物とは「さまざまな物事を知っている」という意味で、それに「館」を付けただけではイマイチ魅力に欠ける。
「ムーセイオン(学問と芸術の女神たちの神殿)」という圧倒的なファンタジー感やインパクトには、まるで勝てる気がしない。
しかし、この言葉は周辺国でも認められ、現在では中国や韓国でも「博物館」という言葉が使われている。
韓国語では「박물관(パンムルグァン)」となるから、日本人なら発音を聞けば何となくわかる。

ちなみに、1872年のきょう4月17日、東京で「湯島聖堂博覧会」が行なわれ、日本での博物館の歴史がはじまった。

 

 

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2 件のコメント

  • > 科学技術や文化、芸術などでその国らしいモノや珍しい品々を集めて、一般に広く公開するイベントが万博博覧会だ。
    ⇒ 「万博博覧会」ではなくて、「万国博覧会」ですね。

    > 博物とは「さまざまな物事を知っている」という意味で、それに「館」を付けただけではイマイチ魅力に欠ける。
    > 「ムーセイオン(学問と芸術の女神たちの神殿)」という圧倒的なファンタジー感やインパクトには、まるで勝てる気がしない。

    なるほど、そういう感じ方もあるのですね。確かにギリシャ神話に基づく圧倒的なファンタジー感はないですけど。
    でも幕末期に、これから世界へ目を開こうとしていた日本人にとっては、「博物館」が「様々な物事を集めて知らしめることで広く教育に資するための建物(館)」だったことは間違いなく、近代国家におけるその機能を正確に表現したぴったりの訳語だったとも思います。
    だからこそ周辺国でもその語が定着したのでしょう。

  • > 「万博博覧会」ではなくて、「万国博覧会」ですね。
    その通りです。
    ご指摘ありがとうございました。

    明治日本が「博物館」を建てた理由については、近いうちに記事を書こうと思います。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。