日本人らしい配慮が裏目に 外国人には不満の「立入禁止」

 

日本にいる外国人を対象にした、「ガイジン・スマッシュ」という言葉がある。
これは、外国人が知らずに(または意図的に)日本のマナーやルールを破り、注意を受けても無視したり、その場を逃れるために日本語が分からないフリをしたりすることを指す。
日本の習慣や文化をスマッシュ(破壊)する行為で、要するに「迷惑ガイジン」のことだ。
「ガイジン・スマッシュ」は日本にいる外国人が作った言葉らしい。

ただ、日本人が海外へ行けば同じで、無意識に(あるいはわざと)スマッシュすることはある。
飛行機を降りたとたん、その国の常識や文化、マナーが脳にダウンロードされ、それらを完璧に守って行動できるわけないのだから。
ベトナムを旅行中、現地に住んでいる日本人から、こんな話を聞いたことがある。
彼がバイクに乗って走っていると、何らかの違反をしたらしく、警察官に呼び止められた。
すると、その日本人は「えっ? ナニ? 分からない」を連発し、警官をウンザリさせて「もういい。行け!」を引き出すことに成功した。
こんな感じに、海外で「ガイジン・スマッシュ」をしている日本人はわりといるのでは?

 

外国人がスマッシュをしないためには、彼らが事前に日本の文化やルールを学び、頭に入れておくことが重要だが、受け入れる日本側もマナー違反をさせない配慮が必要だ。
ある外国人がSNSで、京都のお寺で土足で上がり込んでしまい、住職に怒鳴られたと書いていた。
しかし、彼は、

「いや、たしかにオレが悪いと思うよ。でもさ、入口で確認したけど、そんな注意書きなんてどこにもなかったんだ。不親切なお寺にも責任はあるんじゃないの?」

と不満そうに言う。

外国人ならそれぐらい知ってて当たり前、と思うのではなく、そこではどんな行為がマナー違反になるのか事前に知らせた方がいい。
無意識にスマッシュしてしまい、罪悪感を感じる外国人もいるのだ。
ただ、日本の場合、それについては困った問題がある。
お寺や茶室、日本庭園などでは、その場のおごそかな雰囲気を壊さないように、間接的に伝えることがよくある。
たとえば、こんな竹の棒だ。

 

 

「立入禁止」と言葉で書かれた看板は無粋で、日本の古き良き伝統とマッチしない。
竹のような日本の伝統建築で使われる物を置くと、その場の雰囲気を壊すことなく、見学者を興ざめさせることもない。

こんな竹の棒(竹結界)のほかにも、日本庭園や神社やお寺などでは、「立ち入り禁止」を示すために、止め石や関守石(せきもりいし)と呼ばれる石を置くことがある。
これは、丸っこい石を縄でしばったもので、見学者が間違った道に入らず、正しい方向へ導く役割も果たす。

竹結界や止め石を知らなかったとしても、日本人が日本庭園でそれを見れば違和感を感じて、「これはどういう意味だろう?」としばし考え、「そうか、これ以上入ってはいけないということか」と気づくと思われる。
しかし、そんな日本人らしい奥ゆかしさは、異なる文化圏から来た外国人には通じない。

 

これまで、アメリカ人、イギリス人、インドネシア人、トルコ人、韓国人、タイ人、アフリカ人などと旅行などをしていて、竹結界や止め石があると、彼らにその意味を想像してもらったが、正しく分かった人はひとりもいない。
日本に住んでいて、日本の文化やマナー、価値観をそれなりに知っている外国人でも分からない。
国籍や人種、宗教を超えて、「そんなもん誰が分かるか! 立入禁止なら、しっかりそう書いてもらわないと困るっ」という点で全員が一致した。
外国人は「分かりやすさ」を重視するけれど、そんな無粋な物を置いたら、日本らしさが失われてしまう。
かといって、「ガイジン・スマッシュ」をされても困るから、対応がむずかしい。

まえにアメリカ人とイギリス人とショッピングモールにいたら、『蛍の光』が流れてきた。
彼らもこのアイルランド民謡を知っていたけれど、閉店を知らせるサインとは気づかず、「それなら、“もう帰ってくれ”って言葉で言うべきだ。分かりづらくて腹が立つ」と不評だった。
文化が違うから仕方ない。

 

日本と違って、インドではストレートで分かりやすく表現している。
この「インド門」では、自国の言葉と英語で「立入禁止」と赤文字で目立つように書いてあり、さらに鉄のチェーンが設置されていて、銃を持った警備員(軍人?)まで配置されている。

 

 

分かりやすさで言えば、完全にこれが正しく、ある意味、日本よりもユニバーサルデザインを実現している。が、日本の観光地で銃は絶対に見たくない。
やっぱり竹がふさわしい。

 

 

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2 件のコメント

  • > これまで、アメリカ人、イギリス人、インドネシア人、トルコ人、韓国人、タイ人、アフリカ人などと旅行などをしていて、竹結界や止め石があると、彼らにその意味を想像してもらったが、正しく分かった人はひとりもいない。
    いやいや、外国人がそのような振る舞いをするのは当然でしょう。日本人だって、
    > 竹結界や止め石を知らなかったとしても、日本人が日本庭園でそれを見れば違和感を感じて、「これはどういう意味だろう?」としばし考え、「そうか、これ以上入ってはいけないということか」と気づくと思われる。
    なんて、本当に気づきますかね? 少なくとも私は自信がありません。
    (ただ何人かの人に言わせると、私は「少し日本人離れしたところがある」そうですけど。)

    > 外国人は「分かりやすさ」を重視するけれど、そんな無粋な物を置いたら、日本らしさが失われてしまう。
    それほど迷う話ですか? 結局のところ「観光客として外国人を許容するかどうか」という点によると思いますよ。外国人観光客を許容するなら、対策の一つは、その場に「立ち入り禁止」を彼らにも分るよう明示することです。
    あるいはもう一つの対策として、入場する前に「こういうのは立ち入り禁止のサインだから間違えないように」と注意するパンフレットでも渡して、説明・教育して、それに違反したら厳しく罰金でも取ることですね。飛行機への乗客搭乗時には非常時の安全教育が必須であるのと同じです。

  • は竹結界や止め石はこれまで日本人に有効だったので、いまでも使われています。
    罰金だと法的根拠があるのか、現実的に徴収できるのか、などむずかしい問題がでてくるでしょうね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。