日本のメディアの記事を見ていると、たまにこんなワードが出てくる。
大谷翔平選手の「大本営報道」で見えてくる、日本のスポーツ紙がなくなる日(ダイヤモンド・オンライン)
「まるで大本営発表」の声も…理不尽な解散劇を経ても「SMAPイズム」が生き続ける明確な理由(フライデー・デジタル)
この「大本営」というのは、太平洋戦争中にあった陸海軍を統帥した最高機関のこと。
国民に対し、戦争で最も重要な発表はここから出されていた。
しかし、実際には、その内容は事実と違うことが多く、国民を騙(だま)していたことで悪名高く、現代の日本で大本営発表という表現は“ウソ”、大本営は“ウソつき”を意味するようになった。
大本営会議の様子(1943年)
米英に対する戦争についての最初の大本営発表は、1941年(昭和16年)12月8日に行われ、アナウンサーが国民にこう伝えた。
「臨時ニュースを申し上げます。臨時ニュースを申し上げます。大本営陸海軍部、十二月八日午前六時発表。帝国陸海軍は本八日未明、西太平洋においてアメリカ、イギリス軍と戦闘状態に入れり。」
これは正しい。
この日、海軍の真珠湾攻撃と陸軍のマレー上陸作戦が行われ、たしかに戦争がはじまった。
しかし、日本軍が不利な時、大本営はマシマシに“盛って”発表するため、事実とかけ離れてしまう。
たとえば、1942年のきょう6月5日に行われたミッドウェー海戦だ。
この戦いで日本軍は空母4隻を失い、兵士約 3000人が戦死した。対して、米軍では空母1隻を失い、約 362人が戦死した。
日本軍は完敗し、壊滅的なダメージを受けたにもかかわらず、大本営はこんな発表をする。
「敵根拠地ミッドウェーに対し猛烈なる強襲を敢行すると共に、同方面に増援中の米国艦隊を捕捉猛攻を加え敵海上及航空兵力並に重要軍事施設に甚大なる損害を与えたり。」
大本営発表によれば、米軍の損害は、航空母艦二隻、巡洋艦一隻、潜水艦一隻が沈没し、航空機約一五〇が損失し、重要軍事施設が破壊されたという。
一方、日本軍の損害は、航空母艦一隻の沈没と同一隻の大破、巡洋艦一隻の大破、そして未帰還の航空機があった。
これを聞けば「圧倒的ではないか、我が軍は!」と胸を張りたくなるが、とんでもないウソだ。
また、朝日新聞はこう報道した。
「太平洋の戦局はこの一戦に決したというべく、その戦果は絶大なものがある」
ウソである。
主語を入れ替えると真実になる。
これは同じく、ミッドウェー海戦についての読売新聞の報道だ。
「わが海軍部隊勇士が獅子奮迅、鬼神を哭かしむる激戦死闘を敢行した有様が想像され一億国民は重なる偉大なる戦果にただただ感謝感激の誠を捧ぐるのみである」
「戦史上特筆大書さるべきものである」
大ウソである。
日本軍の兵士が懸命に戦ったことは事実でも、「偉大なる戦果」は米軍のものだ。
これが太平洋戦争において、特筆大書さるべき一戦だったことは間違いない。日本海軍にとってミッドウェーは“海の墓場”になった。
撤退を「転進」、全滅を「玉砕」と表現するのも、大本営発表の特徴の一つ。
ただ、記者が最前線にいて、兵士が飢餓状態にあったことや、米軍に圧倒的な戦力があったことなどを新聞や雑誌が伝えていたから、すべての国民が大本営発表に騙されていたわけではなかった。
軍部や政府がウソの発表を行うことは「戦争あるある」で、現在のウクライナ戦争でも行われているし、当時のアメリカ政府もしていた。
それでおもしろい現象が起こる。
政府が都合の悪い情報を隠していることに気づいた米国民の中には、政府の言っていることに不信感を持ち、海を渡って伝わる大本営発表を信じる人もいた。
ウソつきの反対が真実、という法則は現代でも当てはまる。
ある時、日本軍が負けて米軍が勝利した戦いについて、大本営がいつものように虚偽の発表を行ったところ、それを事実と誤解した投資家の行動によって、ニューヨークの株式市場で株価が急落した。
「ウチの政府はウソをついている」と思った米国民が、敵国の大ウソを信じてしまい、アメリカ経済を混乱させたというオチ。
政府が国民に虚偽の情報を発信しているとこうなる。
国民をだました大本営発表もひどいですが、それを垂れ流すことで、国民の参戦世論を煽った、当時の新聞の責任も大きいと私は思います。
現在、そのような見解(自己反省?)に言及するメディアは、めったにないようですけどね。
まさか今でも、記者クラブに常駐して、政府発表や警察発表を丸ごと垂れ流すだけのメディア記者が決して全てということはないですよね? そう信じたいものですが。
> ただ、記者が最前線にいて、兵士が飢餓状態にあったことや、米軍に圧倒的な戦力があったことなどを新聞や雑誌が伝えていたから、
と言うのであれば、(この記事においては特に)具体的な実例を示すべきだと思うのですが。
そのような新聞や雑誌の記事は、誰が発して、誰に伝わっていたのですか?
これは大本営発表についての記事です。
記事で気になったところはぜひ調べて、いろいろな発見をしてください。