人気バンド「Mrs. GREEN APPLE」が新曲『コロンブス』のMVを公開したところ、すぐに後悔したらしい。
このMVでは、「もしも生きた時代の異なる偉人たちが一緒に旅をしたら?」という想定のもと、メンバーの1人が西洋人の衣装でコロンブスとに扮する。そして、海上の小島に上陸すると、類人猿(猿の着ぐるみをした人)と出会い、彼らに乗馬を教えたり、仲良くパーティーをしたりするシーンがあったため、ネットで大炎上してしまった。
ここで、改めてコロンブスについて確認しておこう。
彼は1492年に、初めてアメリカ大陸に到達したヨーロッパ人であるという説は、すでに否定されている。
コロンブスがアメリカ大陸までの航路をヨーロッパに広く伝えたことで、大航海時代がはじまり、世界史の流れを大きく変えた。
彼にはそうした偉大な冒険者という評価がある一方で、先住民を殺害したり、奴隷にしたりしたことから「残酷な侵略者」という批判も受けている。
最近のアメリカ社会では後者のイメージが強い。
コロンブスの“発見”以降、次々とヨーロッパ人がやって来て、先住民に強制労働をさせたり、現地に新しい病気を持ち込んだりして、数千万人が死亡したとされる(正確な死者数は不明)。
クリストファー・コロンブス
史実とMVの内容を重ねると、まるで大航海時代のヨーロッパ人を「文明人」、アメリカ大陸の先住民を「猿」にたとえ、未開な人たちに進んだ文明を教えるような印象を与えてしまう。
だから、「清々しいほどの人種差別」「植民地主義を肯定するのか」といった批判が殺到し、MVはすぐに公開停止となった。
ミセス側は「あらゆる可能性を指摘して別軸の案まで至らなかった我々の配慮不足が何よりの原因です」と謝罪文を公開する。
バンドや関係者にとって悩ましいのは、曲名が『コロンブス』という点。
歌詞には「偉大な大発明」、「文明の進化」、「コロンブスの高揚」といった単語があって、全体的にコロンブスを“偉大な人物”として描いているから、もう一部を修正しただけでは済まない気がする。
この炎上騒動にネット民の感想は?
・今ってコロンブスそんな扱いなのかよ
・これは許せんな。見てないけど
・ペリーにしとけば自虐になったのに
この件については、見逃せないポイントがある。
各テレビ局は朝の情報番組で『コロンブス』のMVを取り上げ、この新曲を好意的に紹介していたのに、昼になって炎上すると、夕方の番組からは、新曲が公開停止になったことを集中的に報道するようになった。
つまり、テレビ局側も朝の時点では、MVを見ても内容に問題はない(放送できる)と判断し、このヤバさに気づいていなかったのだ。
だから、ネットではこの「手のひら返し」に突っ込む人も多い。
・ワイプでMV見て歌ってたアナウンサーもいたな
・テレビ局も何とも思ってなかったか
・どうする報道部ww
実際のところ、歴史的にコロンブスと日本は直接関係がないから、彼に対する日本人の一般的な理解は深くない。MVを見ても、何が問題なのかわからない人も多いと思われる。
そんな人たちにはこの像を見てもらいたい。
これは「アメリカの発見の像」で、1958年まで米連邦議会議事堂に設置されていた。
きちんと服を着たコロンブスが地球儀を高々と掲げ、ほぼ全裸のインディアン(先住民)の女性がうずくまり、恐怖と畏敬の目でコロンブスを見上げている。
この像はコロンブス(西洋人)の勝利とインディアンの怯(おび)えを表現し、野蛮なインディアンに対する白人の優位性を示しているという。
This representation of Columbus’s triumph and the Indian’s recoil is a strong demonstration of white superiority over savage, naive Indians.
この像は、知的・道徳的に劣っている(とされた)先住民に対する、ヨーロッパ人の優位性を強調している。
それはアメリカ社会では常識的な認識だったが、時代とともに批判的な見方が広がっていき、1958年にこの像は撤去された。
現在のアメリカでこんな価値観を持っている人がいたら、すぐに人種差別主義者と見なされ、立場によっては社会的に抹殺されてしまう。
コロンブスが類人猿と出会い、文明を教えたというMVの設定は、もちろん制作側に差別的な意図は無かったのだろうけど、アメリカ社会が全否定する「アメリカの発見の像」の見方と重なる部分がある。
最初は各テレビ番組で普通に紹介されていたから、このコロンブスの暗黒面は多くの日本人にとって死角になっている。
曲名が「檀君」か「徐福」だったら、日本国内で問題視されたのだろうか?
「誰それ?」となる人が多いでしょうね。