今回は、日本の小中学校で英語を教えていた経験があり、今は母国に戻って元気に働いているベトナム系アメリカ人の女性から聞いた話を紹介しよう。
両親はベトナム人で、彼女は何度もベトナムに行ったことがあるから、アメリカとアジアの視点を持っている。
では、Let’s get started(始めましょう)。
ーー日本の夏の風物詩に「風鈴」があって、いま全国で活躍しています。あなたは風鈴を知ってますか?
もちろん。夏になると、お寺やお店でよく見た気がする。
関係ないけど、知り合いのアメリカ人が日本人と話をしていて、風鈴を「不倫」と聞き間違えたって話を思い出したww
ーー外国語を学ぶ人の「あるある」ですね。
アメリカ人と英語で話をしていて、「election(選挙)」と言いたかったのに、「erection(勃起)」と言ってしまって、大ダメージを負った日本人もいます。
で、風鈴なんですけど、「チリーン」という音を聞くと、日本人は涼しさを感じるんですが、外国人はそうでもないです。
あなたはあの音色を聞いてどう感じました?
あれは良い音だから好き。それだけ。
風鈴には日本の文化を感じるけど、涼しさとは関係ない。日本人はあの音を聞いて、本当に涼しく感じるの?
*この疑問については以下の記事をどーぞ。
ーーそうですか。アメリカとアジアの文化を肌で知っているあなたなら、「ひょっとしたら」って思ったんですけど、「やっぱり」でしたか。
勝手に期待して、1人で失望するのやめてもらっていい?
ーー風鈴の目的って、今と昔では違うんですよ。
古代、日本の仏教僧が中国から青銅でできた「風鐸」を持ち帰って、平安時代に貴族がそれを厄除けとして吊るしていたそうです。
(大きな風鐸が小さく、軽量化していって現在の風鈴ができた。名前は、僧の法然が「ふうれい」と名付けたことに由来するという説もある。)
日本と同じようにベトナムも中国から影響を受けてきましたが、ベトナムにも風鈴ってあります?
あるかもしれないけど、見たことない。
ベトナムには何度も行っているけど、いつも親の実家にいて私の行動範囲は狭いから、ベトナムの事情は知らないことも多いのよ。
ーーなるほど。ベトナムには不倫はあっても、風鈴は無いんですね。
やかましい。
ーー昔の日本人はウイルスの存在を知らなかったから、病気の原因は悪霊や鬼などの「怪異」のしわざであると考えて、そういう邪悪なものが外から家に入ってくることを恐れました。
風鈴の音色には呪術的な効果があって、あの音が魔を祓(はら)うので、音が聞こえる範囲はいわば「聖域」になります。
そういう日本文化の話は好き。
小学校で働いていたとき、節分の豆まきで、鬼の仮面をかぶった先生にマメをぶつけたのは楽しかった。
ーーそれは日本の代表的な厄除けの文化です。ちなみに、「魔を滅する」ということから、豆を使うという説もありますよ。
風鈴もそんな感じで、厄災の原因になる邪悪な存在を祓う目的があったようです。
ベトナム人も昔は、病気は「悪い風」が家に入ってくることが原因と考えていたから、やっぱり風鈴みたいなものはあったかもしれない。
でも、いまネットで調べてみたら、ベトナム語で入力したのに、日本のお守りがたくさん出てきたww。(彼女はアメリカの検索エンジンを使っている。)
ーーその「悪い風」っていうのは、日本でいう邪気のことかも。それなら怪異の一種だと思う。
ところで、アメリカにも厄除けの文化や考え方はありますか?
それは宗教によって違う。
キリスト教では、「悪鬼や悪い風が入ることによって悪いことが起こる」という考え方はなくて、不幸なことが起きたら、それは「神の怒り」と考えるのが自然。だから、あえて「厄祓い」というなら、教会で祈りを捧げることかな。
でも、たとえばヒンドゥー教を信じるインド系アメリカ人なら、日本みたいな文化や考え方がある気がする。
ーーそうでした。
アメリカにはさまざまな人種や宗教の人がいるから、島国の日本みたいに、簡単にひとまとめにして言うことはできませんね。
日系アメリカ人なら風鈴の文化もありそうです。
おまけ
以下は、今回の話で知ったこと。
・菌を培養する「シャーレ」がこのアメリカ人には意味不明だった。調べてみると、これはドイツ語で、英語では「petri dish」と言うことが判明。今の日本の小中学校の理科の授業でも、「シャーレ」ではなくて「ペトリ皿」と呼ぶらしい。
・「SNS」は和製英語で、アメリカ人は一般的に「ソーシャルメディア」と言う。
・あるアメリカ人が納豆を食べて、「ふつうの食べ物は見た目やにおい、味のどれかがダメでも、良いところがある。でも、納豆は私の五感すべてが拒否した唯一の食べ物」と表現した。「五感で不快感を感じる」は英語で「It was horrible to all five of my senses」になる。
・英語で「私はそれに共感できる」と言いたかったら、「That is relatable」や「I can relate to that」でOK。
確か、以前の記事で、「日本人や中国人は虫の音(ね)を聞くことができる、例えば虫かごでスズムシやコオロギを飼ってその音を楽しむ文化があったりする。けれどもアメリカ人には、虫の発する音は全く聞こえない」という話がありました。
上の風鈴の話を読んで、それではベトナム人には虫の音が聞こえるのか? という点が気になりました。
そうですね、今度ベトナム人と会ったら聞いてみます。(忘れちゃいそうですけど)