日本国民をまとめるものが天皇制なら、アメリカの場合は?

 

「日本国民をまとめるものは何ですか?」とAIに質問をすると、文化と伝統・日本語・歴史・教育といった答えが出てきた。
ほかにもAIは代表的な要因として天皇制を挙げ、「国民にとって天皇は歴史や伝統の象徴であり、国家の安定と継続性を示しています」と言う。
これはイグザトリー(そのとおり)。

紀元前660年に神武天皇が即位した神話の時代から21世紀に至るまで、日本では平清盛も織田信長もマッカーサーも誰も天皇の制度には手を触れなかった。皇室がギネスに「世界最古の王朝」と記録されたのも記憶に新しい。
現在では、憲法で天皇は「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」と定められている。
日本の歴史とともに歩んできた天皇(制)は、今では日本の文化や伝統のシンボルとなっていて、日本国民をまとめていることは間違いない。
では、アメリカはどうか?

 

「9・11テロ」で航空機が激突し、炎上しているツインタワー

 

歴史、文化、社会の人種構成でいうなら、多様性にあふれるアメリカは日本の「真逆」と言ってよし。
アメリカは1776年、日本なら江戸中期にできた新しい国で歴史は短い。だから、以前アメリカ人と奈良の法隆寺へ行った時、この寺が7世紀に建てられたと知ると、彼女は「アメリカが誕生する1000年以上も前の建物か…」と絶句した。

それとは別件で、「着物を着てみたい」というアメリカ人と話をしている中で、アメリカの伝統衣装は何かとたずねると、「そんなものは無い」と即答された。
移民大国のアメリカはヨーロッパ・アフリカ・アジアなど、地球上のあちこちからやってきた人たちで構成されているから、世界中の文化や民族衣装がある。日系アメリカ人の伝統衣装なら着物だ。だから、そのアメリカ人からすると、国内にはさまざまな民族衣装があっても、白人・黒人・アジア系などの人種で共通する「アメリカ全体の民族衣装」は想像できないという。

日本では、神武天皇が即位したとされる2月11日が建国記念の日で、この祝日は全ての日本国民にとって同じ意味がある(例外もあるけど)。
しかし、アメリカの建国記念日である7月4日は、アメリカにいたヨーロッパ人がイギリスと戦って独立した日、つまり白人どうしの歴史の話だから、「アフリカから連れてこられた奴隷をルーツとする私たちには関係ない」と建国記念日を“無視”する黒人もいる。
知人のベトナム系アメリカ人はベトナム正月を大切にしていて、毎年その期間になると粽(ちまき)を作ってお祝いをしている。彼女は建国記念日と自分は関係ないと考えているから、その日は普通の休日以上の意味はない。

アメリカは建国の経緯から、ヨーロッパ的な王や貴族などの特権階級を否定し、個人の自由と権利が尊重されている。そこに世界中から移民がやってきて成立した。
こんな多様性の洪水のような国で、人びとをまとめる存在はあるのだろうか?

 

アメリカでは23年前のきょう9月11日、戦後(建国史上かも)最悪の悲劇となる同時多発テロ事件が発生した。
イスラム過激派のテロ組織が行ったこの攻撃で、24人の日本人を含む約3000人が死亡し、2万5000人以上が負傷した。この出来事がアメリカ社会に与えたインパクトはすさまじかった。
ニューヨークの学校に通っていたアメリカ人の話では、このあと学校では、テロ攻撃を受けた状況を想定した避難訓練が行なわれるようになったという。
アメリカ全体としてはこの事件をきっかけに、世界中のテロ組織と戦う「対テロ戦争」が開始され、アフガニスタンでは同時多発テロの首謀者オサマ・ビンラディンが殺害し、政権を崩壊させた。
同時多発テロは国民の意識を一変させ、みんなが愛国者となった。
40代の知人のアメリカ人は自分の人生の中で、アメリカ国民が一つになった光景を見たのは、同時多発テロに対する怒りと、その後に始まった戦争を支持したときだけだと言う。

戦争で国がまとまるというのは悲しいことだけど、日本とは歴史も文化も社会構成も違うアメリカにはそんな一面もある。
日本でも軍部が戦争のために天皇を利用したことで、とんでもない悲劇が起きたのだけど。

 

 

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7 件のコメント

  • 韓国では日本の天皇を”日王”と低めて呼んでいることがよくご存知でしょう。
    「오랑캐(韓国語の発音:オランケ-蛮族)」と蔑んでいた国の君主に「皇」を称することはできないという朝鮮の考えが韓国になった今も続いているのです。そして多くの韓国人が日本国民が今でも「王」の下にいる臣下だという事実を皮肉っています。階級が消えた現代社会で、依然として王の臣下、つまり召使いとして過ごすことを嘲弄しているのです。
    日本人は自分たちが天皇の臣下であることをどう思っているのか気になります。

  • ご参考までに申し上げます。
    もし、朝鮮王朝が今まで残っていて、大韓民国も立憲君主制をしているなら、私は朝鮮王朝の臣民として生きることを恥じるだろうし、臣民であることを認めないでしょう。
    幸いなことに朝鮮王朝が消え、私は朝鮮王朝の臣民ではなく大韓民国の国民だという事実です。

  • >多くの韓国人が日本国民が今でも「王」の下にいる臣下だという事実を皮肉っています。
    それは知りませんでした。でも、韓国人はイギリス人にはそう思わないでしょう。イギリスは日本よりも厳しくて、外国人がイギリスの国籍を取るとき、英国王に忠誠を誓う必要があります。

    >日本人は自分たちが天皇の臣下であることをどう思っているのか
    それはまったくありません。
    日本には本音と建前があって、外国人にはわかりにくいです。
    太平洋戦争のとき、海軍では天皇を気軽に「天ちゃん」と呼んでいました。もちろん、これは海軍の兵士どうしの会話で、公的な儀式では天皇の正式名称を使っていました。
    また、米軍の捕虜になった日本兵は、収容所で「進化論」を教わったそうです。
    当時、アメリカでは「日本人は天皇を神の子孫と考え、自分たち臣民も天皇(神)の子孫である」と考えていました。
    それで人類はサルから進化したということを日本人に教えて、その迷信を破壊しようとしました。
    しかし、日本兵は進化論を知っていて、意味はありませんでした。「天皇は神で、国民はその子孫」というのは建前で、国民はそれは事実ではないと知っていました。

    今の日本で自分を「臣民」と考えている人は、聞いたことがありません。
    日本の学校では天皇は「象徴」として教えられていま。天皇は文化的な存在で、一般国民は憲法に従って行動しています。

  • お答えいただきありがとうございます。
    韓国人は日本人が天皇の下の階級の臣下として生きることを当然だと考える奴隷的な考えを持った人々だと非難するのが現実です。イギリスに帰化するには王に忠誠誓約をしなければならないという事実は初めて知りました。そういうことを考えると、日本の国民の方がずっと”民主的”なんですね。多くの日本国民が天皇を尊敬する姿は美しいです。韓国は歴史的に王朝国家でしたが、日本から解放されたとき、誰も王朝再建を叫ぶ国民がおらず、建国大統領の李承晩は朝鮮王朝の子孫であるにもかかわらず、王朝再建のことは考えさえしませんでした。
    王は彼の臣民を搾取する存在だったので、誰もその王朝を再建したがらないのです。
    そういう点で、国民が依然として天皇を尊敬し、天皇制を維持する日本がすごいと思います。

  • 「天皇」という存在は、昔からの政治体制を見ても分かる通り、政治家、官僚、一般国民のいずれも単なる象徴的な高位を示す「役割」であると認識しており、誰も自分たちが「臣下」であるなどとは考えていませんでした。だからこそ、天皇と幕府のような「二重権力状態」が成立したのだとも言えます。そこでは天皇は、政治権力を有しない単なる「象徴」あるいは「政治責任者に対する任命者」という役割でした。(現代でも日本国の内閣総理大臣は天皇が任命します。)
    特に最近では、「女系・女性天皇論」が取り沙汰される傾向があります。これは、天皇を一種の「職業」であるかのように国民が捉えているからだと思います。

    しかしだからと言って、一般的日本人は、わざわざ天皇に対する「悪口」を言ったりしません。それでも時々、一部の週刊誌なんかが「十分な役割を果たし切れていない」とばかりに天皇や皇室を非難する風潮はありますけど。
    日本人が天皇のことを悪く言わないのは、現在の日本国が多くの危機を乗り越え一つの国として成立しているのは、天皇・皇室の存在によるところが大きい(決してそれだけじゃないですが)と誰もが知っているからです。つまり、天皇は日本国民の支配者なんかではなく、日本人が敬意をもって接するべき「存在」であるということです。

  • フランス人やインド人など王政のあった国の人に聞くと、もう「君主」は必要ないと言います。
    王や皇帝を一度なくせばそれが当然になるのでしょう。

  • 日本国をまとめている最大のよりどころが「天皇」であるとすれば、アメリカ合衆国をまとめているのは何でしょう? 私の体験から考えると、それはまず第一に「ドル」の力であり、次いで「英語」、その次に「民主的な選挙で決まり、平時は行政のトップであり、有事には軍の最高司令官でもある大統領制という政治体制」だと思います。
    いずれも、一般のアメリカ人が自分自身ではあまり気づいていないのですが。アメリカ人ではない外国人の目から見るとこの3つは非常に大きな力を持っていて、他の国の追随を許しません。何だかんだ言っても、アメリカこそが、「経済力」「文化と科学技術」「民主的な政治リーダーシップ」という3つの分野で世界のトップに君臨する国なのです。トランプ氏がMAGAを叫ばなくても現代はその状態が続いています。
    おそらく今後も、アメリカそのものが消滅あるいは分裂するような驚天動地の大事件でも起きない限り、そのことは変わらないでしょう。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。