【文化の違い】インド人が日本で墓地を怖がる理由

 

最近、日本に住んでいる3人のインド人と話をした。
2人はインド南部のカルナータカ州の出身、1人は西部のマハーラーシュトラ州の出身で、全員がヒンドゥー教徒の男性だ。
そんな彼らには、日本で「恐怖」を感じる場所があるらしい。そのことを、3人の話を1人分にまとめて、会話形式で紹介しょう。

 

日本ってさ、住宅地の中にお墓があるよね。町を歩いていて、いきなり墓場があると驚くんだけど、日本人はあれが怖くないの?

ーーそれが「インド人もビックリ」か。
同じ質問を中国人や韓国人からもされたことがある。
東京の中心部を電車で移動していたら、突然お墓が見えたから、心臓がドキッとしたという韓国人もいた。
ある中国人は「陰陽」の思想から、生きている人の近くに墓場があると、陽(生)のエネルギーが陰(死)のエネルギーに奪われるから、墓地は一般的に住宅街から離れたところに作ると聞いた。
インドにも、そんな陰陽みたいな考え方があったの?

いや、それはない。
私がインドにいたころ、身近なところにお墓が無かったから、それを見ると自然と恐怖を感じるんだよ。

ーー日本でも昔は民家と寺や墓地は離れていたけど、人口が増加したから、寺の近くに人が住むようになったらしい。そういう土地はきっと安いから。
あとは、単純に「慣れ」だろうね。

 

ーーそう言えば、ヒンドゥー教徒はお墓を作らないんだっけ。
仏教と同じで、ヒンドゥー教でも遺体を火葬するけど、遺灰や遺骨はガンジス川などに流す。何も残らないから、お墓を作る必要がない。
仏教徒も本来はそうするべきで、同じ理由でタイの仏教徒もお墓を作らないと言っていた。

ヒンドゥー教徒にとって川は神聖なところで、罪や穢れを流してくれると信じている。ガンジス川は最も神聖な川で、そこに遺灰を流せば魂は天国へ導かれる。結局、お墓に入れるものが無いから、それを作る必要もない。
でも、インドにはイスラム教徒やキリスト教徒がいて、彼らは遺体を地面に埋めるし、ヒンドゥー教徒にも土葬するグループがあるから、インドにお墓が無いことはない。

ーータイでも中国系の人たちはお墓を作るし、どこにも例外はあるか。

それでも、インドでは全体的に墓地は少ないし、私の知っている限り、それは住宅街から離れたところに作られる。
でも、日本では、家とお墓が並んでいることが珍しくない。私のアパートの近くにも墓地があって、コンビニに行くためにはその前を通らないといけない。今でもそれが怖いから、コンビニに行けないことがある。

ーー日本人なら、きっとお墓よりもインドの方が怖いけどね。インドの治安の悪さは日本でも知られているから。
夜に1人で歩くとしたら、日本の墓場とインドの町のどっちがいいかを聞いたら、墓場と答える人が多いと思う。
ヒンドゥー教の聖地バラナシでは、人が住んでいるところに火葬場があって、観光客でも遺体を焼く様子を見ることができた。脳みそが沸騰する音が聞こえるとか、日本人の感覚だと、あれにこそ恐怖を感じる。

あそこはとても神聖な場所で、遺体を焼いた後には、魂も何も残らないから怖くはない。

ーー日本だと、火葬場が外国人の「観光スポット」になることはあり得ない。まぁ、インドに日本の常識を当てはめるつもりはないけど。

 

ーー「きもだめし」って日本語を聞いたことある?
日本では夏になると、そんなイベントをすることがある。
*肝試しの発想は平安時代からあった。
藤原道長が夏の午前3時に、鬼が出ると恐れられた屋敷へ行って、その証拠として柱を削ったものを持ち帰ったという話が『大鏡』にある。

今は知らないけど、ボクが小学生のころ、近所の大人が企画してお墓の中を歩く体験をした。オーストラリア人に話したら、「それは人権侵害だ!」と怒ってた。

同感だ。それは子どもにしていいことじゃない。

ーーでも、いちばん怖いのは、お墓の後ろで子どもたちが来るのを待っている大人なんだけどね。

インドにもホラースポットがいくつもあって、そういうところへ行くのが好きな人もいる。
有名な場所は「バンガル」という廃墟だ。数百年前は大きな町だったところで、今では住民の霊が住みついていると言われる。
幽霊が出るから、太陽が沈んだ後は観光客の立ち入りが禁止されている。いつか行ってみてくれ。

ーーバンガルね。よし、覚えた。絶対行かない。

 

おまけ

バンガルは「インドで最も呪われた場所」と言われ、その由来にはこんな話がある。

昔、魔法使いがここにいた美しい王女に恋をした。魔法使いは「ほれ薬」を飲ませようとしたが、王女はそれに気づき、薬を近くの岩に投げつけた。すると、岩が転がりだし、魔法使いを押しつぶす。しかし、彼は圧死する前に、この町はすぐに破壊され、誰も住めなくなると呪いをかけた。
その後、ムガル帝国の軍隊がやって来て、町は略奪され、王女を含めて住民は皆殺しにされた。
そんなことから、バンガルはインド最恐の心霊スポットとなった。
詳しい情報はラジャスタン州の観光局のHPで確認してくれ。

The Curse of Bhangarh

 

バンガルでは夜になると奇妙な声が聞こえてきて、一度入ったら生きて出られないと地元の人たちは信じているという。

 

 

 

インド 目次 ③

日本人のルール遵守 インド人的に良き点/理解できない点

パンと米の食文化 日本人は「無知」とインド人が言ったワケ

インド人が絶賛する日本社会 ワイロはなくても“恥”はある

【ヒンドゥー教と神道】もしインド人を神社へ連れて行ったら?

「日本人のインド観」に南インド人が戸惑うわけ

 

2 件のコメント

  • > 日本だと、火葬場が町の中に作られることがあり得ない。

    それが、そうでもないのです。もしも新しい火葬場を作るとすれば、町から少し離れた丘陵地とかに設置するのでしょうけど。でも、そのための土地が見つからない場合、旧来の火葬場の施設を改修・リニューアルして継続使用することが、特に地方都市では今でもしばしば見られます。そんな火葬場は昔からのものが町の中にあることも多いです。
    例えば名古屋市の火葬場(及び公共墓地)は、さすがに市の中心街ではないけれども、地下鉄沿線の住宅街・学生街の中に建てられていて、今でもそこをメインの火葬場として使っています。
    こんど名古屋に来る外国人・留学生に会ったら、教えてあげようかな。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。