むかし中国を旅行中、日本語ガイドから、日本人と中国人の違いについてこんな話を聞いた。
「中国人は1人なら龍でも、3人集まると豚になる。日本人は1人なら豚だけど、3人集まると龍になる」
つまり、中国人は個の力が強く、日本人は集団になると力を発揮するということ。
日本では古代から、「和をもって貴しとなす」の考え方が大切にされていて、いまでも外国人から協調性を高く評価されている。
しかし、それを最も必要とされた場面で、日本人はその力を発揮することができず、破滅的な失敗をしたことがあった。
太平洋戦争中の1941年のきょう10月18日、陸軍の大将だった東條英機が内閣総理大臣になる。この東條内閣で、「米軍をここから先に近づけてはいけない。それを許せば、日本を守ることができなくなる」という絶対国防圏が設定された。
しかし、日本軍はマリアナ沖海戦で米軍に負け、サイパン島を奪われたことでこの“ATフィールド”を破られてしまった。
逆に、米軍はサイパン島をゲットしたことで、ここの航空基地を利用し、爆撃機で日本本土を直接攻撃できるようになる。それによって軍需工場を破壊されたら、日本は兵器を生産することができなくなり、戦争を続けることは不可能になってしまう。
米軍が絶対国防圏を突破したという事態は、日本の敗戦が確定的になったことを意味する。1944年7月、東條英機はその責任を取って総理大臣を辞職した。
しかし、「あきらめたらそこで試合終了ですよ」と思ったのか分からないが、日本は米軍に対して、捷号作戦(しょうごうさくせん)を行うことを決めた。
この「捷」は「戦いに勝つ」という意味。
これは陸軍と海軍が協力し、日本が持つすべての戦力を結集してアメリカと決戦するもので、いわば「最後の戦い」になる。
この捷号作戦が1944年10月18日に開始された。
日本は形勢逆転というミラクルにかけたが、翌年の8月15日に何が起きたか知っている未来(現代)の視点からすると、これは終局へのカウントダウンが始まったのと同じだ。
時すでに遅し。
日本がアメリカに負けた理由のひとつとして、よく陸軍と海軍の不仲が指摘される。
実際、この両者のコミュニケーションや連携がうまくとれていなくて、それが戦いに影響を与えた場面は多々あった。
陸軍はソ連を仮想敵国とし、満州(中国東北部)の広大な原野を戦場に想定していたのに対し、海軍の仮想敵国はアメリカで、近づいてくる米海軍の艦隊を太平洋上で迎え撃ち、撃滅することを想定していた。
つまり、陸軍と海軍では、最初から見ている方向も考え方も違っていたのだ。
サイパン島の陥落についても、陸軍の関心が中国大陸での軍事作戦(大陸打通作戦)に向けられ、サイパンの防衛力を十分に強化する前に、アメリカ軍の攻撃を受けたことが原因にあった。
陸軍と海軍の対立は明治時代から始まり、自分たちにとって都合の悪い人物を暗殺し、排除することもある。
戦時中には、陸軍が海軍を信用できず、独自の潜水艦「まるゆ(三式潜航輸送艇)」を製造したり、海軍が独自の歩兵部隊を編成したりした。
ミッドウェー海戦で海軍が敗北して大ダメージを負っても、陸軍はその結果を数週間も知らなかった。海軍がプライドを守るために、屈辱的な敗北をそのまま知らせたくなかったのだろう。(軍種対立)
もちろん、戦争という国難を前に陸軍と海軍が完全に独立していたわけではなく、東京には大本営という最高統帥機関があり、そこで天皇と陸海軍のトップや幹部が集まって話し合い、意見をまとめて戦争を遂行することになっていた。しかし、実際には両軍の意思統一はできていなかった。これでは統帥機関の意味がない。
一方、米軍は違った。
アメリカには日本の大本営にあたる統合参謀本部があって、そこではちゃんと組織的な統合ができるシステムが完成されていた。
陸海軍部隊の戦略と運用の一元的な統合を確保し、陸海軍の間に基本的な葛藤(コンフリクト)がある場合には、大統領が統合者として積極的にその解消に乗り出した。
「失敗の本質 (ダイヤモンド社. Kindle 版) 戸部 良一; 寺本 義也; 鎌田 伸一; 杉之尾 孝生; 村井 友秀; 野中 郁次郎」
絶対国防圏が突破されて、陸海軍が一致団結して捷号作戦を行うことになったが、その前に強固な協力体制が構築されていたら、もっと別の結果があったはず。
太平洋戦争に関しては、日本の陸海軍はまとまらずに豚のままだったが、アメリカは一体化して龍になった。
国の中で軍が力を持ちすぎて政府の言うことに従わなくなるという事態は、特に発展途上国ではよく見られる現象です。太平洋戦争当時の日本も、そういう意味では欧米に比べれば「発展途上」の国だったと思います。
アメリカの軍事体制を見ていて感心するのは、大統領をはじめとする行政府の軍に対する統率力が極めて強く発揮されているということです。戦前の日本における首相やあるいは天皇の軍に対する立ち位置とは比べ物になりません。
現代のアメリカにおける軍事体制は、陸軍、海軍、空軍、海兵隊、さらにはCIA(外国に対する諜報および情報分析、時には軍と連携して実力行使も担当する、実質的には軍事部門)、およびNSA(世界中の情報に対して耳をそばだてている超秘密組織、これも大きな軍事力の一環)と、軍事関係の組織を分野毎に構成して、相互に牽制させることで、相対的に政府の統率力が強くなるような仕組みを維持しています。
単に予算額や武器弾薬あるいは艦船・兵力だったら、アメリカに匹敵する国が今後現れるかもしれません。しかし、上記のように「効果的で強い軍事力」を有するアメリカのような国は、当分の間、出て来ないでしょう。
組織としてもアメリカ軍に負けていましたね。全体的に統率がとれてなくて、結果的に多くの兵士を死なせてしまいました。
「たら、れば」と思うことが多いです。