国恥か水に流すか? 中国人と日本人の歴史感覚のちがい

 

日本と中国(や韓国)には不幸な歴史があって、とくに中国・韓国の人たちは近代史に敏感だから、日本人がつい失敗してしまうことがある。
先日は、日本のアイドルグループのプロモーション映像に、旧日本軍の軍人・岡村寧次の名前が映っていたことで、会社側はそれを公開停止にして日本語と中国語で謝罪した。

【日本人の失敗】中国人を怒らせる近代史という地雷原

さて、古代ローマの哲学者セネカさんはこんなことを言った。

「幸運とは、準備と機会が出会った時に生まれる」

そんな賢人の名言をパクって言うと日本と中国のあいだでは、「不運とは、無知と悪いタイミングが出会って生まれる」ということが起こる。
先月、そんな出来事があった。

 

ことしの11月に北九州市で卓球の国際大会が行われる予定で、卓球のワールドテーブルテニス(WTT)は9月18日にチケットの販売を始めると発表した。
しかし、中国から抗議が殺到したことで、チケットの販売日が延期され、WTTは「心からお詫び申し上げます。これは熱心なファンの皆様にとって非常にデリケートな問題であると認識しております」と謝罪した。
なんでこんなことが起きたのか。

「告知日」なら日本にもあるけど、中国には年に数回、「国恥日」という特別な日がある。その代表的な日が1915年に、中国政府が日本の「対華21カ条の要求」を受け入れた5月9日だ。
その要求の内容は、南満州鉄道の期限を延長すること、日本人に土地の所有権や営業の自由を認めること、警察官に日本人を採用すること、軍や経済で日本人の顧問を採用すること、兵器は日本から購入することなどで、中国人にとっては屈辱的なものばかり。
日本は中国に対し、これらが拒否された場合は軍事行動に移ると通告したため、中国は21カ条の要求を受け入れた。すると、中国民は憤激し、各地で日本製品のボイコットなどの反日運動が発生した。

21カ条の要求について、戦前の中国で使われた教科書にはこう書かれている。

「君たちは恥じないのか 今日はまた五月九日だ
この恥をすすがなければ休まないと誓った
毎年五月九日はある
我が同胞よ 願わくば同心協力して
この仇に報復しよう」

ソース:東亜経済調査局『戦前中国の排日教科書 歴史編: 満州事変以前の反日感情 忘れられた日中関係史 (Kindle 版)』

 

「君たちは恥じないのか 毎年五月九日はある この仇に報復しよう」という感覚は、レベルは薄くなっただろうが、現代の中国人にもある。いまでも国恥記念日がある理由は、日本から受けた屈辱を忘れないようにするためのはず。
国恥日は5月9日のほかにも、日中戦争が始まった7月7日、満州事変の始まりとなる柳条湖事件が起こった9月18日などがある。

*ことしの9月18日、広東省で日本人の10歳の男の子が刃物で殺害された。これが反日感情と無関係だったとは思えない。

岡村寧次と違って、日本で開催される卓球大会のチケットを販売することは問題ない。しかし、9月18日というタイミングが悪かった。
中国で国恥日には抗日ムードや民族意識が高まるのに、WTTはその配慮に欠けたから、「中国のファンの関心と抗議を引き起こしたことについて、深くお詫び申し上げます」と謝罪することになった。
中国人を相手に商売をするのなら、国民感情に配慮しないといけない。

 

「国恥」について、これまで何人かの中国人に聞いてみたけど、結局、“日本の侵略”に対して怒りを覚えるのはわかるとしても、それを「恥」と思う感覚がいまいち理解できなかった。
これはきっと日本人と中国人では価値観や文化が違うからで、日本には、外国に受けた恥辱を忘れないように記念日にするという発想がない。「仇(かたき)に報復しよう」ではなく、「恨みは水に流そう」という考え方が強い。
原子爆弾が投下されて、数十万人の市民が殺されたけれど、8月6日や9日は「国恥」ではなく、どちらかというと「一億総ざんげ」といった雰囲気になる。「恨みを晴らす」という気持ちにはならない。

しかし、中国には中国の受け止め方があって、5月9日や7月7日、9月18日になると国民は過去の歴史を振り返り、怒りや恥辱を感じる。
中国でビジネスをしたり、中国人と付き合いのある日本人はこうした国民感情に敏感になっておくべき。そうでないと、知らないあいだに地雷を設置して、とつぜん爆発させてしまうことになる。

 

 

日本 「目次

中国 「目次」

【日本の恩返し】漢字を伝えた中国人が和製漢字を使ういま

日本と中国の歴史:「皇帝≒将軍」で、天皇はオンリーワン

【中国人が見た日本】歴史の見方・食や縁起かつぎの文化

【ズルい日本】対華21カ条の要求に、米英が冷たい視線

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。