日本には、「これをやれば絶対にハズレない」という展覧会がある。それが古代エジプト展で、日本人は昔からこれが大好物だ。
日本の美術展史上、最も多い入場者数ランキングを見ると、第3位は1964年の「ミロのヴィーナス展」(約172万人)で、2位が2012年の「ツタンカーメン展」(約208万人)となっている。
そして、第1位は1965年に開催された「ツタンカーメン展」(約295万人)だ。
古代エジプト展が日本の歴代1位と2位を独占していて、同じテーマの展覧会は過去に何度も開かれている。2025年の春にも東京の『CREVIA BASE Tokyo』で、「ラムセス大王展 ファラオたちの黄金」が開催されることが決まった。
古代エジプト文明は時代を超えて、日本人の心をつかんでいるのだけど、エジプト人は自国の文明や歴史についてどう思っているのか?
先日、カイロに住むエジプト人女性とチャットをしたとき、彼女に意見を聞いてみたので、これからその内容を紹介しよう。
ーー最近、世界的に抹茶が普及していて、欧米では一般的になっているというネットニュースを見た。エジプトにも抹茶はある?
あります。でも、私はそれを買う余裕がないので、飲んだことはありません。
ーーあ、そうなんだ。
エジプト人は一般的にどんなものを飲むの?
私はマンゴージュースが好きですよ。あれは安いですし、街中にジューススタンドがあるのでよく飲みます。
ーーそれな!
20年以上前にエジプトへ行ったとき、マンゴージュースのおいしさに開眼した。水で薄めないで、100%マンゴーから作ったジュースは日本ではめっちゃ高い。
エジプト人にとっての抹茶がそんな感じか。
でも、日本は先進国でいろいろな飲み物があります。アニメを見ていて、「あれは何だろう? どんな味がするんだろう?」って思います。
幕末に侍たちがエジプトを訪れて、スフィンクスの前で記念写真を撮った。
ーー日本人にとって古代エジプトはすごく魅力的。
紀元前5000年ごろから文明が始まって、前3000年ごろに統一国家ができた。エジプト人が文字(ヒエログリフ)を使って自分たちの思想を記録に残したり、ピラミッドなどの巨大な建築物を建てたりしていたころ、日本にはまだ文字がなくて、縄文人は森に入ってドングリを拾って生活していた。
エジプトの悠久の歴史にはきっと全日本人が敬意を払う。
ピラミッドやスフィンクスといった歴史的な建造物には、エジプト人も誇りを感じるんじゃないの?
どうなんですかね。
人によりますけど、少なくとも私は、エジプトの歴史や文明を自慢する気にはなりません。家族も友人も古代の遺跡に興味なんてありません。それは私たちとほとんど関係ありませんから。
ーーえ、そうなの?
それじゃ、7世紀の法隆寺を「世界最古の木造建築物だぜ」って、日ごろ外国人に自慢しているボクがバカみたいじゃないですか。
ご愁傷さまデス。
ところで、いまカイロで文化遺産が破壊されているのを知っていますか?
ーーそれは初耳。ネットで調べたら…、あるね、そんなニュースが。
政府が道路建設のために、カイロにある「死者の町」と呼ばれる地区の墓地などの遺跡を破壊しているから、地元の住民は近代化と引き換えに、貴重な歴史や文化が失われることに危機感や悲しみを感じていると。
そうなんですか?
そこに住む人たちや関係者はそうかもしれません。しかし、私も周りの人も「へ〜、そうなんだ〜」って感じです。ほとんどのカイロ市民は、その出来事にあまり関心を持っていないと思いますよ。
ーーえ? それこそ、「そうなんですか?」って感じだけど。
カイロからは車で1時間ぐらいで、ピラミッドやスフィンクスに行くことができる。ボクなら、そんなところに住んでいるだけで誇らしいと思ってしまう。
週末に何度も行って、朝・昼・夕方、それに一年のいろいろな時期にピラミッドやスフィンクスの写真を撮って、SNSに投稿してウザいと思われる自信がある。
エジプト人は古代遺跡に関心がないの?
*次の文章はこの記事の重要部分なので、彼女のメッセージをそのまま載せることにする。
「Idk.. we can’t think about history and civilization while some families can’t afford chicken even for once a week.People can’t even think about entertainment
I think most people around the world can spend a holiday in other countries even for once or twice a year
While this is like fantasy for most of the Egyptians」
よくわかりません…。週に一度、チキンを食べる余裕のない家庭もあるのに、歴史や文明について考えることはできません。
世界中のほとんどの人は、年に1、2回、外国へ行って休暇を過ごすことができると思います。
ほとんどのエジプト人にとって、それはファンタジーのようなものです。
ーー経済がうまくいっていないんだ…。
まぁ、それについては日本もエラそうなことは言えないけど。
政治も経済もダメダメですね。
エジプトの平均給与は約157ドル(約2万4千円)で、一人分の最も安い食事は約2ドルですが、Tシャツは最低で6ドル、洗顔料は最低3ドル、スウェットシャツは12~14ドルします。
カイロにはひどい状態の道路があって、離れた場所へ行くと道はもっと悲惨になります。市民サービスも行き届いていませんし、エジプト全土を見ると、本当に発展が遅れています。
ーー日本では、バブル経済が崩壊してから長期低迷期間に入って「失われた30年」と言われているけど、世界有数の文明を築いたエジプトの場合は「失われた5千年」になるから、空前絶後のレベルだ。
大統領や政治家は国民のことを考えず、自分にとってのユートピアを築いているのでしょう。
資源と歴史に恵まれた国の経済がこれなのか? と思うと失望しか感じません。この現状を見て、どうやって古代文明を誇りに思うことができるでしょうか?
ーー(過去の栄光が輝かしいほど、現在の貧困をみじめに感じるのか…)
20年以上前に行った時も、エジプト人は経済がうまくいっていないと言っていた。それでも、彼らは明るくフレンドリーで幸せそうに生活していた。
そう。エジプト人はいつも陽気でフレンドリーです。しかし、ある作家は、生活が苦しいときほどエジプト人は明るく振る舞うと皮肉を言っていました。それは現実逃避の手段かもしれません。
ーー(擁護は不可能だな)おっと、そろそろ寝る時間だ。今日はこのへんで終わりにしよう。
OK、グッナイ。
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