日本通のアメリカ人、「察しろ文化」にイラッとする

 

10年ほど前、日本の小中学校で英語を教えていた黒人のアメリカ人女性から、こんな話を聞いた。
移民大国のアメリカにはさまざまな民族・宗教の人がいるから、誤解がないように、ハッキリわかりやすく説明する能力が重視されている。でも、日本の社会では言葉以外の方法で相手に伝えようとするコミュニケーションが多く、学校でもチームを作って教育活動を行うことで、相手の気持ちや考えを理解する能力や協調性を高めようとしている。
日本に住んでいた彼女がとても嫌ったのは、「あいまいな情報を伝えて考えさせる、自分の言いたいことを相手に察しさせる」というやり方。

仏教の禅宗には、本当に重要なことは言葉で伝えることはできないという「不立文字(ふりゅうもんじ)」の考え方がある。その影響もあるのか、確かに日本人のコミュニケーションでは、言葉を使わずに考えや気持ちを伝える「以心伝心」が大切にされている。

 

知り合いのアメリカ人を見ると、言葉を抜きにして、心から心に伝える日本式コミュニケーションを苦手としている人が多い。
その中の1人は日本にもう10年以上住んでいて、今はかなり空気を読むことができるようになったが、彼が来日したころは、何度もその壁にぶつかって心が傷ついた。
たとえば、知り合った日本人女性を誘ったところ、「むずかしい」という返事がきた。今ならそれは「NO」の意味だと分かる。しかし、その時はそれほど日本の文化を理解していなかったから、「行けない要因があるけれど、それをクリアしたら可能になる」とポジティブに理解して、「具体的に何がむずかしいのか?  どうやったら解決するのか?」と聞いてしまい、相手からウザがられた。

そんな彼も以心伝心の日本文化に慣れて、今では「そんなふうに悩んでいた時期が俺にもありました」というレベルに達している。それでも、彼と会って話をしていると、最近イラッとしたことがあったという。

彼が午後3時ごろ、ガラガラのファミレスで、ノートパソコンをコンセントにつないで仕事をしていると、店員がやってきて「もうコンセントは使えないので、外してください」と言う。
「それは気づかなかった。その表示はどこにあるの?」と彼が聞くと、店員はカチンときたらしく、「コンセントにキャップをしてあったはずです」と論点をずらして反論をした。
彼が、

「確かにキャップはあったね。しかし、それは簡単に外すことができて、ゴミが入らないようにしているのだと思った。利用を禁止しているのなら、その案内表示をしておくべきだ」

と言うと、店員は「今回はいいですが、次は気をつけてください」と言ってテーブルから離れていった。と言うと、店員は「今回はいいですが、次は気をつけてください」と言ってテーブルから離れていく。
彼としては、仕事をそのまま続けられたから全体的には良かったけれど、「迷惑ガイジン」の扱いを受けたようで不愉快な気持ちになった。

 

今までOKだったことをNGにするのなら、ちゃんと言葉にして伝えるべき。店側はコンセントにフタをしただけで、「あとは客が察して、使用を自主的に遠慮しろ」とするのは不親切でエラそうだ。

別のアメリカ人も同じ状況になったら、そんな彼の考え方にきっと同意する。

彼は日本で生活していて、アメリカよりもサービスが発達しているとよく感心するという。
あるときショッピングモールで買い物をしたら、店員が包装紙にビニール袋をかぶせようとした。その目的がわからなくて、日本でよくある過剰包装と思い、「それは必要ありません」と言うと、店員はいま外で雨が降っているからと言った。
雨が降ると、館内に店員だけに分かる音楽が流れるから、店員はそれで状況を理解して商品に雨よけのカバーをする。高級デパートではなくて、ショッピングモールの店でこんなサービスをしてくれたことが彼には感動的。
ただ、「やり過ぎ」と感じることも多々ある。
電車のアナウンスで「次の停車駅は〜です」と言うのはいいとしても、「右側のドアが開きます」という情報は彼にとっては不要だ。子供扱いされているようで、アメリカ人の彼には良い気分がしない。

 

日本の「不立文字」や「以心伝心」の文化に慣れた彼が、久しぶりにイラッとしたのがファミレスでの一件だ。
コンセントを使用できないのなら、撤去すればいい。少なくとも、その案内表示を付けるべきで、それは簡単にできるはずだから、店側はあえてそれをしないとしか考えられない。彼にはその理由が分からなかったので、「なんで言葉で説明しようとしないのか?」と聞いてきた。

そうは言われても、日本人のボクにも正確な理由はわからない。でも、店にとってマイナスだったことは間違いなく、コンセントを使って仕事をしたり、充電したりして長居する客は迷惑だったからと思われる。客にそんなことをストレートに言えないから、コンセントのキャップを見せることで「禁止」を伝えようとしたのだ。
しかし、間接的に伝えて相手に気づかせるやり方は、違う文化圏の外国人にはなかなか通用しない。特にアメリカ人やインド人は、日本の「察しさせる」やり方には軽くムカつくと思う。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。