反日からの「卒業」:日本に配慮を見せる大人対応の中国

 

2013年に中国を旅行していて、太原という都市に行ったとき、鉄道駅の前でこんな三輪タクシーを見た。

 

 

この場合の「小」は日本を見下す意味で、反日デモのときに中国人がよく「打倒小日本!」と叫んでいた。
前年の2012年に大規模な反日デモがおきたけど、これはもう終えんしたと聞いていたし、実際それまでに訪れた上海、大同、平遥では反日の空気をまったく感じなかった。
だからこの反日ステッカーを見たときには、足が止まってしまった。

意外だったのは、このとき一緒にいた中国人の日本語ガイドも同じ思いだったこと。

「きょねんのデモのときには、こんなステッカーをたくさん見ました。いまでも「打倒小日本」なんてものを貼っている人がいるんですね。おどろきました」なんてことを言う。

2012年ときは尖閣諸島(中国名:釣魚島)をめぐる争いから、中国の各都市で激しい反日活動が行われるようになった。
「打倒」の具体的な中身はこれ。

日系企業の工場や日系自動車会社の販売店などは徹底的に破壊された後に放火され、事後の操業が困難となった。また、日系スーパーやコンビニエンスストアは大規模な破壊と略奪行為に晒され、中国人が経営する日本料理店や路上を走行中若しくは駐車中の中国人所有の日本車も破壊された。

2012年の中国における反日活動

 

でもこれは「今は昔」のはなし。

読売新聞の記事(2019/09/18)

日中関係に配慮か…柳条湖88年式典、中国政府高官ら不参加

「か」ではなくて、間違いなく日本に配慮している。
1931年9月18日に中国の奉天(いまの瀋陽)近くの柳条湖で、日本軍(関東軍)が南満州鉄道の線路を爆破した。
でも関東軍はこれを「中国のしわざ」として満州に軍を進め、5か月で制圧して満州を日本の支配下に置いた。

柳条湖事件は、中国を攻める口実を日本側がつくったのだから、アメリカの「トンキン湾事件」のようなものだ。

1971年6月『ニューヨーク・タイムズ』が、いわゆる「ペンタゴン・ペーパーズ」を入手、事件の一部はアメリカ合衆国が仕組んだ物だったことを暴露した。

トンキン湾事件

この事件によってアメリカは本格的にベトナム戦争へ介入した。

話はそれるけど、トンキン湾は漢字で書くと「東京湾」になる。
「東京」は、日本でいえば弥生時代につくられた中国語で、中国やベトナムにもあったのだ。
くわしいことはこの記事をどうぞ。

日本・ベトナム・世界での「トンキン(東京)」とは?

 

柳条湖事件は満州事変のきっかけとなった事件で、より重要なのは満州事変のほうだからこちらをおぼえておこう。

日本政府は、事件の翌19日に緊急閣議を開いた。南次郎陸軍大臣はこれを関東軍の自衛行為と強調したが、幣原喜重郎外務大臣(男爵)は関東軍の謀略との疑惑を表明、外交活動による解決を図ろうとした。

満州事変・関東軍の専行

 

満州事変は、国民も海軍も昭和天皇も無視して陸軍(関東軍)が独断でおこなった。
これに海軍は激怒して、中国軍の抵抗を受けて苦しむ陸軍を「ざまあみろ」という思いで見ていた。

従って海軍は、陸軍の中国における〝 苦闘〟を、おおむね、一般国民よりも冷たい目で眺めていた。

「日本はなぜ敗れるのか 敗因21ヵ条  山本 七平 (角川oneテーマ21) 」

 

満州事変から日中戦争とへ陸軍の暴走は続き、しまいには太平洋戦争に突入する。

その後も、海軍とは全く相談なく、ぐんぐん戦線をひろげている。そしてどうにもならなくなると、その尻拭いを海軍にもってきて、しかも対米開戦に躊躇する海軍は腰抜けだという

「日本はなぜ敗れるのか 敗因21ヵ条  山本 七平 (角川oneテーマ21) 」

 

ちなみに上に出てきた関東軍の「関東」は、日本の関東地方とは無関係。
万里の長城の最東端にある「山海関」の東側に広がる地域、つまり満州全体(中国東北部)を「関東」と呼んでいた。

 

赤いところが満州
くわしいことは満州をどうぞ。

 

満州事変で瀋陽に入る日本軍

 

中国の言う「日本の侵略」は柳条湖事件にはじまる。
その事件から88年目になることし9月18日、中国の瀋陽で記念式典がおこなわれたけど、読売新聞が伝えるように、参加したのは地元当局の幹部で、共産党最高指導部や政府高官の姿はなかった。
中国による「改善傾向にある日中関係への配慮とみられる。」というのは疑いない。

 

満州の玄関口、大連の鉄道駅は東京の「上野駅」をモデルにつくられた。

上野駅(1932年)

2012年のとき、かつて日本が統治していた大連では反日デモが起きなかった。
くわしいことはこの記事をどうぞ。

大連と日本、反日デモが起きない理由。日露戦争とアジア。

 

さて2012年に大規模な反日活動がおきたとき、当時の石原慎太郎都知事は「酷い。これはテロ。民度が低い」、読売新聞は「日本の対中感情は悪化するばかり」と批判した。
現在でもこのときの印象が日本人の頭の中に残っていて、中国人への見方に影響をあたえていると思う。

でも、それは「今は昔」のはなしだ。
いま旅行で日本を訪れる中国人とこのときの中国人はまったくの別人。
日本に住んでいる中国人の話では、日本を旅行したあと日本好きになって帰国する中国人は本当に多い。
中国から「反日」が完全になくなったとはいわないけど、少なくとも韓国とはちがう。
東京オリンピックでの「旭日旗騒動」を見てもそれは明らか。

韓国人旅行者が激減したいま、日本に来てお金を使ってくれる中国人観光客の存在は本当に重要だ。
個人的感情を抜きにして、単純に経済のことを考えれば中国は絶対に無視できない。
7年前のイメージを引きずっているのは、「打倒小日本」というステッカーを貼っているのと変わらない。
日本に配慮して、記念式典への出席を遠慮する中国はもう「反日国」ではないのだから、もしそういう印象を持っていたら、そのレッテルははがしたほうがいい。

 

おまけ

 

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12 件のコメント

  • 対日感情の変化と言うよりは、米中対立(特に経済面で)が深刻化した結果、東アジア地域での「味方」を求めている中国政権が反日で民衆を煽ることをしなくなった、それだけのことのような気がします。太平洋戦争後、既に70年を経過して、当時の日本軍と現実に戦った(戦いの場に実際にいた)記憶が残っている人は、日本人でも、中国人でも、非常に少なくなってきました。そのような状況においてかつての敵国感情が激しく蘇るとしたら、それは誰かが意図的にその感情を煽ったからという結果に間違いありません。

    「打倒小日本(ダーダォシャオリーペン)」って、「小」が侮蔑の意味を持つからなんだろうけど、つまり現状では自分達は「小国」よりもさらに小さい存在であるってこと? 妙なスローガンだなって思います。単なる大きさの大・小=>善・悪に結び付けられる(?)って儒教ですか? 大きければ無条件に正義なのですか? 面積で? 人口で?
    また、「関東軍」というネーミングのセンスの無さにも驚かされます。そんなの、間違いなく日本の「関東地方」と混同されるに決まってるじゃないですか。なぜ「満州方面軍」とでも名付けなかったのかなぁ? でもまあ、現在だって日本にも「中国地方」があるくらいだから、別におかしくないか・・・。

  • 何を言いたいのか、よく解りません。中国共産党は潜在的に反日思想ですから。

  • 政治的な損得で反日をあおらなくなったというのは大人の対応ですよ。
    それができない国もありますから。
    この場合の「小」は「小説」の小と同じで、対象を軽視する表現です。

  • 中国人と朝鮮人は全く異なる性格で日本人は中国人と殆ど変わらない性格に思える。政治体制の違いや教育課程も違うが日本人は殆どが中国の教えを乞い。日本の戦国時代も中国の歴史を習い武将は好んで兵法を学んだ。歴史的にも世界をリードした時代が中国にあった。儒教は廃止されても良き部分は日本同様に残されている感じがする。中国が困り果て日本が助ける事があれば必ず情ををもって接すれば義の熱い中国人は答えてくれると思う。そこが韓国人、朝鮮人の大きな違いだ。
    いつの日か中国と良き隣人でパートナーになれる日が来ると楽しみにしている。

  • 今は米中経済戦争の真っ只中なので、反日を抑えてますが、状況が変わればまた、反日に戻るでしょう。

  • だからといって安全保障上の警戒を緩めても良いという話ではない。なにしろ、あちらさんは共産主義独裁国家なのだから。

  • 朝から晩まで抗日ドラマやってる状況は変わらないし、鬼子日本の記憶は中国は消すつもりはないです。あと日本への配慮ではなくて、単に今の中国は米国と対峙していて日本など眼中にないんです。

  • いまの日本には古代中国、とくに唐の影響は京都や漢字などいろんなところにあります。
    反日がなくなればいい関係になれますよ。
    現在の日中、日韓関係を見るとそれがわかります。

  • 「損得」で反日を加減しているところはあるでしょう。
    でも、米中経済戦争のあとに反日をアピールして、中国にどんな得があるのやら。
    メリットデメリットでつながっているほうが分かりやすくて、コントロールも容易です。

  • 中国は「損得」で動く傾向が大きいと思いますよ。
    海洋進出を見ても、安全保障で気を抜けないのはたしかです。
    安全とビジネスはわけて考える必要があります。

  • 抗日ドラマは同じでも中国人が変わりました。
    ネット世代の若い人たちはそんなドラマを見ていません。
    知り合いの中国人に聞いたら、とくにスマホ世代の中国人はそんなドラマと無関係です。単純にもっと面白いものがたくさんありますから。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。