日本と中国の関係を考える:友好ではなくて共益・友情より信頼

 

困っている人に必要なものを届ける。
そんなハートウォーミングな行為を中国語で「雪中送炭」という。

新型肺炎が発生した中国はいま雪中にあって(2月19日現在で感染者は約7万4千人、死者は2千人を超えた)、世界中からマスクや防護服などの「炭」が送られている。
そんな中、日本から届けられた支援物資の段ボール箱に書かれていた「山川異域 風月同天」という漢詩に注目が集まった。
これは「住んでいる場所は違っても、風や月は同じでひとつの空の下でつながっている」といった意味で、全中国が感動して外務省が公式に感謝のことばを述べた。
これは超異例。

くわしいことはこの記事を。

日本からのエールに中国外務省が感謝、市民は「泣きました」

 

モノと一緒に心を届けるというのは日本人らしい配慮で、このあともいろんな漢詩のメッセージが中国に届けられた。
富山県が友好都市の遼寧省に送った支援物資の箱にはこんな漢詩が添えられた。

「遼河雪融、富山花開;同気連枝、共盼春来」
(遼寧で雪が解ければ 富山で花が咲く 同じ木でつながる枝のように 春が来るのをともに望む)

これは京都の舞鶴市が大連市におくったメッセージ。

「青山一道同雲雨 明月何曾是両郷」
(風も雨も乗り越えた親友同士 別々の場所で同じ月を見ている)

こういうときに漢詩でいろんな心を伝えられるのは、漢字文化という共通点を持つ日本人ならでは。
これには中国も感謝感激で、メディアが取り上げたりSNS上で大きな話題になったりして、「ウイルスが去ったら絶対に日本、特に舞鶴に応援に行く」といった書き込みがあるという。

毎日新聞の記事(2020年2月13日)

苦境が続く中国ではSNSを通じて日本側の支援に関する話題が広がり、主要メディアも相次いで報道。(中略)「受けた恩は何倍にもして返さなくてはならない」と、中国の故事成句を盛り込んだネットの書き込みも目立っている。

援助物資に漢詩添え 日本からの心遣い 中国で話題「受けた恩は何倍にも」

 

とはいえ中国と日本はまったく別の国。
国内で日本への感謝の声が高まると同時に、中国海警局の船が日本の領海(尖閣諸島の沖合)に侵入して海上保安本部が警告している。

あちらとこちらでは結局、政治的にも社会的にも価値観や考え方が違うのだ。
だから国同士が友だちになる必要はなくて、お互いの利益に応じて付き合っていけばいい。

麻生副総理が文藝春秋とのインタビューで、日本と中国の関係で大事なことは友好ではなくて「共益」だと指摘している。(2019/12/10)
日中双方の利益を得ることが目的で、友好はそのため手段でしかない。
その点を踏まえてこう話す。

小泉純一郎内閣で外務大臣だった頃、俺が「日中友好には興味がない」と言ったら日本では大騒ぎになりましたが、中国の李肇星外務大臣に「共益」と紙に書いて示し、重要なのはこれだろうと言ったら、彼は強く頷いた。中国人は重要なことをちゃんと分かっているんです。

麻生太郎副総理が激白 「安倍総理よ、改憲へ四選の覚悟を」

 

日本人と中国人の個人的な関係なら、相手に応じて友情で結ばれたらいい。
でも国同士なら「カネの関係」で十分だ。
心は許さないけど、自分の言ったことや相手との約束は守るという信頼を大事にして、ともに利益を得る関係でいい。
相手を無視して勝手に期待すると、あとで失望することになる。
中国が日本の思い通りに動くはずない。

だから日本の国益を第一に考えて、パートナーとして付き合っていけばいい。
中国も日本について「役立つかどうか」を最優先に考えているはずだ。

 

 

この人物は戦前の東洋史学の権威・内藤湖南(1866年 – 1934年)。
いまの日本で「こなん」といえば名探偵のことだけど、かつての日本ではこの天才のことだった(たぶん)。

6歳で『大学』をわずか4ヶ月で習得し、7歳で『二十四考』『中庸』と四書を習得し、13歳時で『日本外史』を通読し、詩作を始める。

内藤湖南

 

内藤湖南の著作によると、江戸~明治時代の学者は日本文化の成り立ち(由来)をこう考えていた。

日本文化の由來を、樹木の種子が最初から存して、それを支那文化の養分に依つて栽培せられた

「日本文化とは何ぞや (内藤 湖南)」

*支那は中国のことだけど、現代では侮辱語になるからNG。

 

この考え方は現代の日本と中国の関係にも通じる。
相手のために自分を犠牲にする必要はなくて、日本が持っている良さを中国という「養分」を利用して育てればいい。
相手の性格や考え方が合わなくても、こちらに利益があるのなら、向こうが約束さえ守っていれば付き合うことはできる。

いまの日本は中国との関係を絶つことも無視することもできないのだから、友好ではなくて共益を目指していけばいい。

困っているときは、モノに心を添えて応援する距離感が最適だ。
漢詩のメッセージを送った日本に、中国外務省の報道局長が日本語で感謝の言葉を書きこんだ。(2020年2月16日)
こんなことも超異例。

 

華報道局長のツイートのキャプチャー

 

中国の好意が日本の不利益になることはない。
警戒心を忘れずに信頼を築いて、共に利益を追求する関係でいればいい。

 

 

こちらの記事もいかがですか?

中国にあって日本になかったもの。「阿片吸引」の悪習慣

中国人ガイドも驚く「日本人の三国志好き」、その背景は?

中国 「目次」

韓国のソウルを漢字で書けない理由:漢城?京都?首爾(首尔)?

外国人「独とか蒙古って漢字は差別だろ?」、日本人「えっ?」

 

4 件のコメント

  • >警戒心を忘れずに信頼を築いて、共に利益を追求する関係でいればいい。

    まったく、おっしゃる通りだと思います。韓国に対しても同じです。

  • 韓国の場合は約束を守らないので信頼関係が築けません。
    まずはあちらが履行してからですね。

  • 漢文を何の為に習っているのかと子供の頃思っていましたが、今回の事でよく理解できました。
    この漢文の活用法は今後も続いてほしいですね。
    そして、今更ながら漢文の勉強をしようと決心しました。
    政治には色々問題はありますが、それとは関係のない部分ではこういう交流も良いものですね。
    今の中国については言及を避けますが、日本人は様々な面で影響を受けている古代中国への親しみはあると思うので、友好的な交流をする土壌はあると思います。

  • 中国旅行で漢字の筆談をしたときは楽しかったですね。
    こんなことができるのは漢字文化圏だけで、いまは普通のベトナム人や韓国人はできません。
    現実的にいまの日本が中国との関係を絶つことはできません。
    ただ、勝手に期待してあとでガッカリする経験もしたので、そのへんは注意して付き合えばいいと思います。

  • コメントを残す

    ABOUTこの記事をかいた人

    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。