幕末・明治の日本人の価値観:西洋は“穢れ”から“憧れ”へ

 

きょう12月18日は「東京駅完成記念日」。

1914年(大正3年)のこの日、日本を代表する駅が完成したことを記念して、この日がつくられたワケですよ。
それで外国人が東京駅についてどう思うか、前回こんな記事を書いたワケですよ。

訪日外国人が東京駅で思うこと「キレイ・迷宮・親切」

せっかくなんで今回はこの駅をまじえて、幕末・明治時代の日本人の価値観の変化について書いていこうと思うのですよ。

 

東京駅

 

この駅の建設が始まったのは明治の終わりごろ。
その数十年前、日本が開国して外国人が来るようになった幕末の様子を、江戸幕府に仕えていた武士の福沢諭吉が「福翁自伝」でこう書いている。

外国人は穢れた者だ、日本の地には足踏みもさせられぬと云うことが国民全体の気風で、その中に武家は双刀を腰にして気力もあるから

 

あるから外国人は神聖な日本の地を穢(けが)す存在と考えた若武者が、外国人を襲って切り殺すサムライ・テロを起こしていた。
福沢諭吉の感覚だと、1860年に大老(将軍の補佐役)の井伊直弼が暗殺された事件・桜田門外の変で社会の空気が変わり、「井伊大老の事変後は世上何となく殺気を催して」とある。

 

雪を赤く染めた、桜田門外の変

 

西洋に対する憎悪が深くなり世間が殺気立ってくると、はじめは外国人だけがターゲットにされていたけど、洋学者の日本人もねらわれるようになる。
西洋の学問を学ぶ人間は「尊王の大義をわきまえぬもの」や「外国に媚びるもの」で、さらには「売国奴」と見なされて武士に首をはねられた洋学者もいたから、当時の福沢は「怖がらずには居られない」という状態。

そんな日本も明治時代を迎えると「ご一新」でリセットされ、人も社会も一変して新世界へ突入する。
西洋に学んで富国強兵・文明開化を実現させ、欧米列強にバカにされないような国をアジアにつくろうとした。
福沢のこの文章にはそんな日本人の気風がよく表れている。

絶遠の東洋に一新文明国を開き、東に日本、西に英国と、相対して後れを取らぬようになられないものでもないと、茲に第二の誓願を起して、

「福翁自伝」

大英帝国は日本の理想だった。

 

こんな空気が強くあったから、「日本の顔」となる東京駅の立地は皇居と向かい合うようにすることまでは日本人が決めて、駅の設計はドイツの鉄道技師フランツ・バルツァーにまかされた。
和風の良さをいかそうと考えたバルツァーは、神社やお城で見られる千鳥破風の屋根にしようとしたものの、日本人の反対にあってその案は却下される。

日本を象徴する駅に和風はふさわしくない、というのが当時の日本人の価値観。

千鳥破風の屋根

 

西洋の文明や文化を「穢れ」と考え、外国人を襲っていた幕末とは価値観が真逆になって、明治・大正の日本には西洋風に憧れて和風を避ける風潮がでてきた。

 

 

アメリカのグラント将軍が明治日本にやってきたときのこと。
江戸時代の日光東照宮には将軍専用の橋があって、そこは大名さえ渡ることが許されなかった。
でも明治になると、そこには柵(さく)がもうけられて利用不可となる。
アメリカのVIPが東照宮を訪問したときの、日本人の「みっともない様子」を同行していた米国人のモースが書いている。

日光を訪れた時、この柵を取りはらって彼が渡れるようにしたが、謙遜な将軍 はこの名誉を断った。

「日本その日その日」

 

特別待遇でもてなそうとした日本人にグラント将軍は「ノーサンキュー」と言って、一般人が使う橋で日光東照宮に入ったらしい。
日本人の洋学者が「外国に媚びるもの」として、殺害対象となっていたころの空気は完全になくなっている。

 

完成したばかりのころの東京駅
これだけだとヨーロッパの都市かわからん。

 

日本人によって和風が排除されて、完全西洋風の東京駅が1914年12月18日に完成。
アムステルダム中央駅がモデルになったという説もあるけど、正確なところは分からない。
もし千鳥破風の屋根だったら、いまごろどんな東京駅になっていたか。

そんな日本人の価値観は一周回って伝統に回帰して、来年の東京オリンピックでは“和”を世界にアピールするはずだ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。