「ゲテモノ(下手物)」の由来は京都の朝市にあり

 

最近大阪の小学校で、こんなメニューが登場して全国ニュースになった。

毎日新聞の記事(2021/01/26)

ワニ肉を使った給食登場 「つくねみたいな味」 大きな口開け、児童ペロリ 大阪

豊中市のキャラクターが「マチカネワニ」だったことから、ワニ肉を入れたハンバーグが作られたとか。

近ごろの日本では変わった食材の話をチラホラ耳にする。
その代表格は昆虫食で、知人のアメリカ人は東京で自動販売機にカブトムシがあって目を疑った。
2年前のテレビ番組では、女優で静岡県民の誇り・長澤まさみさんが「昆虫食が食べたい」と話して、1杯に約100匹のコオロギを使ったラーメンを食べて絶賛していた。

イスラーム教やユダヤ教みたいに、食べていいもの/ダメなものが宗教できめられていないから、大抵の日本人は抵抗感さえ克服すれば、ゲテモノでも口に入れることができる。
何がゲテモノに分類されるかはその人の主観によるけど、渋谷パルコにできたゲテモノ料理屋『米とサーカス』では、ヤモリ・サソリ・ゴキブリ・ワニ・オオグソクムシ・カエルが食材で使われている。

 

ところでいまの日本人がよく使う「ゲテモノ」ということばは、元々はまったく別の意味だった。
その由来についてウィキペディアにはこんな説明がある。

1920年代に柳宗悦らが起こした民芸運動以降、前近代の大衆的工芸品に対しては(狭義の)「民芸品」という新たな価値観からの評価が為されるようにもなった。

ゲテモノ

 

いまとなっては、この説明とゲテモノがどう結びつくか謎だと思う。

そのことについては、思想家で美学者だった柳 宗悦(やなぎ むねよし:1889年 – 1961年)が『京都の朝市』で書いているから、これからそれを見ていこうず。

 

民衆の暮らしのなかから生まれた美の世界を紹介するため、1925年(大正14年)から「民藝」の言葉を用い、翌年、陶芸家の富本憲吉、濱田庄司、河井寛次郎の四人の連名で「日本民藝美術館設立趣意書」を発表した。

柳 宗悦

 

柳は大正から昭和のはじめまでの約9年間、京都に住んでいて、朝市によく通っていた。
当時の京都には、弘法の市、天神の市、壇王の市、淡島の市、北浜の市といった感じに、1か月で20日ほども朝市があったらしい。
この中で最も大きい朝市だった東寺の『弘法の市』と、北野天満宮の『天神の市』は現在でも行われている。(ほかの朝市もあるかも)

この時代、京都の朝市は朝6時ごろから始まって、値の張る高級な工芸品から古着や櫛(くし)まで、売り手のおばあさんが「何でもかでも並べる市」だった。

朝市に何度も足を運んでいた柳宗悦は、高級品ではなくて庶民が使うようなモノを購入していた。
「下手物」ということばを知ったのはそのとき。

「下手」とか「下手物」とかいう俗語は、実に是等の婆さん達の口から始めて聞いた言葉なのである。つまり私達の買う品物の大部分は、婆さん達に云わせると、「下手物」であった。

「京都の朝市」

 

柳らが好んで買っていた大衆的な日用品は、京都のおばあさんに言わせると「下手物」で、質の高い品は「上手物(じょうてもの)」と呼ばれていた。

柳たちはこのことばを面白いと思って、それに「下手物」と「上手物」を対にして使うと、「何かはっきりした性質の区別も示される」ことで便利にも感じたから、自分たちもこのことばを使うことにした。
この意味での「下手物」について、「恐らく文字でこの俗語を書き、その性質を述べたのは私達が最初ではなかったろうか」とある。

大正15年に柳は「越後タイムス」に「下手ものの美」と題する記事を書いた。
「下手物」ということばは、当時の日本人にとてもキャッチーに響いたらしい。すぐに全国に広がって、誰もが口にするようなことばとなる。

この俗語は、語調に強いところがあるせいか、また猟奇的な調子を感ずるのか、伝播はとても早く、年を追って広まり、今では用いぬ人がないまでに至り、

 

しかし、辞書にも載ったころから、下手物ということばは「間違った使い方をしたり、とんでもない意味に流用したり、又興味本位でこの俗語を色々に転用したり」という状態になる。
これは柳の意図とはまったく違う。
「下手物」のことばがひとり歩きして、別の意味で使われるようになったことから、柳たちがいろいろと不便になってしまった。
*いまの日本人の言う「ゲテモノ」はきっとこっちのほう。

誤解や曲解で「とんだ迷惑を受けるに至った」ことで、柳は下手物に代わる新しいことばを考え出す。

それで今度は逆に、なるべくこの俗語を避けるようにして、その代りの言葉を造り出す必要を感じ、遂に「民芸」という二字に落ちついたのである。

 

つまりいまの日本でいう「民芸(品)」とは、大正・昭和の時代、京都の朝市でおばあさんが言っていた「下手物」のことなんだろう。
ことばは生き物だから、時代ととも内容が変化する。
現在の日本では下手物にその意味はなくなり、「ゲテモノ」とカタカナ表記になって、ヤモリ・ゴキブリ・ワニ・オオグソクムシ・カエルの料理で使われることばとなった。
京都のおばあさんの感想を聞きたい。

 

 

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1 個のコメント

  • >大衆的な日用品は、京都のおばあさんに言わせると「下手物」で、質の高い品は「上手物(じょうてもの)」と呼ばれていた。

    あれ? この単語の組合せは私も聞いたことがありますよ。30年以上前だったか子供の頃ですが・・・。
    ただしこの「下手物」と食い物の「ゲテモノ」は、最初から意味が全然違う単語だと思ってました。

    >女優で静岡県民の誇り・長澤まさみさんが「昆虫食が食べたい」と話して、1杯に約100匹のコオロギを使ったラーメンを食べて絶賛していた。

    ぎょえ~!!!本当ですか。ファンだったのになぁ・・・。今後、静岡県出身の女性は、たとえ美人であっても用心することにします。(これまでは私が女性から一方的に用心される側だったけど。)
    でも、イナゴの佃煮だったら何とか許せるかな。小学校の時の弁当に入れられてて気持ち悪かった、でも食べました。母親が作ってくれた弁当だから。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。