日本と韓国の価値観の違い。愛国なら“不法行為”も許される?

 

韓国最大の全国紙・朝鮮日報の記事(コラム?)に、すっごく気になる一文を発見。(2021/05/16)

帰ってきた哲学者・卓石山氏「クッポンを越えよう」

ゲームのラスボスのような「クッポン」というのは、「韓国の文化は世界一ィィィィーーーーッ!」という感じの行き過ぎた愛国主義や国粋主義、またそういう気持ちから生まれる身勝手な愛国的言動を指す。
「国」と覚せい剤の一種「ヒロポン」の合成語で、自らの愛国心に酔って盲目的になることをやゆして「クッポン」と言うことがある。
日本だと「愛国ポルノ」のようなことば。

 

哲学者の卓石山(タク・ソクサン)氏から見ると、韓国社会には韓国を礼賛する人が多いらしい。

韓国ならではの優れた伝統文化がある!
BTSやBLACKPINKが韓国の優秀さを証明している!

といった「過度な意味付け」にタク氏は反対で、文化で重要なのは国籍ではなく水準だと主張する。
*なんという正論。この人物は社会の熱狂の外側にいて、冷静に要点を指摘する人らしい。

だから文化を海外に輸出することより、韓国に輸入することにもっと多くの努力を傾けるべきとタク氏は語る。「命がけで血が出るほどの努力して」高い水準の文化を持ち込み、そして自国でそれを発展させることが大事だと。
世界に伝える努力と世界に学ぶ努力はゼロか100かの二者択一ではなくて、どこの国も同時に行っているだろうが、韓国では海外に文化の“優秀性”を知らしめて酔いしれるクッポンが多いようだ。

そんな風潮に冷や水をかけるようなタク氏の鋭い指摘を聞いて、朝鮮日報の記者はこう思った。

鞘(さや)の中に木綿の種を隠して持ち帰った文益漸(ムン・イクジョム、元から木綿の種を持ち帰った朝鮮時代の文官)を思い起こさせた。そのように苦労して文化を輸入しなければならない

 

文 益漸(ムン・イクジョム:1329年 – 1398年)は高麗時代末期~朝鮮時代初期にいた文官。
文は使節の随員として元(中国)におもむき、帰国する際、持ち出し禁止のルールを破って、刀のさやにこっそり綿花の種子を入れて朝鮮半島へ持ち帰ったという。
そして母国で綿花の栽培を始め、多くの人の役に立ち国に貢献したということで、現代の韓国メディアから「韓国を輝かせた100名の偉人たち」に選定された。

600年以上も昔のことだから、それを21世紀の価値観から非難するつもりはないが、でもそれは違法行為だという指摘はあってもいい。
日本のメディアならその視点から、「現代から見ればけっして褒められたことではないが、木綿の種を隠して持ち帰った~」といった“窃盗”をにおわせた文章になっていたと思う。
文は当時の中国の法を十分知っていた上でそれを破ったはずだけど、朝鮮日報の文章を読むと「愛国的行動」として、いまの韓国社会でこの行為は手放しで賞賛されているようだ。
「韓国を輝かせた偉人」に選ばれたのだから、多くの現代韓国人はそんな見方をしているはず。

 

すこし前、日本の農家が苦労して開発したイチゴが韓国へ“流出”し、韓国の生産者が現地で栽培を始めて日本に逆輸入させて問題になった。
もちろん韓国側が日本に栽培料を支払うことはない。

この出来事を日本のメディアは「不当な」「盗んだ」「盗作イチゴ」と非難する一方、韓国紙の中央日報は「大韓民国『イチゴ独立』成功記」とほめたたえた。
この表現の違いには、日本と韓国の価値観や考え方の大きな違いを感じるしかない。
くわしくはこの記事を。

「盗作イチゴ騒動」にみる、韓国と日本との考え方の違い

 

つい最近も日本が開発した「紅はるか」で同じようなことが起きて、FNNプライムオンラインがこう報じた。(2020年11月25日)

日本が開発したさつまいも「紅はるか」が韓国で大人気…法律改正で日本ブランドの密輸は防げるのか

くわしくはこの記事を。

【遠い日韓友好】日本の農家が嘆き、国民を怒らせること

日本でいう「密輸」も、韓国では正反対の表現をするのでは。

 

海外の素晴らしいものを積極的に韓国へ取り入れ、クッポンを超えた「質の高い文化」を創造しようという主張には賛成だ。がそのためには何でもしていいわけではない。
行き過ぎた愛国主義を批判する文章でも、数百年前のこととはいえ、国に利益をもたらしたということで違法行為を“模範例”のように書くことには違和感ありまくり。
「そのように苦労して文化を輸入しなければならない」というのは窃盗を“美化”しているように見える。せめて過去形にしてほしかった。

イチゴやサツマイモ、ブドウなどが日本から韓国へ“流入”し、日本側がダメージを受ける出来事が近年よくあって、日韓関係にも悪影響を与えている。
これは文益漸を「韓国を輝かせた100名の偉人」に選ぶ価値観と無関係ではないだろう。

 

 

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2 件のコメント

  • 「海外へ自国の文化の優秀性を伝えるために、どんどん輸出すべき」という考え方にしても、「海外から優秀な文化・文明をもっと持ち込んでそれをタネにして、より素晴らしいものを作り出すべき」という考え方にしても、共通するのは「自分のことしか考えてない」という点ですね。それを「される側」の気持ちはどうでもいいことなのでしょうか?

    たぶん、日本人だったらすぐにそのことに思い至るでしょう。
    ただし「相手がどう考えるか」ばかり気にしているというのも、ちょっとどうかと思いますよ。自己主張がないのか? いつも黙っているのでは、自分のことを相手は理解できません。そのリスクをお忘れなく。
    総じて、日本人はもっと自分の考えをハッキリ口に出すべきだと思います。特に、国際社会の場においては。

  • > 覚せい剤の一種「ヒロポン」

    これ、実は戦前の日本で開発された市販薬商品名なんですよね。覚醒剤「メタンフェタミン」です。
    神風特別攻撃隊のパイロットを元気づけるため、軍は彼らにもこの薬を与えたのだとか。
    終戦直後の経済復興でめちゃくちゃだった時期、多くの日本人が労働時間を増やして飯の種を稼ぐため、法律で禁止されてからも「ヒロポン」に頼ったそうです。私の祖父・祖母も「当時は生きるのに精一杯で忙しくて、ヒロポンを自分で討って(自宅の)工場で必死に働いた」って、そう言ってました。
    二人とも既に故人ですが。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。