【ヘビと宗教】日本やアジアでは“神”、欧米では”悪魔”

 

体長3・5メートル、体重10キロという日本の自然界ではありえない超ヘビー級のヘビ「アミメニシキヘビ」が今月、横浜市にあるアパートから脱走して17日ぶりに見つかった。

結果的に1人の被害者も出なかったし、神奈川県警が250人以上を動員して2週間も探しまくっても見つからず、捜査を打ち切った翌日に、脱走したアパートの屋根裏を調べたら10分で見つかったというオチもあって、ネットを見ると「ほのぼのニュース」の扱いになっている。

 

・2匹見つかったりして
・捜索やった警察官とか打ち上げやりたいレベルだなw
・天井裏から愛をこめて
・17日飲まず食わずでも生きてたんか・・・
・みんなドタバタするから屋根裏で怯えてたんやわ可哀想に
・これで安心して五輪開催できるな
・アミちゃんを傷つけないで(´;ω;`)

こういうのを日本語では「灯台下暗し」、欧米では「青い鳥」と言うのかも。
*チルチルとミチルの兄妹が幸せの象徴である「青い鳥」を探しに行くが見つからず、結局それは2人の家の鳥籠の中にいたという物話。

元力士の安美錦(あみにしき)さんのツイッターには、「ご無事で何よりです」とかいう祝福コメントが次々寄せられたとか。

 

NHKはコロナや米韓首脳会談ではなく、これをトップニュースにした。

 

 

ミャンマーにはヘビをご神体としたお寺がある。
横浜のは体長3.5mということだから、ここにいるヘビよりも下手したら倍近く長い。
そんなものがアパートにいたとは…。

 

 

最近の記事でも書いたんだが、このまえアメリカ人とイギリス人と一緒に山道を歩いていると、30センチぐらいのヘビと出くわした。

 

何となく縄に見えないだろうか。
「朽(く)ちた縄」に似ているということで、ヘビは「クチナワ」とよばれることもある。

 

このとき彼らと話して感じたのは、「日本と欧米じゃ、ヘビに対する見方がまったく違いますねー!」ってこと。

いまの日本でヘビは嫌われている。
3.5mは例外として、1mのヘビが路上を這(は)っているのを見ただけでも、気持ち悪さと恐怖で体がフリーズする人が続出するはず。

でも宗教・伝統文化的には、日本でヘビはありがたい存在としてみられることも多々あった。
長時間なにも食べなくても生きていけるヘビは強い生命力を象徴したし、脱皮をすることから再生や成長、死と再生のシンボルにもなった。
また農作物を食べるネズミを食べてくれる。
白い蛇は「弁天様の使い」と言われていて、鎌倉の円覚寺にはとぐろを巻いた白蛇の上に弁天が座っている像がある。
ヘビは幸運のシンボルだったから、脱皮した皮を財布に入れると金運が良くなるという考え方もあった。
ところでニシキヘビは寒さに弱くて冬を越せないそうだから、もし横浜のヘビが見つからないまま息絶えたら、一体「何サイフ分」の皮がとれたのか。

とにかくそんなことから、日本では古代から山の神や水の神としてのヘビ信仰があったし、雨乞いでヘビに雨を願う儀式をおこなう地域もよくあった。

東京・品川区には、白蛇大神を祭る蛇窪神社(へびくぼじんじゃ)がある。

 

蛇窪神社

 

ここでも白蛇の上に弁天が座っている。

 

福の神で有名な「宇賀神」は蛇神や龍神とされ、その姿は、とぐろを巻いた蛇の上に人間の頭がのっている「人頭蛇身」になっている。
全国の宇賀神という苗字はこの神に由来する。

 

画像:PHGCOM

 

画像:PHGCOM

 

それに対して、欧米でヘビは今も昔も嫌われ者だ。
現代のほとんどの人間がヘビに対して、生理的嫌悪を感じるのはいまの日本人と同じとしても、ヘビはキリスト教世界で伝統的に忌み嫌われる存在だったという。

その最大の理由は聖書の中でヘビは悪魔の化身として登場し、イブをそそのかして、神から「けっして食べてはいけない」と言われていた知恵の樹の実を食べさせるという「罪」を犯させたからだとアメリカ人とイギリス人は言う。
これが人類が初めて犯した罪「原罪」だ。

神はイブをだましたヘビに怒り、罰として腹ばいで移動する運命を負わせた。

主なる神はへびに言われた、「おまえは、この事を、したので、すべての家畜、野のすべての獣のうち、最ものろわれる。おまえは腹で、這いあるき、一生、ちりを食べるであろう」

「口語訳聖書 Kindle 版」

 

ドイツ人から聞いた話でも、たしかにこの理由でヘビはキリスト教徒に嫌われていた。
でもドイツは寒いからそもそもヘビがとても少なくて、彼は人生で2、3回しか見たことない。
だからドイツではヘビが良い意味でも悪い意味でも、何かの文化の象徴となったという話は聞いたことがないと言う。

もちろん個人差や地域差はあって、ペットとしてヘビをかわいがる欧米人はいるし、「ヘビは友だちみたいなもんだよ」と翼君のようにさわやかに言ったオーストラリア人もいた。

 

イブを誘惑するヘビ
聖書の中で知性のあるヘビは人と会話して騙すことができた。

 

マレーシアのペナン島に行った時にはヘビをご神体とするお寺があったし、インドにもヘビ(たぶんコブラ)を神とする信仰がある。
日本を含めてアジアではヘビを恐れると同時に、これを敬って手を合わせ、願いごとをする宗教的な考え方が広くあるのだろう。
このへんは、ヘビを神から罰を受けた悪魔とみる欧米のキリスト教世界とはまったく違う。

 

 

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2 件のコメント

  • > 聖書の中でヘビは悪魔の化身として登場し、イブをそそのかして、神から「けっして食べてはいけない」と言われていた知恵の樹の実を食べさせるという「罪」を犯させたからだと・・・

    旧約聖書の話ですから、キリスト教だけでなく、ユダヤ教やイスラム教も含めてそうなのでしょうね。その点、ヘビを「悪魔の使い」と忌み嫌うのは、世界で一神教の地域及び時代だけのように見えます。他の時代・地域では、豊穣や金運を司る神様だったり、せいぜい神様・魔物の両面があるという見方が主流です。
    たとえば欧米でもギリシャ神話時代には、商業・知恵・泥棒の神様「ヘルメス(=ローマ神話マーキュリー)」がヘビの巻き付いた杖を駆使するという、すごく有名な話があります。実は、スーパーマンの胸のマークも、その「ヘルメス神の杖」が元ネタらしいですよ。
    日本、インド、東南アジア、中国でもヘビを神様とみなす話はあります。

    このように一神教においてのみ、ヘビが「悪魔」として忌み嫌われている理由なんですが、私が思うに、ヘビの姿が男根を連想させることと、ならびに、キリスト教を含め一神教の教えにおいては「性欲を抑圧すること」が大きな意味を占めているからだと思うのです。
    ヘビは男根の象徴だからこそ、性欲の抑圧とは関係が薄い日本神道、インド神話、中国民間伝承などでは、豊穣の神や金運の神として讃えられるのではないかな。見た目が「怖い」神様は、味方につければ「強く頼もしい」神様なんです。

  • 冒頭の写真、ちょっと問題があるのでは?
    下手すると「子供に対する虐待だ!」と、非難されるかもしれませんよ。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。