ディズニー映画の新作『War of Jenkins’ Ear』(ジェンキンスの耳の戦争)が来年3月に上映されることが決まった。
昼寝をしていた農夫・ジェンキンスの耳に入り込んで、そこが気に入って住み着いたアリと、そこから追い出そうとするジェンキンスとのドタバタコメディー。
‥といったら信じてくれるだろうか。
ジェンキンスの耳の戦争(War of Jenkins’ Ear)は18世紀に、イギリスとスペインとの間で起きたガチの戦争。
1739年のきょう10月23日、カリブ海での貿易をめぐって対立していた英蘭がついに激突した。
といってもこれ自体は大した戦いではない。
この翌年、ヨーロッパ大陸でフランス、オーストリア、ドイツ、イタリア、スウェーデンなどが同盟を組んだり、敵対して争うオーストリア継承戦争(1740年 – 1748年)がぼっ発し、「ジェンキンスの耳の戦争」で戦っていたスペインとイギリスもこの嵐に巻き込まれていく。
だからこの衝突が1740年のオーストリア継承戦争につながって、オーストリアのマリア・テレジアと結んだイギリスは、フランスやスペインの敵になったということを覚えておこう。
カリブ海でのイギリス軍・スペイン軍の戦い
画像:Benutzer:Frank Schulenburg
でなんでこの戦いが「ジェンキンスの耳の戦争」という、日本中がディズニー映画とカン違いするような名前になったのか?
経済の安定と平和を重視した「イギリス初の首相」といわれるウォルポールは、国内に高まるスペインへの怒りをなんとか抑えて争いを避けてきた。が、そうも言ってらんない事態が発生。
スペインに拿捕されたイギリス人船長のロバート・ジェンキンスが、その際スペイン人に耳を切り落とされたと主張し、塩漬けにされた自身の耳を証拠として議会に提出したのだ。
イギリス人はこの事件を他のいろいろな「スペイン人による略奪」事件とあわせて、イギリスの名誉に対する侮辱であり、明らかな開戦理由になると理解したという。
The incident was considered alongside various other cases of “Spanish Depredations upon the British Subjects”, and was perceived as an insult to Britain’s honour and a clear casus belli.
ウォルポール首相に切断された自身の耳を渡すロバート・ジェンキンス
彼の仲間はかつらを外して傷跡を見せている。
“切断された耳”を見せられ、「スペインだけは許せん!」とイギリス世論は沸騰し、ウォルポールも戦争に反対できなくなった。
ということで「ジェンキンスの耳の戦争」と呼ばれるようになる。
「いや、わたしは反対だったんですよ」とロバート・ウォルポール
こうして1739年10月23日からスペインとの戦争が始まって、そのままオーストリア継承戦争に突入し、最終的に終わったのは1748年のこと。
「ジェンキンスの耳」がイギリス・スペインとの10年戦争の原因となったわけなんだが、実はそれが、スペイン人によって切り落とされたという話には根拠がない(no basis in fact)。
本当にそうかもしれないし、まったくの別件で耳を切断されたという説もある。
こんなもん今さら確認できるワケもないし、いっそのことその設定で映画化したらいい。
でも国民への侮辱や蛮行は、国家が戦争を始めるに値するという考え方がイギリスにあったのはの事実で、これは今の日本じゃ考えられない。
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非常に多くの自国民に対して、たとえば「テロ行為による殺戮」などの蛮行を犯すような国がもしあれば、おそらく、どこの国でも戦争を始めるに値する理由となり得ますよ。2001年9月11日の米国での同時多発テロは、まさに、そのような戦争を始めるきっかけとなりました。
今の日本は米国とでは、その「きっかけとなるレベル」に違いはあるかもしれませんが、日本人にだって、国としてまとまって自己防衛する本能と権利は当然あります。それこそが軍隊の意味であり、義務と責任です。