【原作破壊】スペイン人、日本版ドン・キホーテに絶句する

 

すでにある作品をつくり直すことがリメイク。
オリジナルをリメイクし、再び世に出すことは映画やアニメでは当たり前のようにあって、その再構成の仕方は人にセンスが求められる。
キャラやストーリーがオリジナルに忠実だったり、ちょっと変更したリメイクは「移植」、大胆に作り直すと「魔改造」と言われることがある。

登場キャラやシナリオで、自分なりの表現や価値観を加えないと意味がないと考える作者はよくいるから、原作にオリジナル・テイストを加えた、ひと味違うリメイク作品になることは多い。
このチャレンジは諸刃の剣で、作品を出す側の個性や感性が受け手の共感を得ないと「コレジャナイ」と不評を買うことなる。

オリジナルを良い意味でも悪い意味でも、大きく変えると「原作クラッシュ」と呼ばれることがある。
そして原作のキャラ・シナリオ・世界観を、原形をとどめていないほど変えてしまうクリエイターには「原作ブレイカー」や「原作クラッシャー」の称号が与えられる。
それがうまくハマればいい。
リメイクに失敗して酷評されると、ネットでは永遠に消えない「大爆死」の汚名を着せられてしまう。

鳥山明氏が、

・『たぶんダメだろうな』と予想していたら本当にダメだった
・出来上がったのも案の定な出来のドラゴンボールとは言えないような映画だった

と語った『DRAGONBALL EVOLUTION』のみたいに。

 

 

きのう1月16日は、1605年に小説『ドン・キホーテ』(Don Quijote)が世に出た日。
騎士道モノの本を読みあさり、崇高で誇り高いその精神に心から感動したドン・キホーテが、自分は騎士道精神の体現者であると壮大なカン違いをして、「旅する騎士」となって各地で騒動を巻き起こす。
スペインの物語の中ではきっと日本で最も有名なこの物語は、1605年の1月16日、セルバンテスによってマドリードで刊行された。

なかでも風車を倒すべき巨人と思い込んで、馬に乗ったドン・キホーテが勇敢に戦いを挑んで、逆に吹っ飛ばされて野原を転げ回るシーンは有名だ。
これは自分の武勇にシットした魔法使いが、巨人を退治させたないために風車に変えたのだ!とホンキで思い込むのがドン・キホーテって人の思考回路。
とにかく脳みそが年中無休のお花畑だから、目の前にある現実を都合よく解釈して、見えない敵と戦ったり現実の人間に袋叩きにされたりする。

登場キャラがそれぞれ特徴的で際立ってるし、ストーリーもとても独創的でユニークなことから、『ドン・キホーテ』は地球規模で有名で日本では世界史の授業でならう。
個人的にもアニメやマンガを見ていて、「この元ネタってドン・キホーテやあの場面では?」と思ったことが何度かあり。

 

 

「巨人を駆逐してやる!この世から……一匹残らず!」と心に誓った(たしか)ドン・キホーテが剣(槍?)を抜いて風車に突撃するのが上の絵。
いやいや、これだとカッコ良く見えてしまうじゃないですか。
でも、実際のドン・キホーテは50歳ほどの当時では老人と言っていいで年で、長身でかなり細い体つきをしている。
その攻撃力はスライムと互角だ。しらんけど。
そんな彼が騎士道に心酔して、古いボロボロの鎧(よろい)を身にまとって、自分と同じく瘦せて貧相な馬ロシナンテに乗って、この世にはこびる悪を見つけて正義を実現する旅に出る。

そんなドン・キホーテにはロシナンテの他に、サンチョ・パンサという同行者がいた。
ドン・キホーテの思想や、「いつかおまえに島を統治させてやる」という約束にひかれた農夫のサンチョは彼を主人として共に世直しの旅に出る。
パンサとは「太鼓腹」のことで、彼は逆に太っちょで背が低くい。
昭和感のある言葉だと2人で「凸凹コンビ」という設定だ。

 

 

このドン・キホーテについて、日本に住むスペイン人から「あれはあり得ない!」と全身全霊でビックリしたという話を聞いた。
そのスペイン人とカフェで話をしていた時、ディスカウントストアの「ドンキ」についてどう思うかたずねたら、オリジナルのドン・キホーテには常識破り・挑戦者のイメージがあるから、あれには特に違和感はないし、ドンキの品ぞろえと値段には感謝しかないと言う。

【これはない!】スペイン人が“日本のドンキ”を見た感想

 

スペイン人の感覚で彼女が「こ、これは一体ナニ?」と衝撃を受けたのは、原案・セルバンテス、原作・河田雄、作画・行徒による『ドン・キホーテ』というマンガだ。
たまたまネットで、「見て!日本ではドン・キホーテがこんなふうになってる!」というスペイン人の投稿を見てそのマンガを知り、超絶イケメンのドン・キホーテを見て絶句。

そのスペイン人の頭の中では、ドン・キホーテはやせ細った貧乏貴族のおじいさんで、鎧を買うお金がなかったから、鎧のように見えるガラクタをかき集めてそれを身につけた。
スペインでは、頭におまるをかぶったドン・キホーテの絵を見たことがある。
そして人を乗せると、苦しそうな痩せ細った馬にまたがっている。
それにパンチョは「デブ」がデフォ(初期設定、当たり前)。
貧相で長身のドン・キホーテと丸々太った小柄のパンチョの対照的な組み合わせでないと、あの物語のユニークな世界観は成立しない。

にもかかわらず、日本のマンガに出てくるドン・キホーテとパンチョは、2人ともこの世の頂点に立つような美青年で、年齢や体格などすべての外見が真逆になっている。逆の意味での作画崩壊。
特にスペインで金髪の人は本当に少ないのに、農民のパンチョが金髪をしているというのは考えられない。
ドン・キホーテは現実とフィクションの区別がつかない、ひと言でいえば「クレージー」な人物で、思わず「プッ」と吹き出しそうな外見をしている。
行く先々で問題を起こしては人びとのヒンシュクや怒りを買うトラブルメーカー、いわば「歩く不幸フラグ」のはずなのに、日本のマンガのドン・キホーテにはその面影がまるでない。

 

著作権パンチをくらうからここにそのマンガの画像を載せられないので、くわしいことは各自で検索&確認してくれ。
表紙にある「憂い顔の騎士 その愛」という言葉も、スペイン人の感覚とはかけ離れている。
バカボンとパパが、『ベルばら』のオスカルとアンドレ並みに美化されてる感じ。
知人のスペイン人(おそらく全スペイン人)にとって、このマンガがありえないほどの「原作クラッシュ」なのは間違いない。でも、彼女はこれを読んだことがなくて内容は知らないから、どっちの意味での「破壊」かはまだ分からない。

イギリスの伝説的なアーサー王を美少女剣士にしてしまうとか、日本人は原作破壊をよくやる。
でも外国人の反応を見ると、「その発想があったか!」とか「むしろ良くなった」とかいうポジティブなものが多い。
『DRAGONBALL EVOLUTION』のような事故物件でもない限り、宗教に引っかからなかったらきっと大丈夫。

 

 

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2 件のコメント

  • これは「ずっこけ」とあるので、オリジナルに近いですね。マンガよりは。
    スペイン人的にもそう違和感はないような。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。