今からちょうど80年前の1942年7月28日、日本は太平洋戦争の真っ最中で、タバコの「金鵄」(きんし)のバラ売りが始まった。
アメリカ打倒に全集中していたこのころ、タバコの箱を製造する余裕もなくなったから、巻きタバコをバラで売ることにした。
でも、ここでの注目ポイントはそこじゃなくて、ここでの注目ポイントは「金鵄」という名前。
1906年(明治39年)に販売されたこのタバコの名称は「ゴールデンバット」だったのに、なんでコウモリからカラス(鴉)になったのか?
それは戦争だからさ。
アメリカとの戦争が近づいて、いわゆる「鬼畜欧米」の反米感情が高まってくると、日本の街中や日常生活で見られる英語が「敵性語」として憎まれるようになる。
それで「汚物は消毒だ~!!」みたいな雰囲気になって、敵国の“汚らわしいコトバ”を消して、日本国にふさわしい言葉へ言い換える動きが進められた。
「ゴールデンバット」が敵性語追放キャンペーンのターゲットになったのは言うまでもなし。
それで日本人からするとめでたくて、とっても気分がアガル「金鵄」に改名された。
「看板から米英色を抹殺しよう」と呼びかける雑誌(昭和18年)
「金鵄(きんし)」とは日本神話に出てくる鴉(カラス)のこと。
彦火火出見(ひこほほでみ)が敵の長髄彦(ながすねひこ)と戦っているとき、金色のカラスが降りて彦火火出見の弓に止まった。
すると、そのカラスの体から強烈な光が発せられて、「なっなんだ!まぶしいっ」と長髄彦の兵たちの目がくらみ、そのスキに彦火火出見の軍が攻撃をしかけ勝つることができた。
この戦いの後、彦火火出は日本の初代天皇・神武天皇として即位する。
そんな神話から金鵄には、神武天皇に勝利をもたらし日本建国を導いたという、日本人としてはこれ以上ないほどめでたくて、縁起のいいイメージがある。
敵軍にすさまじい光を放ち、神武天皇に味方する金鵄
それじゃ神武天皇の軍にも同じでは…とかいうツッコミはいらない。
1940年(昭和15年)に西洋風の「ゴールデンバット」が和風の「金鵄」に改名されると、困った事態が発生する。
このときパッケージデザインも変更されることになって、コウモリが消えて「金鵄」には神武天皇の弓が描かれた。
するとどんな問題が起こるか?
戦時中は天皇を“神聖視”する傾向があったから、「神武天皇の弓のあるタバコの箱を捨てたり、踏みつけることは不敬である!」といった批判が上がる。
時代が時代だから反論も無視でもできず、またデザインを変更するしかない。
そもそも論で言うと、禁煙すればよかったのだという個人の趣味は置いといて、それまでフツウだった言葉が敵性語として、憎悪の対象となるような状況が生まれなければよかった。
「鬼畜欧米」から「多文化共生」になったいまの日本でこんな問題は起こらない。
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