近ごろ日本での報道は少なくなった感があるけど、いまのウクライナに夏休みなんてない。
現在進行形で地獄が続いているから。
2月に軍事侵攻を始めたロシア軍は、首都キーウを数日で陥落させて勝利宣言をおこない、ウクライナをコントロール下に置くつもりでいたらしい。が、ウクライナ軍の驚異的な抵抗を受けて、半年すぎた今でも戦争は終わっていない。
首都制圧をあきらめたロシアはその後もウクライナの強い反撃をくらって、作戦の目的を次々と変更させられているというから、この戦争の「落としどころ」はなかなか見つかりそうにない。
その間にも、ショッピングモールにミサイルが撃ち込まれるという、アニメのシーンのような出来事がリアルで起こって多くの市民が犠牲になった。
そもそもロシアはなんでこんな軍事侵攻を始めたのか?
その目的についてロシア側は「ウクライナの“ナチス勢力”を駆逐して、人びとを民族虐殺から救うため」と主張する。
そうは言ってもゼレンスキー大統領はユダヤ系だし、いまロシア軍がしていることを見れば言ってることとやってることが一致していない。
また、欧米に近い立場のゼレンスキー政権はNATOへの加盟を目指しているが、NATO加盟国が隣にあるというのはロシアにとって認められない。
それでゼレンスキー大統領を力づくで排除して、ロシアの言うことを聞く傀儡政権を樹立したかったが、現時点ではその計画は失敗に終わった。
ウクライナへの侵攻はロシアでは「特別軍事作戦」ということになっていて、これに異論は許されない。だから国内で「戦争」「攻撃」「侵攻」と表現することは違法となる。
いまのロシアで、政府見解と違うことを主張するのはかなり危険だ。
「ロシアや国民を守るにはほかに方法がなかった」と言うプーチン大統領に対し、日本を含めて世界の多くの国がロシアによるウクライナ侵略と見て強く非難している。
ロシアにとしては悪いヤツを倒して正義を行なう「勧善懲悪」のつもりなんだろうが、第三者から見ればロシアが完全超悪だ。
では、ロシア国民はこのウクライナ侵攻をどう思っているのか?
最近、日本に住んでいるロシア人(20代の女性)に話を聞くと、先ほどのロシア政府の公式見解とは別のことことを言う。
もちろんそのロシア人に、「ウクライナ侵攻ってどう思うよ?」と直球を投げたワケではない。
そういう政治的な話題は避けて「タタールのくびき」について話を聞いていたら、彼女の口からその話が出てきた。
いまのロシア南東部やウクライナのある地域は「ルーシ」と呼ばれていて、13世紀には東スラブ人によるいくつもの「ルーシ諸国」があった。
そこに東からモンゴル人が攻めてくると、ルーシの人たちはもれなく支配下に置かれてしまう。
いまのウクライナの首都キーウは、モンゴル軍に滅ぼされるまでは「キエフ公国」というヨーロッパの大国があったところで、そこから現在のロシア、ウクライナ、ベラルーシが生まれた。
キエフ公国が消滅すると代わりにモスクワが台頭してきて、かつてのソ連やいまのロシアにつながっていく。
ルーシ諸国がモンゴル人に支配されていた時代は、世界史では「タタールのくびき」と言われていて、これはいまのロシア人やウクライナ人からすると屈辱的な闇歴史だ。
ロシア人の話では、ルーシにいた東スラブ人はそれぞれ国をつくってバラバラの状態だったから、モンゴル人は簡単に支配することができた。
でも、「タタールのくびき」という支配を受けて東スラブ人は団結し強くなった。
*モンゴル侵攻後、東スラヴ人にはむしろロシア人・ウクライナ人・ベラルーシ人の民族性の違いができてきたという指摘もある。以下の内容を含め、ここでの話は一人のロシア人の見方ということで。
その後もウクライナはロシア帝国やソ連の一部として、互いに協力し合う関係にあったのに、1991年にウクライナが独立して別々の国になった。
この判断は賢明ではなかった。
ロシア人もウクライナ人も同じ東スラブ人で両国は「兄弟の国」だから、団結したほうが互いに強くなるし、ウクライナの利益にもなる。
彼女としては、東スラブ人は分裂状態にあると弱くなって、「タタールのくびき」のような屈辱的な目にもあうけれど、一つになれば強力な国ができて互いが得をすると言いたいらしい。
つまり間接的に、ウクライナをロシアの一部にしようとする今回の侵攻を正当化している。
プーチン大統領もウクライナ人とロシア人は「歴史的に一体だ」と言って、ウクライナの“自立”を認めなかったから、こうした歴史観はロシアでは一般的なんだろう。
「同じ兄弟はひとつの家に暮らすべき」というのはロシア人の一方的な見方で、ウクライナ人には受け入れられない。
少なくとも、ロシア軍の仕掛けた地雷を除去している人たちには。
<<<日本での報道は少なくなった感
???「国防意識の欠如は、病気。
ヨーロッパによる過酷な支配を体験するか、モンゴル帝国による支配を体験するという治療法をおすすめします。
"経済の遅れ"、"宗教対立"という治療費を払う羽目になるけどな」